3月も明日で終わり、2025年の冬ドラマも一通り終了した。
全体的には低調なクールではあったけれど、日曜日に放送されるドラマが充実していて、毎週日曜になるのが楽しみな冬であった。
この冬一番の意欲作といえば、TBS日曜劇場の『御上先生』。
文部科学省のキャリア官僚である御上(みかみ)孝が、官僚派遣という制度を使って私立の進学校「隣徳学院」で3年生のクラス担任を務めるという物語だ。
TBSの教育ものといえば、反射的に「金八先生」を思い浮かべる。
だからさほど期待することなく見始めたのだけれど、このドラマ、初回からこれまでの教育ドラマとは一味違っていた。
主人公の御上先生を演じるのは松坂桃李。
常に冷静で、抑えた口調でとても刺激的な言葉を生徒たちに投げかける。
たとえば最初の授業で御上先生の口から出た言葉は・・・
「僕と同じ年だった人が高校生だった時、1学年あたりの数は約110万人。対して国家公務員総合職試験に受かった人は1370人。ということは約1000人に1人、つまりその1人が僕だ。僕は試験という試験、落ちたことがない。受けた試験全てトップで合格してきた。どうしてか? 勉強の仕方を知っていたからだ。受験のノウハウで僕に勝てる教師は学校にはいないだろうね。」
そしてこう続けた。
「君たち、自分のことエリートだと思ってる? 麟徳学院は東大合格者数が県内でトップの進学校だ。ここにいるほとんどの人が東大に行きたいと思っているわけだから自分のことエリートだと思うのも当然だけど、エリートの本当の意味、理解してる? エリートはラテン語で神に選ばれた人。なのでこの国の人は高い学歴を持ち、ふさわしい社会的地位や収入がある人間のことだと思ってる。でも、そんなものはエリートなんかじゃない。ただの上級国民予備軍だ。」
こんなキレッキレのセリフ、久しぶりに聴いた。
脚本を担当したのは、安倍政治を痛烈に批判した映画「新聞記者」で注目された劇作家の詩森ろば氏。
このドラマの最大の魅力は、彼女が紡ぐ社会性の強いその刺激的なセリフにある。
そして初回の最後、教師の不倫を暴いて辞職に追いやったジャーナリスト志望の生徒・神崎拓斗とのやり取りの中で、御上先生は自らが考えるエリートの概念について語った。
「パーソナル・イズ・ポリティカル。個人的なことは政治的なこと。(そんなこと知ってるよ。)ならどうしてゴシップを垂れ流した。そこに想像力を使わなかった。伝えたはずだ。君たちが今考えているエリートはただの上級国民予備軍だって。みんなどんな思いで受験勉強してる? 過酷な、過酷すぎる競争を勝ち抜いて、掴み取った人生が上級国民で本当にいいの? 言ったよね。エリートは神に選ばれた人だと。なぜ選ばれるか? それは普通の人間なら負けてしまうような欲やエゴに打ち勝てる人だから。自分の利益のためではなく、他者や世の中のために尽くせる人だから。僕はそこに付け加えたい。真のエリートの寄り添うべき他者とは、つまり弱者のことだ。」
このドラマを貫くメッセージは、御上先生が何度も口にする「考えて」という言葉。
他人の主張を安易に拡散する現代社会の中で、何事も自分の頭で考えることの重要性をさまざまな題材を通して描いていく。
御上先生が担当するクラスの生徒たちは、全員オーディションで選ばれた若手俳優たちだ。
彼らが演じる生徒たちはみんな優秀で、社会的な問題についても自分の意見を積極的に発言する。
日本の学校がみんなこんなだったらどんなに頼もしいかと思ってしまう。
自分たちは何のために学ぶのか、教育とは何を目指すのか?
