<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 ロシアの軍事侵攻がもたらしたEU・NATOの団結とアジア拡大 #220629

記録的な猛暑と電力不足のニュースに押され、日本のテレビではさほど大きく扱われていないが、今年のG7サミットとそれに続くNATO首脳会議は、最近では例がないほど重要な転換点になりそうだ。

ドイツのエルマウで開かれた今年のG7サミットは、ロシアへの制裁強化、ウクライナへの支援拡大で合意して閉幕した。

議長役を務めたドイツのシュルツ首相が「時代の転換であり過去の状態に戻ることはできない」と述べたように、ロシアによる軍事侵攻が西側諸国の団結をかつてなく強めたという印象の強いサミットであった。

具体的には、ロシア産の金の取引に制限を課し外貨獲得を妨げることで合意、原油取引についても価格の上限を設ける方向での検討が始まる。

さらに目についたのは、ロシア制裁に消極的なアフリカの代表を招き、G7側に取り込もうという動きが見られたことだ。

これに対しロシアは、G7の動きに反発するようにウクライナ国内に対するミサイル攻撃を強化した。

27日には、ウクライナ中部クレメンチュクのショッピングセンターにミサイルが撃ち込まれ、少なくとも20人が死亡、多くの負傷者が出ている。

ゼレンスキー大統領は「欧州史上最も恥知らずなテロ行為」だとしてショッピングセンターへの攻撃を非難。

ショッピングセンターにミサイルが着弾した瞬間とされる映像を自身のインスタグラムにアップした。

このところ平穏だった首都キーウにもミサイル攻撃があり、集合住宅が破壊された。

G7の首脳たちも「罪のない民間人への無差別攻撃は戦争犯罪にあたる」とロシアを強く非難したが、ショッピングセンターへの攻撃についてロシア側は否定、直後からネット上にはロシアが拡散したと見られる偽情報が氾濫しているという。

焦点となっている東部での戦闘は、ロシア軍がジリジリと前進を続けている。

ルハンシク州の要衝セベロドネツクがついに陥落し、ウクライナ側は川を挟んだ対岸のリシチャンスクに後退して態勢の立て直しを図っているという。

サミットにオンラインで参加したゼレンスキー大統領は「年内に戦争が終わることを希望する」と述べ、さらなる軍事支援を求めた。

冬が来るとウクライナ側に不利になるとの判断があるようだ。

今回のサミットでもう一つ注目したいのは、インドやインドネシアといったアジアの大国も招待され、ロシアだけでなく中国への対抗心がこれまで以上にはっきりと示されたことだった。

トランプ時代、中国に対して宥和的な姿勢を示してきたヨーロッパ諸国がここにきて中国への警戒心を隠さなくなった。

香港やウイグルなどでの人権問題に加えて、中国が世界各地で進める一帯一路の途上国援助が西側諸国にとって危険だという認識が強まったからだろう。

今回G7が一致して総額6000億ドルのインフラ支援を決めた背景には明確に中国に対抗する意思が示されている。

G7サミット以上に注目されるのが、スペインで今日から開かれるNATOの首脳会議である。

最大の注目点は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて長年の中立政策を捨ててNATOへの加盟を申請したフィンランドとスウェーデンも扱いだったが、強硬に反対していたトルコが会議直前に両国首脳と会い、加盟を承認すると表明した。

クルド人の扱いが障害となると見られていたが、裏では激しい駆け引きが演じられたことが想像できる。

アメリカがトルコを厳しく脅したことも考えられるし、クルド人を見捨てる決定をした可能性もある。

いずれにしてもこれによって、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は事実上決まり、プーチン大統領にとっては大きな痛手となったことは間違いない。

ウクライナの次に標的にされるリスクが高かったバルト3国の背後にあった空白地帯がNATOの色に染まることになったのだ。

さらに、ロシアの攻撃に対応するNATOの即応部隊を現在の7倍以上の30万人に増強することを決めた。

今回のウクライナ侵攻に当たっても、NATOは兵士をウクライナ領内に送ることは避けたが、すぐに隣接する東欧諸国やバルト3国に即応部隊を派遣し、臨戦態勢を取った。

これまでの即応部隊はロシア軍に比べて少ない戦力で、象徴的な意味合いが強く、万一攻撃を受けた場合には各国の兵士に死傷者が出ることで、各国国民の怒りに火をつける捨て石的な存在でもあった。

