ブドウ収穫のピークを迎えた9月。
今年初めて挑戦したブドウ作りなのに、予想外に豊作となった。

素人が作ったわりにはまあまあ美味しくできていて、せっかくならば食べ頃である今月中に多くの人に食べてもらいたいと思った。
しかし、私たちは農協にも加盟していないので出荷するわけにもいかず、自分たちで食べたり、家族や知人に送るだけではブドウが余ってしまう。
しかも、ブドウ作りの師匠である近所のおじさんからは「黒ブドウのピオーネは10月までもたない。今月中に収穫しないと病気が広がる」と脅されたのだ。
買えば決して安くはないブドウを腐らせてしまうのももったいない。
では、どうするのか?
私に新たな課題が浮上してきた。

岡山市内にも農産物の直売所がいくつかあるので問い合わせてみると、ブドウの出荷については今年の申し込みはすでに終了していて、「安くてもいい」と言っても今年は出荷はできないようだ。
販売ができないとなると、他にどういう方法があるのか?
そんなことをあれこれ考えている時、いいアイデアがひらめいた。
最近各地に増えている「こども食堂」に余ったブドウを無料で提供するのはどうだろう。

早速調べてみると、岡山市内だけでも「こども食堂」がいくつも開設されていることがわかった。
しかし、毎日やっているところはなく、月に1回か2回の開催というところがほとんどのようだ。
私たちは来週には東京に戻る予定なので、それまでにブドウを寄付できる「こども食堂」が見つかるかどうかちょっと心配になった。
あれこれ調べている時、ある画期的な仕組みをネットで見つけた。

『「お互いさまの気持ち」で支えるみんなの公共冷蔵庫』というコピーが付けられているこの取り組みは、「コミュニティフリッジ」という誰もが参加できる困窮世帯を支援する新たな仕組みだ。
2020年11月、日本で初めて岡山市内の再開発エリアで始まったのが「北長瀬コミュニティフリッジ」である。

「コミュニティフリッジ」という聞きなれない仕組みはどういうものなのか?
「北長瀬コミュニティフリッジ」のサイトから引用すると・・・
北長瀬コミュニティフリッジは、食料品・日用品の支援を必要とされる親子が、時間や人目を気にせず、24時間都合が良い時に提供される食料品・日用品を取りに行ける仕組みです。
様々な事情により、生活に困難を抱える親子が私たちの地域でも増えてきていることを感じます。経済の影響による仕事の事情、離婚や介護などの家庭の事情、それぞれに理由があります。そしてそれは誰しもに、ある日、急に訪れるかもしれないことです。特に、今、新型コロナウィルスの影響で困難を抱える状況になった方が全世界で増えています。仕事ができない、お客さんが来れない、その影響を多くの人が受けています。
こうしたときこそ「困ったときはお互いさま」の気持ちで助け合いたい。
北長瀬コミュニティフリッジは、この助け合いの精神で提供をくださる個人、企業・商店などからお預かりした食料品・日用品を、北長瀬駅前のブランチ岡山北長瀬の駐車場に併設された倉庫内の冷蔵庫や冷凍庫にてお渡しする仕組みです。
引用:北長瀬コミュニティフリッジ
提供を希望される方は、利用登録をしていただくことでその場所の電子ロックを提供させていただきます。これにより、24時間、ご都合の良い時に取りに来ていただくことが可能です。駐車場に併設されており、無人運営をしておりますので、時間や人目を気にせず、ご利用いただくことが可能です。
ポイントは時間や人目を気にせず、24時間必要な食料や日用品を受け取ることができるという点だ。
決められた日時に配給の列に並ぶ屈辱感を和らげて、支援が必要な人たちに手を差し伸べやすくする仕組みである。

もう一つの特徴は、誰でもいつでも気軽に支援活動に参加できるという点である。
北長瀬コミュニティフリッジでは、食料品・日用品を提供くださる方を「フードプレゼンター(食品をプレゼントくださる方)」と呼んでいます。
例えば、いただいたお中元やお歳暮でいただいた調味料や加工品、洗剤などや、多めに買っておいた缶詰、たくさんいただいたお米などなど、北長瀬コミュニティフリッジにご提供ください。提供者(フードプレゼンター)としてご登録いただき、ブランチ岡山北長瀬内のハッシュタグ岡山にお持ちいただければ、コミュニティフリッジを通じて必要とされる方にお渡しすることができます。また、お店や企業でも、お店の棚の入れ替えや季節商品などの在庫整理をする際にでてきた商品などのご提供。製造されている自社製品の一部のおすそ分けなども、ハッシュタグ岡山にお持ちいただければ、コミュニティフリッジを通じて必要とされる方にお渡しすることができます。
あわせて、登録店舗で購入した食料品・日用品をすぐ寄付できるボックスにいれていただくことで提供できる「フードギフト」の仕組みも準備しています。「4つ入りのプリンを買ったけど2つでいい」なんていう場合には、残りの2つをレジの後、フードギフトのボックスに入れてください。
そして、インターネットからのご支援もできます。スマートサプライというサービスを通じて購入いただいたものは、そのままコミュニティフリッジを通じて必要とされる方に提供されます。
それぞれのライフスタイルの中でちょっとずつの「お互いさま」でコミュニティフリッジは支えられます。
引用:北長瀬コミュニティフリッジ
すなわち、私のような自分で栽培したブドウを腐らせるぐらいなら誰かに食べてもらいたいという人には格好の仕組みだと思った。
ただ実際のところ、面白い取り組みだとは思ってもサイトを見ただけでは今ひとつよく理解できなかったので、電話をかけて問い合わせてみた。
「自分で作ったブドウを寄付することはできますか?」
「もちろんです」
若い女性の明るい声が帰ってきた。

