2年ぶりになる対面でのG7サミットが、イギリスのコーンウォールで始まった。
トランプさんがいなくなったことで、仲良しクラブの雰囲気が戻ってきて、菅総理も東京オリンピックに強力な選手団を送るよう各国に求めて支持を得たようだ。
今後は、菅総理のワンパターン答弁に「G7首脳からもオリンピック開催の支持を得た」というフレーズが取り入れられることになるのだろう。
これで一つ、菅さんの目的は達成された。
そして今年のサミットにおける重要なテーマは「中国」である。
サミットに先立って開かれた米英首脳会談。
バイデン大統領とジョンソン首相は8項目からなる「新大西洋憲章」を発表した。
これは第二次大戦中の1941年にルーズベルトとチャーチルが発表した「大西洋憲章」をモデルにしたもので、「民主主義の原則や価値観、仕組み、それに開かれた社会を断固として守る」として体制を異にする中国やロシアとの対決を宣言するものだった。
世界の政治経済を牽引してきたG7が、ここまで露骨に中国を敵視するようになった裏側には強い危機感がある。
中国国内の人権問題はあくまで口実であり、危機感の実態は周辺国を脅かす軍事力に加えて、デジタルやバイオ、宇宙といった未来の覇権につながる最先端分野においても、中国がG7諸国の脅威となったからだ。
最近見た番組で、それを強く感じたものがあった。

NHKスペシャル「2030 未来への分岐点(4)“神の領域”への挑戦〜ゲノムテクノロジーの光と影」。
NHKが今年力を入れている大型シリーズの1本だが、前作3本に比べてはるかに刺激的な内容だった。
いま人類が抱える様々な課題。2030年ごろ、限界に達すると言われています。資源の大量消費、人口爆発と食糧問題、そして加速する温暖化。飽くなき人間の活動が、地球の運命を左右し始めています。
さらに、急速に進化するテクノロジー。使い方次第で、未来の明暗が大きく分かれることになります。
危機を乗り越える道筋を探るシリーズ2030。第4回は、生命そのものを操る最先端技術、ゲノムテクノロジーです。
いま人類は膨大な遺伝情報「ゲノム」を解析し、思い通りに操作し始めています。その技術は、変異を続ける新型コロナのワクチンや治療薬の開発にも利用され、パンデミックに立ち向かう重要な武器となっています。
さらに、人類を悩ませてきたがんなど、重い病の克服や、食糧危機といった地球規模の課題解決に大きな期待がかかっています。
これまで膨大なコストがかかっていたゲノム情報の解析。2030年には限りなくゼロに近づくと試算されています。人びとがあらゆる生命を自在に操作できるようになったその先に、何が待ち受けているのか。
人類の欲望に歯止めがかからず、技術が暴走していく未来…。
誰よりも美しく。そして誰よりも能力が高い。思い通りの子どもを生み出すデザイナーベビーの誕生。
人間の価値がゲノム情報をもとに判断され、優れた遺伝子をもつ者と、そうでない者の格差が広がり続ける社会。
未来の世代の運命をも変えつつある人類。光と影が交錯するこの技術を制御することはできるのか。2030年までの10年、歩むべき道を探ります。
引用:NHK

ゲノムテクノロジーの問題を取り上げた番組はこれまでにもたくさんあったが、この番組を見ながら私が衝撃を受けたのは、取材対象のほとんどが中国だったことだ。
以前この手の番組は、アメリカやヨーロッパでの取材が中心だった。
たとえば上の写真は杭州市にあるがん専門病院。
年間16万人の末期がん患者が入院するこの病院では、ゲノムテクノロジーを応用した臨床試験がすでに始まっている。
がん細胞と戦う「キラーT細胞」の遺伝情報、すなわち「ゲノム」を最新の技術を使って思い通りに操作することによって、がん細胞への攻撃力を高め、増殖を抑え込むことができるという。
担当の医師はこう話す。
「中国ではゲノムテクノロジーにより新しい治療が次々と生まれ、医療を変えはじめています。1日でも長く生きたければ、この新しい治療方法を試す価値があるでしょう」
日本や欧米に比べて、中国では人間を使った臨床試験のハードルが低く、これが続けば他国の研究者が喉から手が出るほど欲しい研究成果を中国が独占する可能性があると感じた。

