<吉祥寺残日録>統一教会問題に矮小化してはならない!終戦の日に宗教と政治の関係を考える #220815

安倍元総理の暗殺をきっかけに浮上した旧統一教会と政治の問題は、事件から1ヶ月以上経っても収まるどころか日に日に大きくなってきている。

岸田総理は、疑惑を持たれた大臣を総とっかえするために内閣改造を急いだのだが、新しく選んだ大臣らの中から次々に統一教会と関係を持った者たちが現れ、収拾がつかなくなってしまった。

ここぞとばかりに、メディアも統一教会報道を加熱させているが、そんな中でTBS「報道特集」が統一教会と韓国KCIAの関係に言及していた。

インタビューに応じたアメリカの統一教会政治部門の元幹部アレン・ウッド氏は、次のように語った。

『文鮮明氏は1970年代初めから日本・韓国・アメリカで政教分離を崩壊させることが目的だと話していました。政治と宗教を融合させ1つの組織にしたうえで自分がそのトップになることを思い描いていたのです』

番組では統一教会と政治の関係の始まりについて次のように説明した。

政治と宗教が分離していない世界でトップに立つ。文氏が最初に政治に接近したのは、教団設立から7年後の1961年、軍事クーデターにより朴正煕氏が権力を掌握し始めた時期だった。アメリカ議会下院の報告書(1978年)には、「KCIAの創設者である金鍾泌が政治手段として統一教会を組織した」。KCIAは北朝鮮に対する諜報活動などを行う当時の情報機関。その初代トップで朴正熙大統領の最側近・金鍾泌氏に文氏は反共産主義を掲げることで接近し互いに利用し合う関係になったという。

ウッド氏の証言『KCIAは韓国政府の優位性を保つためにアメリカの統一教会を操り利用していました。朴正熙の名前はしょっちゅう聞きました』

1970年代のKCIAを知る元職員が匿名を条件に報道特集の取材に応じた。

元職員の証言『教団は見返りにさまざまな要望をしてきた。たとえば「公務員用パスポートを発行して欲しい」と。これは一線を越えていると判断し却下した』

日本の国会議員についての要望もあったという。

元職員の証言『日本の国会議員らが“反共の砦”である板門店を見学したいといっている、なんとかしてほしい」と教団側が要望してきた。当時jは国連軍の管理下だったので我々が交渉し、何度か実現させた』

アメリカ議会下院の報告書には、統一教会とKCIAとの間で“金銭のやりとり”があったことなども記されている。

議会の報告書『KCIAは日本の信者らに反共活動に参加した報酬として3000ドル(約89万円)を支払った。アメリカの教団幹部は日本の教団幹部から22万3000ドル(約6420万円)を受け取った』

引用:TBS「報道特集」より

こうして反共を掲げ保守政権とつながりを深めた統一教会だが、冷戦が終わり反共の効き目がなくなったと見るや、文鮮明氏は1991年北朝鮮を電撃訪問し金日成主席と会談した。

アメリカの国防情報局の文書によれば、訪朝の際、文氏が金日成主席に4500億円を渡し、93年にも金正日総書記に約300万ドルを誕生日プレゼントとして贈ったという。

「教団は時の政権に取り入るためその理念を変えてきた」とウッド氏は指摘する。

ウッド氏の証言『たとえば60年代や70年代には統一教会が人工妊娠中絶に反対していたことなど一度もありませんでした。しかしキリスト教右派にアプローチし始めると突然中絶に対して強硬に反対し始めたのです。つまり何より大事なのは権力なのです。信仰は関係ありません。一層の権力を手にするためにあらゆるものを利用するのです』

引用:TBS「報道特集」より

つまり、もともと統一教会は普通の宗教ではなく、政治と一体だったということなのだろう。

Embed from Getty Images

統一教会と日本の政治家との接点も、「反共」と日韓国交正常化交渉という時代の要請に応じて生まれた。

産経新聞の昔の記事で、元公安調査庁第2部長の菅沼光弘氏がインタビューに答え当時の時代背景を説明していた。

菅沼さんは「日韓関係は常に米国の意向に左右される。日韓国交正常化も、慰安婦問題の解決も、とにかく陰に米国の強い要請があった。特に国交正常化交渉は、朝鮮戦争の後、韓国が疲弊し、このままでは共産政権になるという危機感もあった。朝鮮戦争で経済を立て直した日本から、これまで米国が支えていた財政支援を日本に肩代わりさせようと、交渉を急がせたんだ」