「サイトから支援者登録をして、いつでもブドウを持ってきてください」と言われ、昨日試しに6房のピオーネを収穫して岡山駅の西に位置する北長瀬の再開発エリアに持っていった。
「北長瀬コミュニティフリッジ」は、JR山陽線北長瀬駅の南口に2019年にオープンした「ブランチ岡山北長瀬」という複合商業施設の一角にあるという。

現場に到着すると、そこは真新しい商業施設で、それらしき建物が見つからない。
仕方なく再び電話で問い合わせると、女性スタッフが迎えにきてくれた。

ブドウの詰まった箱を抱えて女性スタッフの後をついて行くと、「ブランチ」の東端にある「ハッシュタグ岡山」と呼ばれる建物に案内された。
ここが支援物資を受け付ける場所となっていて、午前9時から午後9時までスタッフが常駐し、いつでも品物を持ち込むことができる。

「ハッシュタグ岡山」は今風の建物で、会議やイベントに使える部屋やコワーキングスペースなど多目的に利用できる場所になっているようだ。
受付カウンターで支援者登録をしたことを伝えると、「フードプレゼンター」と書かれた食料品・日用品提供者(贈り手)登録カードを渡された。
私は登録ナンバー2615番。
すでに多くの人がフードプレゼンターに登録していることがわかる。

ちなみに、寄付できる食料品や日用品は上記のような物。
果物は書かれていなかったが、問題なく受け付けてもらえた。
スタッフが検品を行った上で、品物をコミュニティフリッジの倉庫に収納する。
支援を受ける人たちのプライバシーを尊重する目的で、フードプレゼンターと言えども倉庫の中には入ることができないそうだ。
ただし、サイト上で2020年のオープン当時のローカルニュースの映像が見られるようになっていて、この動画によって倉庫の中がどうなっているのか知ることができる。
「フリッジ」とは冷蔵庫のことなので、倉庫というよりも大型冷蔵庫と考えればいいのだろうか。
支援物資を受け取れる対象は現在、岡山県在住で、児童扶養手当や就学援助等を受給している親子とされている。
希望者は申し込みをして利用が認められると、倉庫の電子ロックを解除できるアプリを使えるようになり、24時間いつでもコミュニティフリッジを利用できるようだ。

ブドウを預けて帰る際、倉庫の位置を確認してみることにした。
北長瀬コミュニティフリッジは、ブランチ内の立体駐車場の一番奥にひっそりと建っていた。
表から見える看板もなく、確かに目立たない。

入口にはさりげなく「コミュニティフリッジ」のバナーが貼られているが、ほとんどの人はそれが何を意味するのか知らないので品物を持ち出す人がいても注目されることはないだろう。
しかもこの駐車場も24時間無料で、入庫時から2時間は無料なので自動車でも自転車でも徒歩でもいつでも訪れることができるように工夫されていた。

そもそもこの「コミュニティフリッジ」という聞きなれない支援活動は、2012年にドイツで始まった仕組みらしい。
北長瀬コミュニティフリッジは、海外ですでに広がっているコミュニティフリッジの仕組みを応用し、日本に合った形に仕組みを再構築した「日本版コミュニティフリッジ」ともいえる取り組みです。
コミュニティフリッジのコンセプトは、2012年にドイツ・ベルリンで「フードシェアリング」というグループが始めました。
2015年にはスペインで開始され、2016年にはイギリスではじまり、その後、90を超えるコミュニティフリッジがイギリス国内で設置されています。
この活動はインド、ボリビア、イスラエル、ニュージーランドと広がっています。日本では私たちの岡山での取り組みが初めての物です。
引用:北長瀬コミュニティフリッジ
岡山でスタートした日本版コミュニティフリッジは徐々に全国に広がり、現在は7ヶ所で様々な団体が運営しているようだ。
これまでは、支援する側と支援される側の濃厚な関係が求められる支援活動が主流だったが、24時間営業で無人という仕組みはとてもデジタルで今っぽい。
チラシによれば現在、北長瀬コミュニティフリッジに登録している困窮家庭は200世帯に達しているようで、6房のブドウがどのくらいお役に立てるのか正直私にはわからない。
でも、支援者も無理のない範囲で寄付をするよう呼びかけられているので、肩肘張らず、余った野菜や果物があったらここに届けようと思いながら帰路についた。

同行した妻も非常に感じるものがあったようで、珍しく私の思いつきを何度も褒めてくれた。
そして早速お嫁さんたちにもLINEして、「ブドウを支援が必要なこどもたちに贈ることにした」と伝えたらしく、お嫁さんたちからも「とても素晴らしいアイデアだ」と絶賛されたのだ。
素人が作ったブドウをプロのそれと競って売ることを考えるよりも、人助けのために活用した方が遥かに気持ちがいいということに今回のことで大いに気づかされた。
シニアとしての活動は、金儲けよりも人のため。
これからの農作業の指針となる夫婦の目標がはっきりと見えた記念すべき体験であった。
<吉祥寺残日録>定年後を考える😄 会社を辞めて2年!私が見つけた「幸せな隠居生活」を築くための『10の習慣』 #220701
1件のコメント 追加