<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 BS世界のドキュメンタリー「追跡“ペガサス” スマホに潜むスパイ」 #230626

現在の社会は「民主主義vs専制主義」に分断されていると言われる。

ロシアによるウクライナ侵攻と中国の台頭が、私たち民主主義陣営で生きる人間たちに得体の知れぬ不安を与えている。

しかし、国家の指導者が自らの権力を握り続けるため国民を監視している国家はロシアや中国、北朝鮮だけではない。

むしろ世界の半数以上の国家は独裁的な指導者によって支配される専制主義国家と言えるのだ。

そして世界中の人が手にしているスマートフォンが、現代型の独裁体制を支えていることが明らかになった。

デジタルは独裁者にかつてない強力な武器を与えているのだ。

そんな私たちが知らないところで進行するスパイウェアの恐ろしい実態を暴いたドキュメンタリーが今月放送された。

『追跡“ペガサス” スマホに潜むスパイ』

フランスとアメリカの合作で今年製作された作品だ。

イスラエルにあるNSOグループ社が開発した「ペガサス」はテロや犯罪を阻止するという名目で諜報機関などが利用するスパイウェア。スマホの連絡先や通話、SNS、暗号化されたメッセージ、位置情報などが監視されるが、発見や消去は極めて困難。同社から流出した番号リストをもとに記者たちが被害者を特定し、その実態を世界中に公開するまでを追う。

引用:NHK

世界的なスキャンダルが明るみに出る発端はコロナ禍の2020年6月、パリに拠点を置く国際的なジャーナリスト団体「フォービドゥン・ストーリーズ」が入手した5万件の電話番号が載った1つのリストだった。

大半の電話番号は10カ国のもので、その政府は「ペガサス」を開発したイスラエルのNSOグループの顧客だった。

「ペガサス」は侵入した端末から全ての情報を盗むことのできるスパイウェア。

さらにマイクやカメラもリモートで操ることができ、そのスマホを持つ人物のプライバシーを知られずに監視することができる世界最高峰のツールなのだ。

団体では監視対象となっていた人物を割り出すために世界17の報道機関に共同取材を呼びかけた。

「The Pegasus Project」と名付けられたこの国際共同プロジェクトにはワシントンポストやイギリスのガーディアン、フランスのル・モンド、ドイツの南ドイツ新聞などが参加、アムネスティインターナショナルのセキュリティラボが技術面でプロジェクトを支えた。

1年がかりの地道な取材の結果、2021年7月世界各国のリーダーたちがペガサスを使って政敵や活動家、ジャーナリストや弁護士などを監視していた実態が明らかになった。

トルコのサウジアラビア総領事館で殺害されたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の事件でもペガサスが使用されたと噂が事件直後から流れていた。

そこで総領事館に同行していたカショギ氏の婚約者のスマホを解析した結果、ペガサスに感染していたことが判明した。

さらにアメリカに住むカショギ氏の妻のスマートフォンにもペガサスが侵入していた。

妻はサウジアラビアと関係の深いアラブ首長国連邦の空港で拘束されたことがあり、その際に通信機器を取り上げられペガサスに感染させられたと考えられるという。

妻は頻繁にカショギ氏と連絡を取り合っていて、その全てがサウジアラビアに筒抜けになっていたと見られるのだ。

リストの中で最も多くの1万5000を超える電話番号が記載されていたのがメキシコだった。

調査チームの一員となった著名なジャーナリスト、カルメン・アリステギさんは、リストに載っている電話番号を彼女が保有するジャーナリスト仲間などの番号と照合する作業を行なった。

すると政治家、弁護士、外交官、ジャーナリスト、人権活動家など次々とヒットしたのだ。

ペガサスによる攻撃が盛んに行われたのはエンリケ・ペニャニエトが大統領だった時期に集中していて、アリステギさんも大統領の疑惑を追及していた。

メキシコでは、連邦検察庁や軍、情報機関など複数の国家機関がペガサスを購入していた。

アリエフ大統領の独裁体制が続くアゼルバイジャンでもペガサスが使われていた。

リストに載っている1000件の番号の中には、体制批判を行っていたジャーナリストのハディージャ・イスマイロヴァの電話番号があり、チームが彼女のスマホを調べるとペガサスへの感染が確認された。

