<吉祥寺残日録>吉祥寺図書館📗 農文協編「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」(2013年/農山漁村文化協会)

8日から岡山に帰省するのを前に、図書館で雑草や草刈りに関する本を借りてきた。

これがなかなか興味深い。

たとえば、その中の一冊、徳間書店取材班編「雑草×雑学」の冒頭にはこんなことが書かれていた。

世の中には“知らなくても特に問題がない”ことはたくさんあり、足元に生きる雑草や野草の名を知らなくても困ることはありません。しかし、ひとたび意識を向けて関わりを持っていくと、興味深い世界が広がっています。

引用:「雑草×雑学」より

確かに、その通りである。

今年1月から井の頭公園の植物を観察し始めたおかげで、これまでほとんど名前を知らなかった植物たちがいきなり親しい存在となってきている。

公園を散策していても、名前を覚えた植物たちは親しい友人のような感覚で、季節ごとの変化が気になるようになった。

そして、それまでそこには存在しなかった植物がひょっこり顔を出していることにも気づくようになるのだ。

野草に興味を向けたとき、視覚面とは別に気になってくるのは“名前”かもしれません。図鑑のカタカナ表記の横に書いてある漢字表記を見ると、その植物が持つドラマやバックボーンが気になります。イヌ、キツネ、カラス、ノミなど小動物や鳥、昆虫の名前を接頭語にしたものの多いこと! スズメと付くのは“小さい”という意味が多いです。キツネがつく場合はキツネが化けた“偽物”というニュアンスだったり、イヌには“否”や“役に立たない”というニュアンスを含んでいるものもあります。

名前を知れば“雑草”ではなく、ひとつの種として、目に入ってくるのが不思議です。

万葉集をひもとくと、約1300年の時間を飛び越えて、日本人が昔の山野草に心を動かされていたことが分かります。山上憶良がセレクトした秋の花7選が現代にも受け継がれる“秋の七草”であることは有名です。

畑や荒れ地では雑草と呼ばれ、春には山菜と呼ばれ、自然の美しいところでは野草と呼ばれる植物たち。ふとした時に、可憐で小さい花に気づき、身近なところから攻め始めて、季節の野草をひとつひとつ認識していく。これは、身近な環境で散歩がてらに楽しめるコレクションであり、出先や旅先でもプラスアルファの楽しみを与えてくれるはずです。

引用:「雑草×雑学」より

「雑草×雑学」というこの本は、私たちの足元に咲く小さな草花をちょっとしたエピソードとともに写真付きで紹介した便利な本で、この一年で私が名前を覚えたいくつかの植物も掲載されていた。

でも、それ以外の植物のいかに多いことか。

雑草学は実に奥が深い。

雑草学ということで言えば、「雑草学入門」というちょっと難しい本もあった。

これは雑草を様々な角度から研究している学者さんたちが書いた本だが、その中に「雑草の生活史と生活環」という項目があり、まさに眼から鱗であった。

雑草は、抜いても抜いても生えてくる。雑草の生命力や草とりの苦労を表す際によく使われる表現である。抜いても抜いても生えてくる秘密は種子にある。根が残っていて再生するだとか、抜いた雑草を放置したために雑草が再生すると勘違いされることも多いが、雑草の大半は一年草であるため、刈取りや抜取り後の再生は多くない。抜取り後に新たな種子から発生するため、いくら抜いても雑草はなくならないと感じてしまうのである。しかし、この「抜いても抜いても生えてくる」という表現は、素人考えのようでいて雑草の本質を実に的確にとらえている。

土の中には大量の雑草種子が埋まっており、発芽のチャンスをうかがっている。ある調査事例では、畑土壌の中には56種の雑草種子が存在しており、最も種子数の多いスズメノカタビラでは1平米(深さ15cm)の土の中に多い場合でおよそ32000粒の種子が見つかっている。これらの種子はすべて一斉に発芽するわけではなく、だらだらと不斉一に発芽し、発芽しないものもある。発芽しなかった種子は土中で生き続け、翌年以降の発芽のチャンスを待っているのである。このような土中に存在する種子をシードバンクまたは埋土種子という。