何十億にも及ぶゲノムの配列を書き換える「ゲノム編集」の技術。
その可能性を広げた「クリスパー・キャス9(ナイン)」という画期的な技術を開発したのは、去年ノーベル賞を受賞したアメリカのジェニファー・ダウドナ博士だった。
博士が論文を発表したのは2012年。
しかしそれからわずか10年も経たないうちに、ゲノム編集の技術はとても身近なものとなりつつある。
そして海外で生まれた基礎研究を踏まえて、国家プロジェクトとしてゲノム編集に取り組んでいるのが中国なのだ。

この技術を急速に発展させようとしているのが中国です。2030年までの10年で科学技術の強化を目指し、ゲノムテクノロジーを成長分野の大きな柱のひとつと位置づけています。ゲノム編集に関連する特許の数は当初、アメリカがリードしていましたが、2016年に逆転。世界の最前線となりつつあります。
引用:NHK
人間が思い通りの生き物を作り出すことが可能になるゲノム編集の技術。
まさに神の領域に踏み込む歴史的な転換点ともなる技術なのだが、まだあまりに新しい技術なので、国際的なルールがまったくできていない。
当然のことながら倫理的な問題があるため欧米各国では自主規制が設けられているため、一段と中国の異質性が際立つ分野ともなっている。

中国・蘇州にあるバイオ企業「サイヤジェン社」。
コロナ禍の今、ここで生み出される実験用マウスに世界中から注文が殺到しているという。
この会社が開発したのは、一部の遺伝子を人間のものに改造したマウス。
通常のマウスは新型コロナに感染しないが、ゲノム編集されたマウスはコロナウィルスに感染するため、ワクチンや治療薬開発のための実験に使われているのだ。

「サイヤジェン社」の生物情報設計室では、白衣を着た研究者たちがパソコンに向かって黙々と作業をしていた。
画面に表示されたゲノム配列、つまりA、G、C、Tという4種類の塩基記号をまるでプログラミングのように書き換えていくだけ。
実に単純な作業のように見える。
こうして顧客の要望に応じてゲノムの配列を変えた受精卵を作り、別室で麻酔をかけた母親マウスの体内に移植していくと、自然界には存在しないマウスが大量に生産されていくのだ。
サイヤジェン社の韓藍青社長の言葉には、ゾッとした。
「我々にとって生命とはデジタル情報の集合体なのです。私たちはあらゆる生命のゲノム編集を可能にする技術を手にしました。創造の可能性は無限に広がっています。」

こうした最新のゲノムテクノロジーは2030年ごろまでに大きな進化を遂げると言われている。
去年、アメリカのシンクタンクが報告書をまとめました。背景にあるのは、ゲノム情報を解析するコストの急速な低下。2000年にはおよそ100億円かかっていましたが、2030年には限りなくゼロに近づくと試算されています。
人類があらゆる生命の設計図を手にし、操作できる可能性が飛躍的に高まるのです。報告書では、大きな可能性の一方で、懸念されるリスクについても指摘しています。
そのひとつが、遺伝子操作によって未知のウイルスが作り出され、人類の脅威となる可能性。
そして、人間の受精卵を操作して、子どもに望む特徴をもたせることの問題を懸念しています。
引用:NHK
ゲノムをいちから合成して「馬痘ウイルス」という感染力の強いウイルスを人工的に作り出す実験もすでに成功していて、人類を危機に陥れるようなウィルスを人工的に作り出す技術はすでに出来上がっているらしいのだ。

