🇱🇨 セントルシア/カストリーズ 2024年2月6日~8日
今回の旅を計画するまでその国名さえはっきり知らなかった国がある。
セントルシアもそんな国の一つだ。
場所はバルバドスの北西、プロペラ機でわずか30分のフライトである。

バルバドスからセントルシアへは、「インターカリビアン航空」というカリブ海の島々を繋ぐローカルキャリアのプロペラ機に乗る。
この会社の本拠地はイギリス領タークス・カイコス諸島。
これまたどこにあるのか見当がつかない。
アメリカやヨーロッパに飛ぶフライトがメインのターミナルから出る一方で、インターカリビアンのフライトは別の離れのような小さな建物が待合室だった。
座席が決まっていないオープン席だというので、私はいい席を確保しようと案内の女性の後ろについて一番で飛行機に乗り込む。

こちらが私が乗ったプロペラ機。
ターミナルから歩いて、飛行機後部のタラップから乗り込む。
男性のCAさんが一人だけいて、「どちらのサイドが長めがいいですか?」と尋ねると、左側と答えてからなるべく前から座ってと言われる。

オープン席というと我先に争って乗り込むのかと思っていたら、みんななかなか乗ってこない。
最終的には半分ほどの席が埋まったのだが、他の客がゆっくりやってきた理由がわかった。
先に乗った人から前に詰めるように言われるので、後から乗った方が到着後早く飛行機を降りられるのだ。
つまり、遅いもの勝ちの勝負なのである。

結局私は勧められた左側の窓際席を確保したものの、前から詰めろと言われたためプロペラの真横になってしまった。
この飛行機は主翼が上に付いているので、プロペラ以外の障害物はなく、要するに最悪の席に座らされたということになるかもしれない。
出発までぼーっと外を眺めていると、荷物を運ぶ車両が日本のクボタ製であることに気づいた。
まさにトラクターの形をしていて、こんなことにも使われているんだと妙に感心した。

いざ飛び立つと、傷だらけの窓に逆光で期待した青いカリブ海は残念ながら見慣れなかった。
離陸から25分ほどでセントルシア島が見えてきた。
しかし、すっぽりと雲に覆われている。
平坦なバルバドスと違い、セントルシアは山が連なる火山島で、貿易風が山々にぶつかって大量の雲が発生するのだ。

飛行機はセントルシア島を大きく回り込むようにして西海岸を南から北に飛んで着陸した。
つまり、陸地は私の席の反対、右側だった。
私が見たかったセントルシアのシンボルである双子の「ピトン山」の姿も右側の窓からぼんやり見えただけだった。
あのインチキCA、嘘を教えやがった。
それとも私の英語が通じなかったのか?

こうしてモヤモヤした気持ちを抱えて降り立ったセントルシアの首都カストリーズにある「ジョージ.F.L.チャールズ空港」。
ここでもう一つのモヤモヤが待っていた。
バルバドスの空港よりも一段と小さな田舎の空港で、もちろん歩いてターミナルに行くとそこで先に降りた客たちがみんなスマホと格闘している。
私がキョトンとしているのに気づいたスタッフが、私に何かを伝えようとするがにわかに理解できなかった。
どうやらバルバドスでもやったように入国審査に必要な情報を自分で入力しなければならないが、バルバドスのような専用のタッチパネルは用意されておらず、各自のスマホでQRコードを読み込んでフォームに記入するということらしい。

こちらがQRコードで読み取った申請フォームだ。
当然日本語などあるわけもなく、細かな字で書かれた英語を読んで必要事項を入力しなければならない。
しかも記入項目はやたらに多くて、知らない単語もいろいろ出てくるので相当苦労してようやく全て入力し終わったと思い、「提出」とボタンを押すと、なんと「受け付けられませんでした」の表示とともに苦労して入力したデータまで全部消えて最初の画面に戻ってしまったのである。
あまりのショックに呆然としつつも、係官にそれを伝えると、「ちょっと待て」と言って別室に行ったと思ったら、なんと紙の申請書を持ってきてこれに記入しろというのだ。
え、それなら最初から紙にしてよと言いたかったが、入管で揉めてもろくなことにならないのは世界共通。
先ほどスマホに入力したのと同じ情報を今度はボールペンで書いていく。
デジタルだと選択肢から選ぶだけでよかった項目もいちいち書かなければならない。

それでも申請用紙への記入が終わると後は簡単。
ほとんどを書いた内容など読むこともなく、簡単に入国が許されたのである。
セントルシアの空港ロビーは屋外で、しかもとても小さい。

目の前にタクシーがいたのでホテル名を告げると、距離が近いせいか運転手たちが顔を見合わせて譲り合っている。
そのうちの一人かしぶしぶワゴンの後ろの扉を開けて乗れという。
なんか第一印象が悪いセントルシアへの入国だったが、これが私の99番目の訪問国となる。