引用:「雑草学入門」より

私の伯母はいつも「草の根を残すとすぐに再生するから、根から抜かなければならない」と言っていたので、私もその説を信じ切っていた。

しかし、どうやらその説は間違っていたらしい。

そして種子の発芽と光の関係については、こんなことが書いてあった。

発芽直後の個体は土中にあるため光合成できず、根の発達が不十分で養分吸収もできない。そのため、出芽に必要なエネルギーは種子中に貯えられていた胚乳などの養分に依存している。出芽可能深度と種子サイズには相関があり、20種の雑草を用いた試験では、シラホシムグラ、セイヨウヒルガオ、イチビといった種子サイズの大きな種では出芽深度5cmでも一部の種子は出芽するのに対し、ミチタネツケバナ、スベリヒユ、オオツメクサといった小さな種子では、大部分は表層から出芽した。小さな種子をつくる植物では、出芽できない埋土深度からの発芽を防ぐため、発芽に光を必要とすることが多い。水分や温度などの環境条件が整っていても光がないかぎり発芽できないため、光の届く土壌表層のみで発芽するようになっている。このように発芽に光を必要とする種子を光発芽種子という。

引用:「雑草学入門」より

防草シートやマルチといった日光を遮断する農業シートは、雑草のこうしたメカニズムを利用しているのだろう。

こうした発芽のメカニズムとともに、とても興味深かったのが、「アレロパシー」という現象である。

植物は、さまざまな物質を根から分泌し、土壌の物理的な性質だけではなく微生物フロラをその植物に有利になるように変えている。また多くの植物が、ある種の有機化合物を環境に放出し、周囲の植物の発芽や成長に著しく影響している。植物が有機化合物を介して他の植物の発芽や成長に影響を及ぼす現象をアレロパシー(他感作用)といい、アレロパシーに関与する有機化合物がアレロパシー物質(アレロケミカル)である。

引用:「雑草学入門」より

たとえば、クルミの樹の下では他の植物が少ないことがローマ時代から知られているという。

日本固有のアカマツの樹林では下草が非常にまばらで、この現象にもアレロパシーが関係していると見られている。

そして私の天敵である「セイタカアワダチソウ」にも強いアレロパシーがあるというのだ。

セイタカアワダチソウは北米原産で、原産地では他の植物と共存している。しかし、他の地域に侵入すると短期間に個体数を増加させ、侵入先でセイタカアワダチソウの優占した群落を形成する。セイタカアワダチソウは強いアレロパシー活性を示すため、アレロパシーがセイタカアワダチソウの優占した群落を形成する原因のひとつと考えられている。

アレロパシー物質として、シスデヒドロマトリカリアエステルがセイタカアワダチソウの根から単離同定されている。シスデヒドロマトリカリアエステルは、強いアレロパシー活性を示し、他の種の植物の発芽や成長を強く抑制する。さらに、セイタカアワダチソウの根からアレロパシー活性のある他のポリアセチレン化合物も見つかっている。セイタカアワダチソウはこれらの物質を根から土壌に分泌し、他種の植物の発芽や成長を抑制している。しかし、シスデヒドロマトリカリアエステルの土壌蓄積量は、年とともに増加し、最終的には、セイタカアワダチソウの生育でさえ抑制する濃度に達し、セイタカアワダチソウ自体も消滅してしまう。

侵略的外来植物の多くは、セイタカアワダチソウのように、原産地では他の植物と共存しているが、他の地域に侵入後、大繁殖して侵入先の生態系を脅かすことがある。それらの侵略的外来植物の大繁殖の原因のひとつにアレロパシーが関与している。