単なる熱血教師ではない御上先生の授業は、とても新鮮で考えさせられるものだった。
御上先生はジャーナリスト志望の神崎くんにこう伝える。
「言ったよね。志だけで変えられるならとっくに変わってる。官僚が出世したいと思ったら手を汚さずに上には行けない。のらくらした官僚候補を使いこなして答弁を乗り切り政治家のオーダーには秒で答える。自分の理想なんてものは横に置いて進めていく先でようやくこの国の行政とやらに参加する資格が出来る。かもしれない。神崎くん。君が記事にしたことは、闇なんてごたいそうなものじゃない。ただの日常だよ。YouTubeとやらでやってるモーニングルーティンみたいにね。そんな簡単に見えるものを闇とは呼ばない。」
そして・・・
「神崎くん、闇を見たくないのか? だとしたら僕はこれ以上ない情報源だ。手放すな。もし本当に闇を見る気があるなら、今日の放課後ここで話そう。」
ものすごい闇が描かれるのかと私は期待した。
しかし残念ながら、最高に刺激的だった第1話に比べて2話以降は少し薄味となり、最終回で明らかになったのは、政治家と文部官僚と学校とブローカーが絡んだ裏口入学問題だった。
本当の闇はもっと深い、そんな感想を抱いた終わり方ではあったけれど、全体として見れば今のテレビとしては画期的なほどメッセージ性の強い社会派ドラマに仕上がっていた。
安倍政治に批判的だったであろう詩森ろば氏による学校もの。
設定は全く異なるものの、結局解明されなかった森友加計問題が問題意識の底流にあったのではないかと感じた。
そしてこのドラマでもう一つ印象に残ったのがエンディングに流れる主題歌。
日本の人気ロックバンド「ONE OK ROCK」がこのドラマのために作った新曲「Puppets Can’t Control You」だ。
ボーカルのTakaはこの曲に込めた想いについてオフィシャルメッセージで次のように語っている。
「『Puppet』(人形)とは、ここでは大統領や社長など、何か問題が起きたときに表に出て責任を取る存在を指しています。でも、その背後にはもっと大きな力がある。『Puppets』が交代することで一時的に人々の気持ちは落ち着くけれど、もうそんな仕組みには騙されない。あなたたちの用意したお人形さんの言うことは聞かないんだよ、という思いを込めています」
私は不覚にもこのバンドのことを今回初めて知ったけれど、すでに20年の活動歴がある日本を代表するロックバンドなのだそうだ。
私が知っていることなど所詮は世の中のごく一部。
そうした事実をしっかりと噛み締めながら、今後も自分の頭で考えていきたいと思うドラマだった。
がらりと変わって、日曜日のもう一本の楽しみは日本テレビで放送されたバカリズム脚本による地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー『ホットスポット』。
同じくバカリズム脚本で話題となった『ブラッシュアップライフ』の制作スタッフによるオリジナル作品で、『御上先生』とは対照的に、とにかく馬鹿馬鹿しくて笑えた。
主演は個性的な名脇役として活躍する市川実日子だが、実質的な主役は宇宙人役の「東京03」角田晃広であり、彼のセコイ個性を最大限引き出した全編コントのような作品である。
角田演じる宇宙人・高橋は、宇宙人の父と地球人の母の間に生まれたハーフ。
ずっと富士山の麓で生まれ育った普通のおじさんだが、父親から受け継いだ「能力」を使って10円玉を指で曲げられたり、嗅覚や聴覚を上げたり、人間離れした運動能力を発揮したりすることができる。
その代わり、能力を発揮した後には後遺症が出て定期的に温泉に入らなければ生きていけないという設定だ。
しかしその能力を知られると映画「ET」のように警察に追われると心配し、生まれてからずっと宇宙人であることを隠して生きてきた高橋だが、ホテルの同僚が車にはねられる場面に遭遇し反射的に能力を使って命を救ったことから徐々に周辺で高橋が宇宙人であることを知る人が増えていく。
バカリズムの脚本の面白いのは、こうしたSF的な設定を実に下世話な女性たちの会話を通して描くところである。
市川実日子演じるホテル従業員の遠藤清美、通称「きーちゃん」と幼なじみの「みなぷー」と「はっち」の仲良し3人組を中心に、女性たちの日常的な噂話のネタとして高橋が扱われ、それに対して高橋がムキになって文句を言う構図が毎回展開され、ゆるくてクスッと笑えるシーンが連続する。