 1965年に実現した国交正常化は、予備交渉も含め14年かかった。51年、最初の交渉相手は、反日で知られる李承晩大統領。翌年には突然、日本海上に「李承晩ライン」を設定、竹島を含めた広大な水域への漁業管轄権を一方的に主張し、日本の漁船を次々に拿捕(だほ)した。当然、交渉は遅々として進まず、経済優先を掲げる朴正煕大統領が61年に政権を掌握し、交渉が本格化した。

 「国交正常化交渉において、日本にとって最も障害になったのが、李承晩ライン。漁業権の問題が非常に大きく、拿捕された漁民は、山口県が一番多かった。そのため岸(信介)さんが、いろいろと動いた」

 著書によると、日韓交渉の裏ルートは2つ。1つ目は、KCIA(韓国中央情報局)の初代部長を務めた金鐘泌と児玉誉士夫ライン。2つ目が、大統領府秘書室長だった李厚洛と矢次一夫ライン。「今の日韓には、裏のチャンネルがないのが問題。当時は国士というか任侠(にんきょう)というか、とにかく、民間人でありながら、国のために尽くす人がいた。今は、議員外交とかいって外国詣でを繰り返すが、半分が自分のためだ。国として裏工作を担うシステムがない。そうしているうちにドンドン、国益が失われていく」

引用:産経新聞

「政財界の黒幕」と呼ばれた児玉誉士夫氏は、統一教会と自民党を結びつけたとされる岸信介元総理の盟友である。

岸さんが首相の座を降りることになった日本国内の学生運動・労働運動に対処するという「反共」のニーズと共に、日韓両国で反対運動が盛り上がった日韓交渉とまとめるために統一教会には利用価値があったに違いない。

事実、各大学内には「原理研究会」と呼ばれる統一教会の下部組織が作られ、学生運動を繰り広げる左翼と対峙していく。

こうして見ていくと、旧統一教会はとても宗教団体とは呼べない組織だということがわかる。

しかしメディアによる昨今の統一教会報道を見ながら、「事の本質はどうもそこではないのではないか」と私は感じてしまうのだ。

信教の自由と同時に政教分離を謳う日本国憲法の下で、政治はどこまで宗教との関係が許されるのか?

その重要なポイントが曖昧なまま、統一教会以外にも多くの宗教団体が政治に深く食い込んでいる状況を私たちは知っていながら見逃してきた。

安倍さんの事件をきっかけに久しぶりに日本政治のタブーに脚光が当たったのだから、ぜひより根本的なところで国民的なコンセンサスを得る努力をしてもらいたい。

今日は終戦の日である。

あの敗戦から77年が経った。

日本国憲法に盛り込まれた政教分離の原則も、政治と宗教が一体化した戦前の日本の反省から生まれたものだ。

そもそも日本の敗戦の原因はどこにあったのか?

それは真珠湾攻撃ではないだろう。

15年戦争と呼ばれる昭和の戦争は、1931年の満州事変から始まっている。

満州事変は日露戦争の勝利によって日本が満州の権益を手にしたことから始まっていて、元を辿れば明治政府の富国強兵政策に行き着く。

江戸幕府を滅ぼした薩長主体の明治政府は、欧米のような中央集権国家を目指して天皇を神格化し、国家神道を生み出した。

「日本は神の国」

危機が深まれば深まるほど、理性的な議論は封じられ根拠のない神話が大手を振ってまかり通った。

満州事変の仕掛け人である石原莞爾は、日蓮宗の僧侶・田中智学の影響を強く受けていたとされる。

田中智学は日蓮宗の改革を目指し、皇祖皇宗の日本国体を法華経のもとに体系化することを究極の目標として、「国柱会」を立ち上げる。

日本の侵略の大義とされた「八紘一宇」という概念を最初に提唱したのも田中智学であった。

田中は「立憲養正党」という政治団体も立ち上げて政界進出も目指したがこれはうまくいかず、むしろ「国柱会」の会員だった石原莞爾の「世界最終戦論」や満州国建国に強い影響を及ぼすことで時代を動かした。