引用:「雑草学入門」より

知ったからといって、草刈りが必要なくなるわけではないが、理屈がわかると敵の弱点も見えてくるような気分になる。

面白いものだ。

そして、このアレロパシーを雑草防除に利用する研究も進められている。

アレロパシーは他の植物の発芽や成長に影響する自然界のひとつの現象であるが、この現象を環境配慮型の農業生産に応用する多くの研究がある。

アレロパシー活性の強い作物や品種を選抜したり、アレロパシー活性の強い作物を育種すると、作物の持っているアレロパシー能力を雑草の発芽や成長抑制に利用できる。また、アレロパシー活性の強い植物を栽培土壌にすき込むと、アレロパシー物質が植物の分解過程を経て土壌に放出され、雑草の発芽や成長を抑制できる。

また、アレロパシーの強い植物をカバークロップとして利用し、雑草を抑制できる。マメ科植物のヘアリーベッチはカバークロップとして、果樹園の下草管理に応用されている。しかし、カバークロップの利用にあたっては、カバークロップが農地などの周辺の生態系に拡散、繁殖しないよう十分に配慮する必要がある。

特定の組み合わせで他種の植物を同時に栽培すると、収量が増加したり雑草や病害虫が減少する。このような作物の組み合わせをコンパニオンプランツという。例えば、トマトとマリゴールドを育てると害虫や線虫の発生を抑制する。また、ニンニクとキュウリを同時に育てると、ニンニクから放出されるアリシンがキュウリの病虫害防止に有効である。

アレロパシー活性の強い植物の抽出物やこれらの発酵液が生物農薬として利用されている。植物由来のアレロパシー物質は、植物にのみ存在する作用点に働き、動物や人間に対して安全性の高い農薬を開発できるので、アレロパシー物質の構造をもとに幾つかの除草剤が開発されている。たとえば、除草剤のメソリオンはオーストラリア原産のブラシノキから単離されたアレロパシー物質レプトスペルモンから、水田除草剤のモゲイトンはクルミのアレロパシー物質ジュグロンから、ロテノンはマメ科植物から開発されている。アレロパシー物質は、環境に優しい生物農薬として雑草防除に用いることができる。

引用:「雑草学入門」より

実に興味深い情報である。

植物を利用して雑草を防除できるのであれば、除草剤を撒くよりずっと心地よい。

クルミの木が日本で育つのかどうかはわからないが、少し研究する価値はありそうだ。

そして・・・

今回借りた本の中で、最も親しみが湧いたのが農文協編「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」という一冊である。

これは『別冊 現代農業』という農業雑誌の2012年10月号を単行本にまとめたものだそうだが、そこには知恵と経験を使って独自の雑草対策に取り組む全国の農業者たちの姿が映し出されていた。

「はじめに」としてこんな文章から始まっている。

アジアモンスーン地帯に位置するわが国では、昔から「農業は雑草との戦い」とも呼ばれるほど、草刈り・草取りは、一年の農作業のなかでも大きな割合を占めています。

畦畔などの草刈りは、作物を育てる作業などとともに重要な作業で、それに費やす時間も労力も相当なもの。炎天下で刈り払い機を背負った作業に泣かされているという人も多いのではないでしょうか。その作業も、機械の持ち方や草を刈るタイミングの見極めなどを工夫することで、負担を大きく減らせるばかりか、安全性も高まる、そんな実践を数多く収録しています。

引用:「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」より

現役農家が実践するちょっとした草刈りの工夫。

キーワードは「ラクラク」である。

たとえば・・・

「低く刈りすぎたらダメなんだ、と気づかせてくれた父ちゃんの言葉」

  • 低くかると、刃の摩耗が三倍くらい早い
  • 高く刈ろうが、低く刈ろうが、その後の草の伸びはそう変わらない
  • 低く刈ると、表層のいい泥が雨で流される

まさに農家の長年の経験から出たやり方なのだろう。

「なるべくチンタラやることこそ極意」

草刈りをラクに、速くやる極意とは? ズバリ「なるべくチンタラやること」。刈り払い機はぶんぶん振り回さず、ゆったり大きく振る。ある程度続けて刈ったら、休憩がてら刈り刃を替えて切れ味を保ち、エンジン回転数は上げない。などなど「側から見ると『何あいつチンタラやってるんだ?』って思われるけど、実は必死で刈ってる人の倍速い」のが青木流。