キャストも世界観も前作の『ブラッシュアップライフ』に共通するものがあり、バカリズムもそれを多分に意識しながら物語を作り上げている。
だからどうしたと詰めて考えると大したお話ではないのだけれど、何度も見たくなる不思議な愛すべき作品だ。
日曜日でいえば、NHKの大河ドラマ『べらぼう』も悪くない。
主人公は江戸時代の出版界に革命をもたらした蔦屋重三郎。
全く知らない人物だったけれど、喜多川歌麿、葛飾北斎、東洲斎写楽ら江戸文化を象徴する作家や浮世絵師を世に送り出した著名な版元だったらしい。
華やかさと悲しみが同居する吉原を舞台に、知恵と行動力でのし上がっていく「蔦重」の人間的な魅力に同じメディアの世界で生きてきた私としては共感することも多い。
まだまだドラマは始まったばかりだが、今後さまざまな才能と出会い世界を広げていく展開が楽しみである。
これら日曜の3作品を除くと、今年の冬ドラマは個人的には今ひとつという印象を持つ。
その中で、最終回まで観たドラマを上げると、最近意欲作が目立つNHKで放送された『東京サラダボウル』は日本で暮らす外国人たちにスポットを当てたエッジの効いた作品だった。
世界的な移民排斥ムードに乗っかって日本でも外国人に対するヘイト発言が目立つ昨今だが、すでに東京ではさまざまな文化を持つ外国人コミュニティーが出来上がっている。
彼らが抱える問題を通して、日本人が気づかない日本社会の課題が描かれる。
同じ火曜日に放送されたのがTBSの『まどか26歳、研修医やってます!』。
芳根京子主演のお仕事ドラマで、若き研修医たちが一人前の医師を目指して苦悩し失敗しながら成長していくストーリーだ。
医療ものと青春ドラマを掛け合わせたありがちなドラマではあるが、彼らを指導する先輩医師を含めて悪役がおらず、患者のために奮闘する医師たちの姿を爽やかに描いて好感が持てる。
火曜日の深夜に放送されたテレビ東京『マイ・ワンナイト・ルール』も個人的には好きなドラマだった。
コミックシーモアの漫画が原作でスポンサーもコミックシーモア、完全なタイアップ番組のようだが、女性の健全な性欲という珍しいテーマを女性目線で描いている点が面白い。
ちょっと冴えない30代OLを足立梨花が好演した。
タイアップという意味では、木曜の深夜テレビ東京で放送された『週末旅の極意2』も個人的には楽しめた。
子供たちが成長しギクシャクし始めた家族関係を立て直すために、家族4人で日本各地に1泊旅行をするというお話で、キャストの数の非常に少ない割安ドラマだけれど、子供たちの結婚や就職といった身近なテーマをうまく取り込み、毎回登場するホテルもなかなか魅力的で、観終わった後自分も旅に出たくなる作品に仕上がっている。
ドラマに登場するホテルは全部、ホテルグループ「ORIX HOTELS & RESORTS」のホテル。
完全なタイアップ作品で、下手なテレビスポットよりも遥かに宣伝効果は高そうである。
そして、何とも評価に迷うドラマが、TBSの金曜ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』。
広瀬すず主演の推理もので、浅見理都の漫画が原作の作品だが、出てくる人物が全員悪者に見えるため多少の違和感には目を瞑りながら最終回まで観てしまった。
でも、結果的には・・・。
説得力に欠ける結末で少しガッカリした。
とはいえ、途中離脱するドラマが多かった今クールで最終回まで観たのだからいい方だったのだろう。
そんな今年の冬ドラマの中で、個人的に印象に残ったのがBS-TBSの4K作品『天狗の台所2』。
昨年の秋に放送された作品の再放送だったようだが、とにかく映像が美しい。
天狗の末裔である兄弟の田舎暮らしが丁寧に描かれ、何といっても毎回登場する食事作りのシーンがとても美味しそうだ。
自分たちが行なっている二拠点生活にも通じるところが多く、人間の幸せってこうした丁寧な生活の中にあると感じさせてくれる作品である。
マンネリ化していた民放のBSでも、最近オリジナルのドラマを作ろうという動きが出始めた。
放送マンたるもの、与えられた電波をショッピングばかりで無駄遣いしてはいけない。
歓迎したい動きだと思う。