しかし30万人というのは、ガチで侵攻を食い止めるための戦力とみなすことができ、その意味合いは大きく変わったということだ。

普段から内部で意見が対立するNATO諸国がこれほど速やかに部隊の増強で合意したことは、いかにウクライナ侵攻のインパクトが多かったかを示している。

そしてヨーロッパの安全保障に特化していたNATOが、中国を脅威と見做し始めたことも、ロシアの軍事行動の副産物として極めて大きな変化だといえる。

その点で今回のNATO首脳会議で注目されるのは、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国が初めて招待されたことである。

日本の岸田総理もサミット終了後その足でマドリッドに入った。

これは東アジアの安全保障にとって極めて重要な転換点となる動きだ。

アジアでは日米、日韓、日豪と各国がアメリカと個別に軍事同盟を組んでいるだけで、NATOのような地域包括的な軍事同盟は存在しなかった。

しかし中国の軍事的な脅威が高まったことで、アメリカ主導によりアジア太平洋地域の4カ国をつなぐ新たな枠組みが形成される可能性も出てきたのだ。

当然、台湾有事がアメリカの念頭にはある。

ただ、ヨーロッパと違いアジアでは中国の影響力が非常に強いため、東南アジアの国々なども中立的な立場を取り、南アジアの大国インドも独自の路線を曲げないため、中国包囲網を構築するのは容易ではない。

そこで最も信頼を置けるヨーロッパの同盟国、すなわちNATOを巻き込んで、中国包囲網へ組み込もうというのがアメリカの戦略なのだと想像される。

さらにアメリカは28日、ロシア軍を支援したとして中国企業5社に事実上の禁輸措置を課すと発表した。

制裁を科したのはコネック・エレクトロニックやキング・パイ・テクノロジーといった電子部品などを扱うメーカーで、ウクライナ侵攻後も、ロシア軍などに製品の供給を続けたと批判している。

ロシアは孤立を避けるため、中国との関係を一層強化していて、今後アメリカの制裁がますます中国に向けられる可能性も高まってくるかもしれない。

こうしたアメリカを中心としたNATOの動きに対し、中国は当然強く反発している。

中国の「人民網日本語版」には、『中国「NATOはウクライナ危機を口実に新冷戦を仕掛けてはならない」』と題する記事が掲載されていた。

中国の張軍国連大使の発言として、新華社は次のように伝えたという。

張大使は「平和を愛する世界の全ての国々や人々と同じく、中国もNATOの戦略調整を注視し、NATOのいわゆる『戦略概念』文書の政策的含意を深く懸念している。NATOには、他国の脅威をしきりに口にする指導者達がいるが、実はまさにNATO自身が世界各地でトラブルを作り出しているのだ。中国はNATOに、教訓を汲み取るよう促す。ウクライナ危機を口実に世界規模でブロック対立を扇動し、『新冷戦』を仕掛けてはならない。アジア太平洋地域で仮想敵国を探し、摩擦と分断を人為的に作り出してはならない」と指摘。

「中国は、NATOがアジア太平洋地域にさらに触手を伸ばしたり、軍事同盟に基づく『アジア太平洋版NATO』を形成するよう扇動したりする一部勢力に断固として反対する。とうに時代後れとなった冷戦のシナリオをアジア太平洋で再演しては断じてならず、世界で起きている動乱や戦乱をアジア太平洋で起こすことは断じて認めない。アジア太平洋地域の国々は一様に、苦労して得られた平和と繁栄の局面を大切にしており、互恵協力に焦点を合わせて共に発展と振興を図ることを期待している。歴史の潮流に逆らって動くいかなる者の企ても、前途なき定めにある」とした。

引用:人民網日本語版

まさか、ロシアのウクライナ侵攻が、「アジア太平洋版NATO」の形成に向かうとはさすがの中国も当初は予想していなかったと思われる。

ロシアに加担しすぎないよう中立の立場をキープして静観するつもりだったのだろうが、今回のウクライナ危機では中立や棄権もロシア寄りと見做されるヨーロッパの空気を読み誤ったのかもしれない。

皇帝になろうとしたプーチン大統領の決断は、彼が予想しなかったところまで世界のブロック化を押し進めている。

スイスで最近ロシアのスパイが増加しているという情報も目にした。

ウクライナ侵攻後、ヨーロッパ各国が自国で活動していたロシア人スパイを追放したため、彼らが中立国のスイスに集まって情報収集を行なっているというのだ。

まさに名画「第三の男」の世界に逆戻りだ。

NATOが強い態度に出たとしても、ロシアや中国が素直になるとは考えられない。

各国のリーダーたちが国内世論を意識して前のめりになればなるほど誰も望まない破局に向かっているのではないか。

突発的に第三次世界大戦が起きなければいいがと、個人的にはこれまでになく不安が高まっている。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 対独戦勝記念日までに決着つかず、戦争の長期化は世界的危機に繋がるのか? #220509

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