<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺「コズミックフロント『超予測!地球外生命との遭遇』」 #210523

今日から「シニアのテレビ」と題するシリーズを始めることにした。

私が面白い、または役に立ったと感じた番組を記録していくことによって、学びのツールとしてテレビを活用して隠居生活を豊かにしようというのが「シニアのテレビ」の狙いだ。

結果として、シニアの方に役立つテレビの見方が提示できれば、元テレビマンとしてはこの上ない幸せである。

要するに、私は今でもテレビが好きなのだ。

私が会社を辞めることを決断したのは、1年前の5月12日だった。

去年の6月末で会社を辞め、コロナのせいで隠居生活の柱となるはずだった旅行にも自由に行けない状況が今も続いている。

そんな日々の中で、私は今年に入ってから興味のある番組を片っ端から録画して、暇さえあればその録画した番組を見ているのだが、これがなかなか面白い。

38年間テレビ局に勤務していたのに、見ていたのは地上波のメジャーな番組が中心で、自分の興味よりも仕事上の必要から番組を選んで見ることが多かった。

しかし、退職した今ではまったく違う。

番組表を見ながら録画するのは大半がBSの番組で、最近ではEテレの教育番組を見ることも増えてきた。

選択する番組が、現役時代とすっかり様変わりしてしまったのだ。

とはいえこれは興味深い変化であって、見たいと感じる番組を選ぶことで、自分の潜在的な興味に気づかされることもある。

自分がすでに知っているテーマではなく、知らないテーマを扱った番組を無意識のうちに選んでいることに気づいたのだ。

テレビは信用できないという人もいるが、私はそうは思わない。

一般的にテレビ番組というのは、多くのスタッフが関わって作られる。

きっかけは一人のプロデューサーのアイデアだったりするが、ディレクターや放送作家が加わってそのネタについて様々な角度から調べ、専門家の話を直接聞いたりして内容を精査するので、放送された内容についてはかなり信憑性が高い。

誰か一人が書いた書籍と比べても、バランスが取れているケースが多く、浅く広く学ぶには最適のツールかもしれないと今更ながらに思ったりするのだ。

歳をとると、本を読んでいてもすぐ眠くなってしまう。

それに比べてテレビは、視聴者を飽きさせないようテレビマンたちがあの手この手で工夫してくれているので、さほど苦もなく見続けることができる。

そして、多くの知らない情報や気づきを与えてくれるのだ。

くだらない番組も山ほどあるが、番組を自分目線でしっかり選べば、やっぱりテレビは面白い。

「シニアのテレビ」を始めるのあたり一発目に選んだのは、BSプレミアムで放送していた科学番組「コズミックフロント NEXT」。

私が見たのは、「超予測!地球外生命との遭遇」という回の再放送だ。

西暦2157年、4.7光年先の架空の惑星ミネルバBにAI宇宙船が向かう。探査ロボットが発見した未知の生命体とは!?科学者の協力のもとで地球外生命との遭遇を映像化

引用:NHK

SF映画ばりの凝ったCGを駆使したこの番組は、世界の科学者たちが考えている未来の宇宙探査についていくつかの興味深い示唆を私に与えてくれた。

いつかこの宇宙探査が実現するとしても私が死んだ後の話ではあるが、米中が競って宇宙へと乗り出している現在、その先に何が待っているのか知っておくのは無駄ではないと思う。

ちょうど昨日、中国国家宇宙局は、『中国が火星に着陸させた無人探査機「天問1号」から探査車「祝融」が離脱し、地表を走行して探査を開始した』と発表した。

アメリカに次いで2番目の快挙であり、「宇宙強国」を目指す中国の宇宙技術が急速な進歩を遂げていることを世界に示した。

地球外生命を探す本格的な探査も、ここ火星から始まっている。

アメリカは2004年、火星探査車「スピリット」と「オポチュニティ」を火星に着陸させた。

科学者たちの関心の第一は、政治家たちのような資源や領土ではなく地球外生命の探査であり、科学者たちの目はすでに太陽系を越えて遠く離れた地球に似た惑星へと注がれている。

