先日NHKのBSで「あなたが知らない吉祥寺駅7分」という番組を何となく見た。
その番組で紹介されたクラシック喫茶店「BAROQUE」が気になって、初めてお邪魔した。
図書館の帰り道、古びた雑居ビルの2階にその店はある。
自転車を向かいの通路に置かせてもらって、建物脇の階段を上がる。あたり一帯、死に絶えたような雰囲気だが、このお店は昼から営業していた。
昭和の喫茶店という佇まいの入口を入る。アナログレコードならではの、ノイズ混じりのクラシック音楽が耳に飛び込んでくる。
店の奥にはラッパ型の大型スピーカーが置かれ、お花や彫刻で飾られている。店はおばさん一人ですべてまかなっている。
ちょうど帰った客がいたらしく、テーブルを片付けている最中だった。少し待って席につく。アイスコーヒーを注文した。後は黙って音楽に耳を澄ますだけだ。
かかっていたのはブラームスの弦楽六重奏1番。古いLPでノイズも多い。高音部はかなりつぶれてしまっている。
それでも常連と思われる客が7人。全員スピーカーに向かって座っている。反対向きの席はそもそも存在しない。話をする人もいないし、話をする人はこの店に来ない。だから反対向きの席は必要ないのだ。
アイスコーヒーは懐かしい銅製のカップで運ばれてきた。カップの外側に水滴がいっぱいついている。昭和な時間。これはこれで落ち着くものだ。
店全体が見渡せる後方の席に座り、しばらく店内の様子、客の仕草を観察する。じっと目をつむり姿勢を正して聞いている客もいる。音楽を聴きながら本を読む人もいる。私も図書館で借りてきたばかりの本を取り出した。
レコードはラフマニノフのピアノ協奏曲2番に変わった。
「バロック」にちょうど1時間いて、店を出たが、私の後に入ってくる客はいなかった。その代わり、私の前に店を出た客もひとりだけだった。皆、一体何時間ここにいるのだろうか?
食べログ評価3.08、私の評価3.20。