ドジャーズ大谷が再びやってくれた。
しかも、漫画を超えるほどのベタな演出とともに。
やっぱり、持ってる男はどこまで行っても超人ヒーロー的なのだ。

23日に行われたレイズ戦の4回裏、内野安打で出塁した大谷はすかさず2塁への盗塁を決めた。
今季40回目の盗塁成功、日本人初の40本塁打40盗塁の「40−40」まであとホームラン1本とする。

そして3−3の同点で迎えた9回裏、2アウト満塁のチャンスで大谷の打順が回ってきた。
ヒットでも四死球でもサヨナラという劇的な場面、今シーズンの大谷はこういう場面でなかなかヒットが打てなかった。
しかし・・・
軽く振り抜いた打球は高く上がり、相手センターがゆっくりバックして外野フライかと思われたが、フェンスに近づくと急に加速してジャンプ、ボールはそのグラブの先を超えてスタンドに飛び込んだ。
大谷自身メジャーに渡ってから初めてとなるサヨナラホームラン、しかも満塁で、さらに史上6人目となる「40−40」を決める一発なのである。
どう考えてもできすぎだろう。
文字通り、子供相手の野球漫画の世界、大人が「そんな上手い話があるわけないだろう」と鼻で笑うような瞬間だった。
大谷翔平の「40−40」達成は、カンセコやボンズ、A・ロドリゲスらの神々と並ぶメジャーの長い歴史の中で6人目、ノーヒットノーランなど比べ物にならないほどの希少な記録なのだ。
しかも126試合目での達成は、2006年ソリアーノの147試合より20試合以上早い最速の記録だという。

大谷の勢いは今日も止まらず、2試合連続の41号を放った。
体勢を崩されながらも右手一本でライトスタンドぎりぎりに流し込んだ。
前人未到の「45−45」の達成はほぼ確実、夢の「50−50」も現実味を帯びてきた。
オールスター明け打率2割と不振に陥っていた大谷だが、ここにきて再び調子が上がってきて、ホームランに加えて打点でもリーグトップに並んだ。
2割9分まで落ちていた打率も上昇し3割に戻る日も遠くないだろう。
試合前にはブルペンで投球練習も始めていて、手術後の経過も順調なようだ。
ひょっとすると、プレーオフでの緊急登板、投手復帰という漫画チックなシーンも見られるかもしれない。

「日本人離れした」大谷翔平の連日の活躍に、私を含め多くの日本人が熱狂している。
テレビの報道番組では活躍しない日にも手を替え品を替えて節操なく大谷翔平ネタを伝えているのもいかがなものかと思うけれど、それだけ大谷を見たい視聴者が多いということだろう。
ネットでも大谷に対する批判は聞かれず、礼賛の嵐である。
当然と言えば当然なのだが、日本中から湧き上がる大谷翔平への礼賛の声を聞きながら、私には気になることがあった。
韓国語の校歌で話題となったあの甲子園優勝校、京都国際高校のことである。
優勝決定の直後は熱戦を見届けた人たちによる好意的な書き込みが支配的だったネット上で、時間が経つにつれ韓国語の効果を問題視する嫌韓的な書き込みが増えてきたという。
試合を見ていないくせにネットで韓国語の校歌のことを知り不快に思った人たちなのだろう。
学校にも心無い苦情が寄せられているというのだ。
こうした批判の声は当然選手たちの耳にも届いている。
スポーツ雑誌「Number」がそんな京都国際高校の選手たちの揺れる心を取材していたので、引用しておきたい。