しかし、田中のように強い信念を持つ宗教家は政治と結びつくことによってその影響力を高め、社会を変えようとするのだ。

この「国柱会」は戦後も田中の子孫によって存続し、自民党保守派の支持母体である「日本会議」へも繋がっているという。

また公明党の母体である創価学会や自民党の支持母体である霊友会、民主党との関係が深い立正佼成会はいずれも日蓮宗系の新宗教であるというのも興味深い。

こうして多くの宗教団体が特定の政党や特定の政治家を支援する形で政治とのつながりを持ち続けているのが日本の現状だが、私を含めその実態について知る有権者は少ないだろう。

もちろん宗教団体にも特定の政党を支援する権利はある。

問題は、そのことによって宗教団体の意向が政治に影響を与えていないかどうか、政教分離の原則に反した点がないかどうかという点だ。

就任早々、河野太郎消費者庁担当大臣が旧統一教会の問題について検討する委員会の立ち上げを発表したが、いっそのこと統一教会に限らず、政治と宗教の関係について国民に納得できるルールをぜひ作ってもらいたい。

宗教とは、生活が苦しい人が増えれば増えるほど栄える傾向にある。

現代の日本で無宗教の人が多いという事実は、相対的に幸せな社会に我々が暮らしていることを意味しているとも言える。

しかし貧富の格差が拡大し生活に困窮する国民が増えてくてば再び宗教が日本社会で力を伸ばす可能性もある。

藁にもすがりたい人たちにとって宗教が心の平安をもたらしてくれることを否定する気はないが、同時に、宗教は客観的で論理的な情報を受け入れない思考停止の状態を作り出すマイナス面も併せ持つことを常に留意しなくてはならない。

アメリカのトランプ前大統領が打ち出したクレイジーな政策の数々は、キリスト教原理主義とも言えるキリスト教福音派の主張そのものであり、これこそ政教分離の崩壊そのものである。

そのトランプさんが再出馬に向けて、統一教会の集会にも何の躊躇いもなくメッセージを送っている。

熱狂的な信者は、教団の教えをそのまま信じ、自らが正しいと信じる情報しか受け付けない。

人間はもともと自分が見たいもの聞きたいことしか受け入れない傾向があるが、宗教が絡むとこの傾向がますます強まってまともな議論ができなくなってしまう。

民主主義にとっては、とてもとても危険な存在なのだ。

ロシアのプーチン大統領も、就任以来伝統的なロシア正教の復活を促し、宗教と手を組むことによって大衆を洗脳していった。

宗教と戦争の親和性の高さは歴史が証明している。

イスラム教の国々では今も厳しい戒律が人々の生活を支配しているし、外国を旅行していて無宗教だというと驚かれたり蔑まれたりする経験を私自身何度も味わった。

日本ほど無宗教の人が多い国の方が少ない。

私自身まったくの無宗教であり、はっきり言って宗教についてまともに勉強したことがない。

来年サウジアラビアに行きたいと思って調べていたら、聖地メッカにはイスラム教徒以外は一切立ち入れないということを知った。

どうせ無宗教なのだから、旅行に合わせてイスラム教に入信しメッカに行ってみようかなどと馬鹿げたことを考えたりもする。

最近は少しおとなしくなったが、一時世界を震撼させたアルカイダやイスラム国といった宗教テロの背景には何があるのか、イスラム教を理解しない限り理解することはできないだろう。

同じようにアメリカを理解するためにはキリスト教福音派について知る必要があり、日本について知るためには神道や仏教、さらにそこから派生した新宗教のことをもっと知らなければならない。

Embed from Getty Images

長い間時代を超えて人々の信仰を集めてきた宗教には、それ相応の理由があるのだろう。

それが知りたい。

歳をとって仏教の教えにも多少興味も出てきた。

自分の死に対して一般の人よりも恐怖がない私だが、むしろ人々を惹きつける宗教の奥深さには触れてみたくなっている。

神道にも、イスラム教にも、キリスト教にも。

どんな宗教も組織が大きくなればなるほど権威的になり、排他的になり、胡散臭くなるが、そのベースにはきっと多くの人を魅了するだけの何かがあるはずなのだから。

コメントを残す