そうしたバックグラウンドを踏まえて、番組の中から私が面白いと思った部分をランダムに書き残していく。

番組が取り上げる時代は、今から130年先の未来。

恒星間移動を可能にする巨大宇宙船は、地球の周回軌道上で建設された。

確かに無重力の宇宙空間で宇宙船が作れるようになれば、打ち上げのためのエネルギーを気にすることなく、巨大な宇宙船も建造可能となるだろう。

旅の目的地は4.7光年の先にある惑星「ミネルバB」。

私がまず感心したのは、この星に向かう宇宙船には人間は搭乗せず、すべてのミッションは人工知能によってコントロールされるという点だ。

恒星間移動をするには、人間の寿命はあまりに短すぎるためだ。

地球を出発してから17日目、宇宙船は火星を通過。

この頃には、火星には移住者のためのコロニーが存在している。

火星のコロニーは90年前から存在するというナレーションが入るので、科学者たちの頭の中では2070年ごろには人類の火星移住が実現している計画なのだろう。

宇宙船は火星でスイングバイを行ってスピードを上げ、地球出発から21日目には木星を通過する。

さらに太陽系最大の惑星である木星の重力を利用してスイングバイ、光の速さの20%、時速2億6600万キロまで加速した。

ここからは通信アンテナを格納し、恒星間移動モードに切り替えるのだが、それでも目的地の惑星「ミネルバB」までは、46年6ヶ月という気の遠くなるほどの時間が必要なのだ。

「ミネルバB」までの距離は4.7光年、45兆キロもの距離がある。

だから、人間の寿命の間に恒星間移動を果たすためには、光の20%、月までわずか7秒で到達するスピードが必要となるのだ。

ちなみに、現在使われている燃料ロケットの場合、月までは3日、過去最速だった宇宙船「ボイジャー」でも、別の恒星系に行くためには8万年もかかってしまう計算になるのだ。

NASAでは、恒星間移動のための推進システムの研究も進められているという。

たとえば、SFに登場する「反物質」を利用するアイデア。

現在人類が作ることができる反物質はナノ単位なのだが、宇宙船を動かすには1トンの反物質が必要となるそうだ。

しかも、反物質は簡単にコントロールできるものではない。

そこでNASAが現在研究しているのが「ダイレクト・フュージョン・ドライブ」。

重水素を水中で核融合させ、ロケットの推進力と電力を同時に得ようという装置で、15年後の実用化を目指しているという。

さらに重要なのが人工知能の開発だ。

遠く離れた惑星での探査を可能にするためには自律的でトラブルにも自ら対処できるAIが不可欠だからである。

移動の途中で、小惑星群と衝突するリスクもある。

地球出発から23年4ヶ月。

別の恒星系「ミネルバ」に到着する。

太陽系でいえば、冥王星あたりに到達したということだ。

ここで恒星間移動に使った推進ユニットを切り離し、減速しながらミネルバ恒星系内を航行することになる。

木星に似た巨大惑星「ミネルバC」を利用してさらに減速し、軌道を調整して恒星をスイングして「ミネルバB」に向かうのだ。

ここで通信アンテナを開き、ミネルバ恒星系への到着を地球に伝える。

おそらくこの通信が届く頃には、計画を主導したベテランたちはすでにリタイアしているだろう。

しかし、最終的な目的地到着は、ここからさらに25年以上もかかるという。

出発から48年4ヶ月で、ようやく恒星「ミネルバ」の近くに達し、恒星の重力を利用してスイングバイ。

ここから惑星探査モードに切り替え、探査機を切り離す。

こうして「ミネルバB」に到着すると、探査機から複数の小型観測衛星が放出され、上空からの観測を始める。

地形を観測して地表の3次元データを作成、さらに大気、重力、気候のデータを集めて着陸地点を決め、地球出発から48年5ヶ月、ついに惑星「ミネルバB」への着陸に成功した。