引用:「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」より

具体的には・・・

  • 最大のポイントは、刈り払い機のセッティング。自分の体に合わせてハンドルの取り付け位置・角度・幅を調節。自然に立った状態で脇を締めてハンドルを持ち、地面と刈り刃が水平になるようにする。なるべく刈り払い機が体に密着する状態にして、腕力ではなく腰の回転でリズムよく振れば、長時間刈っても疲れない。
  • 刈り刃は、カッターナイフの感覚ですぐ交換する。常に切れ味のいい刃を使っていれば、エンジン回転数を全開から3割くらい落としても、刈れるスピードは3割増し。

「場面に合わせて4つの刃を使い分け」

  • チップソー・・・ノコギリのような刃で立ち木の多いところやササ、カヤなど硬いものを切るときに使う。重量が重く、値段が高い。
  • 八枚刃・・・長い草を刈る時も、巻きつきにくく、石などの飛散も少ない。頻繁に研磨しないとすぐ切れなくなるのが難点。
  • ロープタイプ・・・プラスチックロープが回転して草を刈る。石垣やコンクリートのそばなど当たると刃が欠けそうなところを刈る時に使う。普通の刃に比べると刈りにくく、重量もあるので、機械の燃費が悪くなる。
  • プロペラタイプ・・・重量が軽く、両面使える。疲れにくいが、石などの飛散がひどく失明の危険も。短い草を刈る時は抜群だが、長い草はよく巻きつく。

「地表1cmの草削りで雑草との縁を切る」

手っ取り早い対策は、三角鍬での草削り。といっても「土の表面1cmをカンナで薄く削る感じ」でやる繊細な作業だ。狙うは、雑草の茎と根の境目。ここを切り離してやれば、草は二度と復活できない。地表1cm以下で眠っている草のタネを起こすこともない。後は何もしなくても、草は生えないというわけだ。

作物を植える前、あるいは定植後なるべく早い時期に「あえて草が一斉に生えるように管理する」。そして、ある程度草が生えそろった時点で地表1cmを草削り。これで雑草対策は終了。

引用:「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」より

このほか、「カルチ」や「スパイラルローター」という機械を使ったり、刈り払い機の代わりに昔ながらの大鎌を使って除草する農家も登場する。

誰かに指図されず、自分が信じる方法で試行錯誤するのも農家の醍醐味のようだ。

最後に、刈り払い機のメンテナンスについて・・・

「掃除・目立て・ハンドル調整で刈り払い機の悩み解決」

刈り刃のチップソーは、使えば使うほど切れ味が悪くなります。でも目立てしてみたら、捨てる予定だった古いチップソーまで切れ味が蘇りました。

まず刈り払い機をコンテナなどに載せ、自分の体の中心に刈り刃がくる位置に座ります。チップソーのチップには、逃げ面とすくい面があります。それぞれに対してグラインダーの砥石を垂直に当てて砥ぐのがコツです。研ぎすぎるとチップがすぐに減ってしまうので、当てる時間は本当にちょっとずつ。慣れるまでは少し時間がかかりますが、グラインダーのスイッチをOFFにした状態で研ぐ作業をイメージしながら何度か練習すると、うまくできるようになります。また目にチップの破片が飛んでくると危ないので、必ず眼鏡をかけてやります。

引用:「農家が教えるラクラク草刈り草取り術」より

草刈りに悩んだら、こうしたプロ農家の知恵を読み直して、いろいろ試してみたいと思う。

どんなことでも、知らないことを学ぶのはいろいろ発見があるものだ。

<吉祥寺残日録>吉祥寺図書館📗ション・ブルックス著「ガーデンブック」(1984年初版/イギリス/メイプルプレス) #210909

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