それは小さな可愛い駅だった。

アール・デコ風のステンドグラスと照明。
一畑電車出雲大社前駅だ。

ここからローカル電車に乗って松江に向かう。

昔ながらの改札。昔の方が風情があったように感じてしまうのは、年をとったせいだろうか。

一畑電車の新型車両に乗る。2両編成のワンマンカーだ。

座席が木のパーティションで仕切られ、半個室のような変わった作りになっている。

見晴らしは悪くなるが、温かみがある。最近のローカル鉄道の頑張りは目をみはる。

電車は宍道湖のほとりを走る。
進行方向向かって右手に宍道湖が見えることはわかっていたので、あえて4人がけの席に座ったのだが、途中の駅でスイッチバックするため、宍道湖の脇を通る時には2人がけの席が湖側となる。これは意表を突かれた。
出雲大社前駅から終点の松江しんじ湖温泉駅まで1時間ちょっと。料金は810円だ。

ちなみにこの一畑電車、中井貴一主演の映画「RAILWAYS」の舞台となったことが駅舎に大きく表示されていた。この映画、予告編しか見ていない。

松江しんじ湖温泉駅近くの寿司屋「井津茂」でランチ。何代か続くそば屋だったが、何代か前にすし屋に変わったという。いずれにせよ老舗だ。

私は「にぎりスペシャル」(1600円)を注文。

妻はいつものように一番安い「箱膳」(1080円)を頼んだ。
どちらも茶碗蒸し、お汁、コーヒーがつく。なかなかの豪華版だ。
食べログ評価3.45、私の評価は3.20。

小雨の中、歩いて松江城に向かう。お堀が縦横に走っている。松江は水の都なのだ。

水辺にはごく当たり前のようにシラサギがいる。

道端には小さな可憐な花が咲いている。雨の中のお散歩がまったく苦にならない。

お堀を小舟が通り過ぎる。妻が「あの船にはコタツが付いているのよ」とテレビで見た知識を披瀝した。
私はこれまで一度の松江に興味を持ったことがなかったので、松江についての知識はゼロに等しい。お城があるのは知っていたが、水の都というイメージはまったく持っていなかった。

「松江って、いい街だなあ」と感心しているうちに、森に囲まれた松江城に着いた。

千鳥橋を渡り、階段を登っていく。森の木々が雨に濡れて、実に美しい。

櫓の白黒の壁をバックに燃えるように赤いモミジ。

こんなにも色鮮やかなモミジを見たのはいつ以来だろう。

石垣を抜けると待ち受けていたのは・・・黄色い世界。

松江神社のイチョウだ。

この神社には、松江松平家の初代藩主・松平直政や松江藩中興の祖といわれる7代藩主・松平治郷などが祀られている。
松平治郷は「不昧公」の名で親しまれ、松江には不昧公の名前を冠した食べ物や土産物があふれている。この不昧公、藩の財政を立て直しただけでなく、茶の湯や禅でも名をあげ松江の文化振興に尽力した人物だそうだ。
こんなことも、今回松江に来るまで一切知らなかった。

そして松江神社の隣に建つ洋館は「興雲閣」。1903年に松江市が明治天皇の行幸を願って建てたものだという。

そして天守閣が見えてきた。古びていて趣がある堂々たる城だ。
ただ、城を見るためには登閣料560円を払わなければならない。

四重五段地下一階の構造で、高さは約30mある。
貴重な現存天守のひとつとして、1935年に国宝指定を受けたが、文化財保護法が施行されると、建築された年号を証明するものがないことを理由に重要文化財に格下げされる。

「松江城天守を再び国宝に」という市民運動が盛り上がり、懸賞金500万円を掛けて証拠を探した。そして5年前、「慶長十六」などと書かれた祈祷札が松江神社で見つかる。これが松江城の建設年を示すものと認められ、2015年晴れて松江城は再び国宝に返り咲いたのだ。

天守閣の中には、ずらりと兜が並ぶ。

鎧兜に弓矢。

これは「総面」と呼ばれ、一部の高級武将のみが着用した防具だ。

松江城には近代的な設備がまったくない。昔のままのお城を体験できる。
名古屋の河村市長が名古屋城の建て替えを主張しているのも、こうした昔ながらの天守閣を再建したいということなのだろう。観光資源としては、より本来の姿で再生する方がいいに決まっている。バリアフリー論議を否定する気はないが、文化財を元あった形で再生させるのは世界的な流れだろう。その意味で、河村市長には頑張ってもらいたい。

天守閣4階に設けられた窓。

格子越しに見るモミジが鮮やかだ。

そして最上階に上がると、四方の眺望が開ける。

南を見れば、街並みの向こうに宍道湖が一望できる。

東を見ると、山から雲が湧きたち幻想的な光景が・・・

神々の国にふさわしい光景。いにしえの人々は、こうした雲にも神を感じたのだろう。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教といった一神教は砂漠で生まれ、八百万の神が雨の多い土地に生まれた。宗教とは、人が住む環境に強い影響を受けるものだ。

松江城を出て、小泉八雲記念館へ向かう。城の北側の石垣は立派だ。

途中、城山稲荷神社の赤い鳥居が目につく。

左右には苔むした狛犬や灯籠が並ぶ。風情のある参道だ。
ここで妻のスマホが壊れ、ワイモバイルのお客様センターに電話を入れる。まったく場違いな行動だが、この周辺に立ち込める霊気のせいなのか?