着陸後は、探査ロボットとドローンを使って生命の探査を行う。

最初に行うのは水を探すこと、次に重要なのは炭素化合物を見つけることだ。

探査ロボットが採取したサンプルは軌道上を周回する探査機に送られ人工知能によって分析される。

こうして地球外生命が初めて確認されるのだ。

続いて、過去の生物履歴を調査するため、断崖を見つけて地層の調査も行う。

地球では、5億4000万年前のカンブリア紀に進化の過程の中で特筆すべき異変が起きた。

1万種とも言われる複雑な生物が突如現れたこの異変は「カンブリア大爆発」と呼ばれる。

微生物の世界から多種多様な動物の世界に様変わりし、それが今の生態系につながっているのだが、同じような進化の証拠を探すのだ。

海の探査も非常に重要である。

生物の多様性は海の中で起きるからだ。

温度の変化や重力からも海は生命を守ってくれるので、地上以上に豊かな生態系が育まれている可能性が高い。

こうして集められたデータはまとめて地球に送信され、世界中の人を驚かせるビッグニュースとなるのだ。

この番組で描かれるのは、科学者たちの頭の中にある未来の宇宙探査の姿だが、すでにその準備は始まっている。

地球外生命を探す活動が本格化したのは2009年。

NASAが打ち上げた宇宙望遠鏡「ケプラー」は、広大な宇宙空間に存在する地球に似た環境を持つ惑星を探し始め、夜空に浮かぶ恒星のほとんどは惑星を持っていることがわかってきた。

そのうち、地球のような条件の惑星を持つものが25%あることも・・・。

それまでの常識が大きく覆ったのだ。

地球外生命を見つけるためにまず探すのは「液体である水」。

そのためには惑星と恒星が「ハビタブル・ゾーン」と呼ばれる最適の距離にあることが条件だ。

続いてNASAは2018年、探査衛星「TESS」を打ち上げた。

「TESS」は7つの特殊なカメラを使って、地球から近い距離にある「系外惑星」を探し、その大気の状況を観測する。

2年間で全天の観測をするのが目標だ。

さらに、チリのアタカマ砂漠に設置された「アルマ望遠鏡」は、2015年にガスと塵に囲まれた誕生間近の恒星を観測した。

「アルバ望遠鏡」は、宇宙から届く微弱な電波を捉え、遥か彼方に存在する有機物を分析することができるが、「おうし座HL星」と呼ばれるこの恒星の観測から2つの新しい発見があった。

一つは、惑星が形成されている段階で複雑な有機物が確認されたこと、つまり惑星は複雑な有機物の中から形成されることが分かったのだ。

もう一つの発見は、この惑星の化学組成が太陽系初期の状態に非常によく似ていたことだ。

こうした研究から、生命のルーツが紐解かれる可能性があるという。

科学者たちは、宇宙には生命が満ち溢れていると考えており、きっと未来のいつか、地球外生命との遭遇は実現するのだろう。

このワクワクさせられるような番組を制作したのは誰か?

エンドロールを見ると、NHKの子会社「NHKエデュケーショナル」と表示されていた。

しかしベースとなったのは、国際共同制作による「Living Unicerse」という2018年の作品らしく、制作のクレジットにはドイツのZEDやフランスのARTE、オーストラリアのABCなど著名なテレビ局が名を連ねる。

非常によくできたCG映像も海外で作られたもので、映像提供として多くの企業名がエンドロールに書かれていた。

Blue Planet Production、National Aeronautics and Space Administration、HIVE、European Space Agency、Murray Federicks などなど。

しかしNHK版の制作に当たっては、制作協力として「Planet Film」という名前が表示されていた。

「Planet Film」という制作会社について何気なく調べてみる。

外国の制作会社かと思ったら、何と私が住む武蔵野市に2017年に創業したプロダクションだった。

しかも「Planet Film」の社長であり、この番組のディレクターを務めている井上元さんとは以前お会いしたことがある。

何という奇遇だろう。

予期せぬことで、私は非常に驚いた。

知らないことが満載の完成度の高い科学番組。

コロナの今こそ、こういう夢のある番組を見ると脳も活性化されそうである。

<吉祥寺残日録>頑張れテレビ!「“科学立国”再生への道」が伝えたお寒い日本の現実 #201221

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