車が走り出してから、両替していないことを思い出した。
「両替を忘れた」とドライバーに伝えると、「明日なら銀行が開くと思う」という。
「空港で両替できないの」と聞くと「何日滞在するのか?」と聞く。
2泊だと答えると、それなら両替なんか必要ないと言う。
こんなやり取りからわかったことは、この国には「東カリブドル」という周辺国との共通通貨があるものの、ドルでもユーロでも支払いができるということだ。
ここでも、ユーロは米ドルと同じ価値で、1ドル=2.70東カリブドルの固定相場となっている。
この島を訪れる大半の観光客はアメリカかヨーロッパからやってくるため、誰も両替などせずにドルかユーロで支払いをするのだろう。

私が予約したホテルは空港から丘を登っていき、車で7〜8分のところにあった。
値段を聞くと20ドルだと言う。
私が現地通貨を持っていないことは伝わっているので、当然米ドルである。
ぼられたと思ったが、乗る時に料金交渉しなかったこちらに非があるので仕方がない。

こうして小さなモヤモヤが積もって到着したものの、ささくれていた私の心はホテルで癒された。
「Bel Jou Hotel」
チェックインしようとフロントに行くと、ソファーのある別室に案内され、そこでウェルカムドリンクを飲みながら手続きをし、このホテルの特徴である「オールインクルーシブ」の意味を説明される。

「オールインクルーシブ」とは、文字通り、全部コミコミの意味。
三食の食事はもちろんお酒も含めてすべて宿代に含まれていて、客はお金の心配をすることなくバカンスを楽しむことができる欧米で普及したリゾートホテルの形式である。
昔日本でも流行り私も家族で何度か利用したことがある「地中海クラブ(Club Med)」はその典型だが、このホテルの「オールインクルーシブ」がどういうものか正直説明を聞くまでわかっていなかった。
飲食のほかにも首都カストリーズやビーチへの送迎、朝から晩まで開かれるヨガなどのクラスも無料で参加できるようだ。

チェックインが終わると、男性スタッフが部屋まで案内してくれた。
昔はシティホテルでもポーターが部屋まで荷物を運んでくれたが、最近では誰かに部屋まで案内してもらうことなどないので、チップの心配をしたが、私には持ってもらうほどの荷物もないし小銭も持ち合わせていないのでありがとうの言葉だけで勘弁してもらうことにする。
まあ、チップもオールインクルーシブということで。

部屋はとても広くて、客がプールからそのまま入ることを想定してタイル張りになっていた。
大きなキングベッドが2台。
所詮は一人でやってくる客は想定していない作りである。

天井には扇風機。
タンスや収納も充実していて、大きな荷物を持ってやってくる長期滞在者向けの仕様である。
一人で2泊しかしない私には不似合いなホテルだったのか。

キャビネットの上には、珍しい花と一緒にシャンパンが1本置いてあった。
当然これもインクルーシブなんだろうけど、結局ひとりでシャンパンを開ける気もせず、飲まないままチェックアウトを迎えることになる。
やっぱり、一人旅とリゾートは相性が悪いのだ。

それでも、ベランダに出た瞬間、いろんなモヤモヤが吹っ飛んだ。
それはバルバドスとはまた一味違うカリブの景色だった。

丘の上に立つホテルだけに眼下にプール、その向こうに溢れるような緑が広がり、そして海が見える。
セントルシアが山がちな島だからこそ味わえる眺望だろう。
アメリカ、パナマ、バルバドスと1泊ずつで動き回って疲れも溜まってきたところなので、三食付きのこのホテルで何もせずのんびりと骨休めしよう、そう決めた。

まずは洗面台にお湯を溜めて洗濯をする。
汗をかいたTシャツや下着だけなので手洗いでも明後日までには乾くだろう。

そんなことをしているうちに、もう時間は午後5時を回った。
夕食前に水着に着替えてプールまで行ってみる。
途中置かれていた看板には翌日のイベントの予定が書き込まれていた。
でも、私はのんびり、ただひたすらのんびり過ごすのだ。

タオルを借りて、プールサイドに降りた頃には大半のお客さんは部屋に戻った後で、好きなベッドに寝転がることができた。
太陽も影っているため全く暑くはない。
海辺ほどではないが、ここも風がそれなりに吹いているので、むしろタオルをかけていないと寒いくらいの体感である。

プールで少し泳いでから部屋に戻ると、もう時刻は6時を回り夕焼けが空に広がった。
いろんな鳥の鳴き声が聞こえる。
若い頃、アジア、アフリカ、南米といろんな場所で夕陽を眺めたが、やはり昼間の猛暑が去った後の南国の夕暮れは気持ちいい。
特に、涼しい風が吹き抜ける南国の島は最高である。

