「デフレからの脱却」を旗印に長年続いてきた異常な金融緩和政策がついに終わった。
日銀は19日の金融政策決定会合でついにマイナス金利政策の解除を決定した。
マイナス0.1%としていた政策金利を0〜0.1%程度(無担保コール翌日物レート)に引き上げ、長期金利を低く抑え込むための長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)や上場投資信託(ETF)などリスク資産の買い入れ終了も決めた。
実に日銀による利上げは17年ぶりのことである。
日銀が大きな方針転換に踏み切った背景には、賃上げが順調に進んだことがある。
連合が15日発表した今年の春季労使交渉では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)を合わせた賃上げ率が平均5.28%となり、1991年以来33年ぶりに5%を超えた。
政府も「賃金と物価の好循環」を掲げて賃上げを促したことで、日銀が目標としてきた「2%物価目標を持続的・安定的に達成できる」見通しとなったと判断したわけだ。
日銀の植田総裁は今後の金融政策について「短期金利を操作する普通の金融調節になっていく」と述べ、これまでの異常な金融政策が終わり「普通」の状態に戻ることを強調した。
いずれにせよ、日銀の政策変更により、世界中からマイナス金利という異常事態が消えることになった。
マイナス金利解除のニュースを聞いて私が最も気になるのは、日銀が保有する巨額の国債や日本株が今後どうなるかという点である。
日銀がマイナス金利を導入したのは2016年2月、金利を低く抑えるため大量の国債を買い入れてきた。
直近では月間の国債買い入れ額は6兆円程度で、今後も同程度の長期国債買い入れを継続するという。
植田日銀総裁は「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と急激な利上げは行い方針を示している。
さらに、政府のアベノミクス政策に後押しされて株価を下支えする形で日銀が購入したETFも簿価で37兆円にまで積み上がっていて、このところの株高で含み益も30兆円程度に膨れ上がっているという。
ブルームバーグのサイトを見ると、こんな記事が載っていた。
『日銀金融正常化へ一歩、気になる保有ETF70兆円の行方』
どんな出口戦略がありうるのか、ちょっと記事を引用させていただこう。
1. 選択肢は何か
極論すれば、日銀は直ちにETFの売却を開始することもできる。しかし、日本経済が好転しつつあるデリケートな時期に市場に悪影響を及ぼすことを考えると、現時点では可能性の低いシナリオだ。
一方、日銀はETFの買い増しをやめても、保有するETFを無期限に持ち続けることも可能だ。ETFからの配当が日銀の収益の柱にもなりつつあることを踏まえると、メリットも大きい。2つの折衷案として、日銀は新規購入の停止後、何十年もかけて長く緩やかな売却を進めることもできる。これが最も広く予想されているシナリオだろう。
専門家はより創造的な解決策を数多く提示している。一つは政府がETFを引き取り、日銀に永久債を発行して日銀のバランスシートから資産を移動させるというもの。野村総合研究所のアナリスト、竹端克利氏によれば、政府はETFの一部を若年層に無償配賦(はいふ)し、証券保有率を高めることも可能だ。
日銀が香港での1998年の株式市場介入をまねることも選択肢の一つだろう。外貨準備を用い政府が株式を購入し、保有株式をETFのような証券にプールし、流通市場に上場して処分した。ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストが2018年のリポートに記している。
また、タイミングを見計らって市場に売却する組織をつくったり、市場外で長期保有の機関投資家にオファーしたりすることもできると指摘した。
引用:ブルームバーグ
政府が日銀が保有するETFを引き取って若者たちに配るという案はとても面白い。
やっぱり金融のプロが考えると、単に市場で売却するだけではないいろんな方法があるんだということがわかった。
いずれにしても、日銀が今すぐに大量の株式を放出すれば、マーケットが崩壊し個別企業の業績にも計り知れない打撃を与える可能性があることは日銀が最もよく知っているはずだ。
政府もそうした悲観的な事態は望まないため、実際には早期の株売却は起こらなそうである。
今回のマイナス金利解除に伴う市場の反応は極めて冷静だった。
今後も緩和的な状況は変わらないとの受け止めから円安が一段と進み、1ドル=151円台を記録した。
日経平均もプラスに反応して再び4万円の大台を超えた。
大きな節目をまずはスムーズに通過したことで、今後の日本株はさらなる上値を追うことになるのか?
全体的には楽観的なムードが強まっているような気がする。
「金利が戻ってきた社会」で何が待っているのか?
それは私には予想できないが、株価よりも重要なのは国民の幸せだということだけは断言できる。
今日3月20日は、「国際幸福デー」なのだそうだ。
これに合わせて国連の関連組織が毎年まとめる「世界幸福度報告書」の中で、幸福度ランキングが発表される。
今年の日本のランキングは51位。
去年に比べて4つ順位を落とし、G7で最下位だそうだ。
1位は7年連続で北欧のフィンランド、2位はデンマーク、3位アイスランドといつものように高福祉の北欧諸国が並ぶ。
私は常々、日本が目指すべきはGDPの順位ではなく幸福度の高い国だと考えている。
世界のいろんな国々を旅した経験から、どうして日本人の幸福度が51位と低いのか私には甚だ疑問だが、本当に多くの日本人が幸せを実感していないのだとすると政治家たちの怠慢である。
「失われた30年」と簡単に言うけれど、物価が安定して安く物が買えたデフレの時代がむしろ懐かしく感じる時が来るかもしれない。
バブル時代の再来を夢見るのではなく、日本人がいまだに経験したことのない北欧型の成熟した社会を目指そうというリーダーがそろそろ日本にも現れてもいいと私は思うのだが、どうだろう?