後で知ったことだが、この神社には小泉八雲が愛し通いつめた1000体もの石きつねが置いてあるという。スマホが壊れたのも、このきつねのせいなのか?
せっかくなら見てみたかった。

お城の北側の「塩見縄手」には昔ながらの武家屋敷が残っている。「日本の道100選」というのに選ばれているのだそうだ。それにしても、いろんな百選があるものだ。

そしてお目当の「小泉八雲記念館」も武家屋敷の一角にあった。
入場料は300円。

小泉八雲こと、ラフカディオ・ハーンは、アイルランド人の父とギリシャ人の母の間に生まれた。幼い頃、生まれたギリシャからアイルランドのダブリンに移り、ここでケルト文化に傾倒する。
明治23年、出版社の通信員として来日し、その後英語教師として松江にやって来る。そして松江で結婚した小泉せつから出雲に伝わる民話や伝説を語り聞き、それを英語で出版した。

この記念館の隣に小泉八雲の旧居(ヘルン旧居)がある。入場券は記念館と共通だ。
私個人は記念館よりもこの旧居の方が好みである。

そこにはとても美しい庭がある。


小泉八雲は数ヶ月この家を借りて住んだだけで、庭を作ったのは持ち主の先代根岸小石という人だそうだ。

八雲もこの庭が大層気に入り、名著「知られざる日本の面影」の中で、この庭の魅力を余すところなく書いたという。

そして、小泉八雲が使ったとされる机と椅子が畳の上に置かれていた。
椅子の高さに比べ、机の高さが異常に高い。そして、この机に座って眺める北側の庭について、八雲は「日本の庭園」の中でこのように書いている。

『北側の第二の庭は自分の好きな庭である。大きな草木は何一つない。青い小石が敷いてあって、小池が一つ珍奇な植物がその縁にあり、小さな島が一つその中にあって、その島には小さな山がいくつかあり、高さは殆ど一尺にも足らぬが、恐らくは1世紀以上の年を経たのも、その中にはある一寸法師的な桃と松がある小型の湖水が一つ、その中心を占めている。ではあるがこの作品に、そう見せようと計画されていたようにして見ると、目に少しも小型なものとは見えぬ。それを見渡す客間の或る一角から見ると、石を投げれば届くほどの遠さに、向うに真の島の或る、真の湖岸の景である。』

この背の高い机に座り、毎日この北の庭を眺めていたのだろう。
確かに、この家の庭には西洋にはない、日本独特の美意識が詰まっている。

塩見縄手を離れ西に進むと、「堀川めぐり」の乗船所がある。
松江城をぐるりと取り囲んだお堀を一周するこの「堀川めぐり」は松江観光の定番だという。

1日乗船券は1230円。3箇所の乗船所があり、1日乗り降り自由なのだ。

この季節、船内にはコタツが設えられている。これがないと寒くてとても船などのれたものではない。

橋桁の低いところを通過する際には、屋根が降りて来るので、お客もコタツの上に顔を伏せなければならない。これがこの遊覧船の一つのアトラクションにもなっている。

船はゆっくりとスタートする。

角野卓造似の船頭さんが案内してくれる。歌も2回歌ってくれるのだが、ちょうど橋の下をくぐる時に歌うので、声が響いて絶妙の音響効果を発揮する。
そして、船は静かにお堀を進む。こんな感じで・・・
これは想像したよりもはるかに素敵な船遊びだ。

民家の脇を抜けて・・・左に回ると・・・

松江城の天守閣が見えてきた。

夕暮れが迫り、川面に霧が立ち込める。幻想的だ。
堀川めぐりは20周年を迎えたという。松江に来たらこの船には乗った方がいい。

船を降りて、歩いて街に出る。雨もようやく上がった。

空港に向かう最終バスの出発まで後1時間。軽く夕ご飯を食べておきたい。

京橋と呼ばれるエリアにやって来た。ここのお堀もさっき船で通った。
明かりが灯って街が綺麗に見える。

店は船頭さんオススメの「月の瀬」。お団子屋さんだが、ラーメンが絶品なんだと言う。

これが「松江あごだしらーめん」(550円)。

スープが本当にやさしい味で、超私好みだ。これは本当にうまい。船頭さんに感謝だ。

ちなみに店の看板のお団子はイマイチだった。
食べログ評価3.23、私の評価は3.40。

ラーメンを食べ終わってバスターミナルへ急ぐ。
旧日本銀行のライトアップされた洋館が水面に映る光景は、とてもきれいだった。
松江は本当に本当にいい街だった。日本には私が知らない素敵な場所がまだまだあるに違いない。妻の還暦祝いの旅、本当にいい旅だった。
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私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。