夕食は午後6時半からなので、オープンと同時にレストランに行って早めに寝ようと思ったのだが、不覚にもその前に寝てしまった。
目を覚ますともう7時を過ぎていた。
もう眺めのいい席はなくなったかと思ったが、ほとんどの観光客は夜が遅いと見えて、まだ席はガラガラだった。

もうすっかり暗くなってしまったので、部屋から海の方向は真っ暗だったので、部屋からは見えない首都カストリーズの夜景を見下ろす席を選んだ。
首都と言っても人口わずか2万人の小さな街だが、山に囲まれているらしく、家の灯が立体的に光ってなかなか美しい夜景である。

食事はビュッフェスタイルだ。
肉に魚、野菜や果物、デザートまでいろいろな料理が並んでいるが、どうもお腹が空かない。
朝リンゴとヨーグルトを食べただけで他に何も口にしていないのに、ちょっとおかしい。
量を少なめにして、ビールと一緒にかきこみ、早々に部屋に引き上げた。
自分が思っている以上に、65歳の肉体は疲れているんだと感じた。

翌朝、夜が明けると、窓越しに椰子の木が見えた。
どうやら晴れているみたいなので、ベッドから起き上がりベランダに出る。

この日はホテルから一歩も出ることなく、ただゴロゴロして過ごすことに決めている。
前日は雲が多かったが、今日はどうだろう?

朝食は朝7時から。
レストランからの眺めは夜とは違ってまた格別である。

ゆったりと取られたビュッフェスペース。
夜とはガラッと変わり朝ごはんっぽい料理が並ぶ。
ローカルフードも一部にはあるが、大半は欧米スタイルの朝食である。

意識して、野菜や果物を中心にお皿に取っていく。
私の健康を心配してくれる妻にこのプレートの写真を送る。
若い頃と違い、ビュッフェだからといってできるだけ多く食べようなどという気は毛頭ない。
そもそも、三食込みで文句を言ってはバチが当たるが、どの料理も特に美味しいわけではないので。

そんなビュッフェの中で、フルーツは別格だ。
南国の果物はやはり南国で食べた方が美味しく感じる。

中でも、セントルシアの特産品というのがバナナである。
日本にやってくるバナナは青いうちに収穫して輸送中に黄色く追熟するが、現地で食べるバナナは食べ頃まで木に置いてので全然違う。
やっぱりこの土地土地のモノをいただくのが美味しくいただくコツだろう。

朝食を終えると、水着に着替えてプールに行く。
夜明け頃は雲がほとんどなかったのに、いつの間にか雲が立ち込めてきた。
写真的には綺麗でないが、日差しが弱い分、プールサイドで寝転んでいてもそれほど日焼けを気にしなくても済みそうだ。

嬉しいのは、プールサイドでの飲み物もインクルードなこと。
セルフサービスではあるが、ちゃんとしたビールサーバーもあってキンキンに冷えたビールが出てくる。
そうしてゴロゴロしながらブログなどを書いていると、気がつくともうお昼である。

ランチタイムもビュッフェなのだが、この日は女性が何やら作っていた。
プレートを見ると「チキンロティ」と書いてある。

オーブンで焼いた鶏肉を薄皮で巻いた料理のようだ。
食べるとちょっとカレー味のような感じ。
コーンスープも飲んでみたが、日本でよく飲むそれに比べてかなり薄いサラッとしたスープという印象である。

お昼を食べている客の後ろを鳩たちが悠然と歩いていく。
客のおこぼれが狙いなのか、毎食レストランをうろうろしている。

もっと大胆なのはこちらの小鳥。
バルバドスにいた奴と同じ仲間だと思うが、堂々とテーブルの上にやってきて、お皿の上の食べ残しを食べるのだ。
朝も来て、昼も来ると次第に可愛く見えてくる。
食べ終わったデザートの皿を食べやすいように鳥の方に押してやると、さっそくちょこちょこやってきて、皿の上に残る小さなケーキのかけらを美味そうに食っている。

この鳥のお腹を満たすくらいのカスは当然お皿に残ってしまうため、このホテルは鳥たちにとってもオールインクルーシブということになるのかもしれない。
結局この日はどこにも出かけることなく、午後も部屋でゴロゴロしたりプールサイドで過ごしたりして夜を迎えた。
欧米のバカンスではすっかりお馴染みの「オールインクルーシブ」というシステム。
多少割高になっても、旅先でいちいち何を食べようかと悩まなくていいなら、私のようなグルメでない人間にはありがたい。

セントルシアの首都カストリーズの丘の上に立つ「Bel Joy Hotel」。
悪くない選択だと思う。