彼女は自分のことだけでなく、自らを信用して情報を提供した人たちへの罪悪感に苛まれている。

フランスの電話番号も1000件以上あった。

その中にはマクロン大統領や閣僚たちの番号もあり、元閣僚のスマホを調査するとペガサスに感染していて攻撃を仕掛けたのはモロッコだったことが判明した。

ある国家が別の国家を監視するためにもペガサスは利用されている実態が明らかになった。

ドバイの首長でもあるUAEのムハンマド・ビン・ラーシド首相は、娘のラティファ王女の行動監視にペガサスを使っていた。

王女が国外脱出を企てた時、王女や彼女の友人の電話番号が次々とリストに載り、数日後王女はインド当局によって拘束されて本国に連れ戻されたという。

ペガサスは、テロ対策などに有効なツールとして「信頼できる国家機関」にしか販売していないとされ、一般の人が入手することはできない。

しかし今回の調査報道により、NSOが主張するようなテロ対策とは何ら関係のない用途にペガサスが悪用されている実態が明らかになったのだ。

イスラエルのNSOグループは、2010年に3人のメンバーで設立された新興企業だが、現在は世界40カ国の国家機関を顧客とする企業価値10億ドルの大企業に成長した。

イスラエル軍には「8200部隊」と呼ばれるサイバー部門があり、NSOはその出身者を常に採用しているという。

8200部隊の元隊員の証言。

『イスラエルの強みは新しい技術や兵器を実際に試すことができるということです。そしてこういう技術が売り物になるということもよくわかっています。パレスチナ人のような大きな集団を管理下に置く場合、あらゆる場所にスパイが必要です。たとえば、イスラム組織ハマスのテロリストを探るには、身近な親類、近所の人、街角のミルク売りの情報まで集めようとします。誰かをスパイとして使いたければ、その人物の弱点を握り脅迫します。あらゆる人を対象に脅迫できる材料を集めることも8200部隊の任務の一つです。性的嗜好や病気、金銭トラブル、本人だけでなく家族の事情も脅迫のネタになりえます。そうした情報で相手を脅して協力させるんです。』

ワシントンポスト紙記者の証言。

『イスラエルの情報機関は、退役した元隊員たちにIT企業を立ち上げさせるなど戦略的に活用しています。政府と元隊員たちが密にコミュニケーションを取り続け連携していくことが、国の安全保障にとって有益だと考えているのです。』

ガーディアン紙記者の証言。

『NSOグループがネタニヤフ政権の支援を受けていたことを示す証拠はたくさんあります。製品を世界各国の政府に販売するには、イスラエル国防省からの許可が必要でした。』

イスラエルの記者によれば、ペガサスを利用している国の導入時期とネタニヤフ首相の外交日程には目立った関連があるという。

中東のUAE、バーレーンなどがペガサスを導入したのは、2020年にイスラエルがこれらの国と国交を正常化した時期とも重なるのだ。

イスラエル紙記者の証言。

『強力な情報機関を持たず、また高い技術力のない国々にとって、ペガサスというスパイウェアがどんな価値を持つか、イスラエルはよくわかっていました。政府はペガサスを外交の道具として利用しています。相手国にスパイウェアを提供し、引き換えに自分たちが欲しいものを引き出す。交渉の手段としてペガサスを利用しているのです。』

ペガサスプロジェクトの調査報道は2021年7月18日、参加したメディアで一斉に行われた。

調べてみると日本でもこのニュースが伝えられていることが確認できた。

それでもそれほど大きな注目を集めなかったのは日本が標的に含まれていなかったからだろう。

日本人は、直接日本に関係するニュース以外にあまり関心を払わない。

それだけ平和な社会だということでもあるが、世界には日本とは異なるさまざまな国があって、そこでは私たちが想像もできない人権侵害が行われている。

もしも自分のスマホが当局によって常時監視されていると考えてみれば、その恐怖は容易に想像がつくだろう。

マイナンバーカードのミスでこれほど大騒ぎしている日本は幸せだと心から感じるドキュメンタリーだった。

180部隊

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