京都国際の選手たちが校歌を歌っているときの様子を映像で確認すると、いちおう口は開いているものの、気持ちを込めて歌っているようには見えなかった。
ベンチ入りメンバーの中で唯一、韓国籍を持つ「1番・レフト」の金本祐伍でさえ、こう言う。
「僕はいちおう歌えますけど、意味はまったくわからないです。ずっと日本に住んでるんで、韓国語はぜんぜんわからないんですよ。こういう学校なんで、(韓国に)興味あるんだろうみたいに思われるかもしれませんけど、正直、特別な意識はないです。僕は野球をやりにきているんで」
生徒募集を担当している岩淵雄太によれば、韓国籍の家庭は2パターンあるという。
「むちゃくちゃ朝鮮思想が強くて、家では韓国料理を食べているという家庭。もう1つは普通の日本人と同じような生活をしている家庭。後者の場合は、京都国際に来てからとか、パスポートをとるときに初めて自分の国籍に気づくという場合も多いんです」
金本もそうだった。
「韓国語、あんまりわからないんで、ありえるとしたらハーフぐらいなのかなって思ってたんです。そうしたら、バチバチでした。ああ、そうなんだ、って。完全にわかったのは高校1年か2年ぐらいのときでしたね」
大会期間中、少なくとも私の周りには京都国際の校歌のことや選手の国籍に関して質問する記者は誰もいなかった。それは「今さら」だからなのか。それとも、そこに触れてネットが荒れることを恐れているからなのか。それともスタッフや選手への配慮なのか。それはまったくわからなかった。
ただ、私にも恐れはあった。
国籍について触れられることを嫌がる人もいれば、まったく気にしない人もいる。なので、金本に話を聞くとき、私はいちおう岩淵に彼に国籍にまつわる質問をしてもいいか確認した。そして「(金本)祐伍は大丈夫ですよ」という言葉を得ていたから、安心して話しかけることができたのだ。
岩淵はいかにも楽しそうに言う。
「校歌を歌っているときの選手の顔、よーく見てくださいよ。チラチラ周りの様子を気にしているんですよ」
3番手投手の長田塁は、その理由をこう語る。
「歌っていると、何かされるんじゃないかなと思っちゃうんで」
長田いわく、なぜ韓国語の校歌なのかという外野の批判的な声は嫌でも目や耳に入ってきてしまうのだという。
「応援されていないような気分になってきてしまいます……」
優勝した後も、長田のところへ行った。
――優勝して歌う校歌はいつもとちょっと違った?
「昨日ぐらいから、みんなで『優勝したら撃たれないかな』って心配してたんです。校歌を歌うときも最後なんで全力で歌おうと言ってたんですけど、『撃たれへんよな』みたいな感じで。怖かったんですけど、全力で歌えたんで、いつもとは違う校歌でした」
「4番・ショート」で、キャプテンも務める藤本陽毅は決勝戦の直前、ユーモアたっぷりにこんな心配を吐露し、記者陣を笑わせていた。
「昨日、眠れなかったんです。優勝したいっていう気持ちはやまやまなんですけど、優勝インタビューのことを考えると緊張しちゃって。去年の慶応さんの優勝インタビューを動画で見て。やっぱ頭がいい高校と、悪い高校の差があるんで。比べられるじゃないですか」
そうは言っていたものの、藤本の優勝インタビューは朴訥で、胸を打つものがあった。
「ほんとに、今、ここに立っているのが夢みたいで、あの……ほんとに、あの……ほんとに夢みたいで、頭が真っ白といいますか、ほんとに言葉が出てこないです」
閉会式を終え、インタビューのための控え室に戻ってくるなり藤本は「やってもーたー! 全国に恥をさらしてもーたー!」と床でのたうち回っていた。
そんな藤本に決勝後の取材で初めて校歌は歌えるのか尋ねてみた。藤本は急に真剣な顔つきをした。そして、少し間を置き、力強く返してきた。
「はい!」
さすがキャプテン。見本のような答え方だった。
京都国際の選手はほとんどが関西圏出身だが、藤本は福岡出身だ。「守備が好き」と話す藤本は、2020年に京都国際から日本ハムにドラフト3位で入団した上野響平(現オリックス)の守備に一目惚れし、自ら京都国際に入部志願書をFAXしたのだという。さまざまな批判にさらされたが、その最初の志が藤本を支えていた。
「京都国際に入ったのは、小牧(憲継/監督)さんのもとで野球がしたいという思いだけでした。なので入ってから、いろいろ言われていることを知りました。(校歌のことだけでなく)僕たちのことを言われていることもあったので、そこは辛かったんですけど、小牧さんだったり、応援してくれた方々に感謝の気持ちを伝えるには勝つしかなかったので、絶対に勝ってやろうと思っていました」
藤本にも優勝したあとに歌った校歌の感想を尋ねた。
「ちょっと違ったんですけど……、あのときはもう優勝インタビューのことしか頭になかったです」
やや逃げられた気がした。
2年生の声も聞きたかった。彼らはもう1年、勝つたびに韓国語の校歌を歌わなければならないのだ。「5番・ライト」の長谷川颯は遠慮気味にこう漏らした。
「そうですね……。もう少し、考えて欲しいですね」
野球をするためにこの学校を選び、見事高校球児の夢である甲子園制覇を成し遂げた選手たち。
しかし彼らのプレーとは関係のない校歌のことで批判される彼らの心情がうかがえる素晴らしい記事だと思った。
校歌が韓国語だからといって、批判する人たちに何の不利益があるのか。
京都国際高校に対する京都国際高校に対するいわれなき誹謗中傷を聞いていると胸糞が悪くなる。
「韓国人は日本から出ていけ」などと平気で言う輩がいる。
しかし、多くの朝鮮人が日本列島に住むことになったきっかけを作ったのは日本人だということをしっかりと認識すべきだ。

一口に「日本人」と言ってもDNAを調べれば多様な遺伝的ルーツを持っていることがわかる。
外国人に負けないパワーと持つ大谷翔平も、きっと標準的な日本人とはどこか異なる遺伝子を持っているのではないかと私は考えている。
いろんな日本人がいた方が面白いじゃないか。
そしてたとえ日本人じゃなくても素晴らしいプレーには拍手を送り、選手たちの頑張りを讃える人間でありたい。
甲子園の決勝戦、敗れた関東一高の応援団がアルプススタンドから京都国際高校の韓国語の校歌に温かい拍手を送ったように・・・。
<吉祥寺残日録>記念すべき100回目の「夏の甲子園」で朝鮮学校をルーツとする京都国際高校が優勝して思ったこと #240823