さらに衝撃的だったのは、雲南省にある世界最大級の霊長類研究所「霊長類生物医学重点実験室」。
ここには4000頭のサルが飼育されていて、ゲノム編集を使った実験が繰り返されているという。
ここでおこなわれている最新の研究とは…。
昆明理工大学 季維智(キ・イチ)教授「我々は、ヒトとサルの細胞が混ざったキメラを作りました。まだ細胞実験の段階で、実際に誕生したわけではないですが、遺伝的に近い生物のキメラをどのように作るのか、その仕組みを研究しています」
異なる遺伝情報をもつ細胞が混ざった混合体、「キメラ」。細胞レベルでの研究は認められていますが、実際に人間と他の生き物のキメラを誕生させることは、世界中の多くの国で禁止されています。しかし、季維智教授はこの研究が将来実用化されれば人類のためになると、その意義を語りました。
季教授「人間と他の生物のキメラを作る理由。それは将来、他の生物の体の中で人間の臓器を作り出すためです。これは、移植用の臓器不足を補う技術なのです」
引用:NHK
中国では他国よりもハードルが低い。
たとえ臓器移植用の実験だとしても、禁断の領域に確実に踏み込んでいる。
かつて満州で人体実験を繰り返した悪名高き日本軍の「731部隊」を想起させる。

激しい先人争いをする中国人研究者の中には、完全に一線を超えてしまった人もいる。
南方科技大学の副教授だった賀建奎氏。
彼は2018年、「人間の受精卵をゲノム編集し、「エイズウイルスに感染しにくい」双子の女の子を誕生させた」と発表し世界に衝撃を与えた。
「私たちは人間の特定の遺伝子をデザインすることが実際に可能か、評価しました。組織病理学の観点から、心臓、肝臓、肺、胃は正常でした」
彼はそう胸を張ったが厳しい批判にさらされ、中国当局は違法医療行為の罪で賀氏を逮捕し公の場から姿を消した。
番組ではここまでしか伝えられていなかったが、気になったので調べてみると、深圳で行われた裁判で賀氏には懲役3年の実刑、罰金300万人民元(4700万円相当)の判決が下ったと中国メディアが報じているが、生まれた双子の女の子ルルとナナがその後どうなったのかについての情報は得られなかった。
中国のことだから、ひょっとするとそのまま別の研究者が双子の経過観察を続けているかもしれない。

この事件の後でも、中国では人間の受精卵を使ったゲノム編集の研究は行われている。
重い遺伝病から患者を救うという純粋に医学的な目的から行われている場合が多いようだが、こうして知見が蓄積されていくと、容姿や能力など親が望むような子供を作る「デザイナーベビー」への可能性を広げることにもなるだろう。
中国人は人一倍、子供のためにお金を注ぎ込む傾向が強い。
大金を注ぎ込んでも自分がデザインした通りの赤ちゃんを産みたいという資産家がきっと必ず現れる。
「スターウォーズ」に登場するクローン兵士を人工的に作り出すことだって夢ではないのだ。

「人民網日本語版」には、中国の火星探査機「天問1号」から送られてきた火星表面の写真が大きく掲載されていた。
来月に控える「中国共産党創設100周年」を前にますます国威発揚に務める中国。
「脳ある鷹は爪を隠す」と言って経済優先を貫き、14億人の巨大国内市場を背景に世界中の企業の投資を呼び込んで、「世界の工場」として最先端技術を吸収し続けてきた。
40年前に鄧小平さんが敷いたレールによって中国が世界第2の経済大国となり、ついに習近平さんの時代になって隠していた爪を世界に見せつけ始めた。
もはや社会主義ではなく「国家資本主義国」と言われる習近平の中国。
G7がこの中国に勝つためには、中国依存から脱し大きな経済的な犠牲を払う覚悟が必要だが、果たしてそれは可能なのだろうか?
中国という魅惑的な阿片は、すでにG7諸国の隅々まで蝕んでいるように思えてならない。