軍事オプション

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トランプ大統領の国連での発言は、ぶっ飛んだものだった。

韓国の「朝鮮日報」の記事を引用する。

『 ドナルド・トランプ米大統領が19日(現地時間)、国連総会の演説で「ロケットマン(北朝鮮の金正恩〈キム・ジョンウン〉朝鮮労働党委員長)は自殺行為の任務を進めている」と述べた。

トランプ大統領は同日、大統領就任後で初めてとなる国連総会演説で、「北朝鮮は堕落した政権だ」「北朝鮮は全世界を脅かす無謀な核と弾道ミサイル計画を追い求めている」「米国と同盟国が脅かされるなら、北朝鮮を完全に破壊するしかない」と語った。これは北朝鮮の核・ミサイルによる挑発行為が続けば、軍事オプション(選択肢)を選択することもあり得るという警告として受け止められている。』

敵対国とはいえ、他国の国家元首を「ロケットマン」と呼ぶのも異例だが、他国を「完全に破壊する」という表現を使うことも異例だ。この発言が出た瞬間、国連総会の議場もどよめいたという。

この演説の中で、トランプ大統領は横田めぐみさんの拉致話にも言及した。母親の横田早紀江さんはトランプ演説に感謝すると発言した。

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韓国では、アメリカが軍事オプションに傾きつつあるとの見方が急速に高まっている。

朝鮮日報の社説は、前日のマティス国防長官の発言を読み解こうとしている。

『 米国のマティス国防長官は18日「ソウルを重大なリスクにさらさない方法で、北朝鮮にとれる軍事的な選択肢はあるのか」との質問に「そのような選択肢はある。ただしその詳細は明らかにしない」と述べた。米国が北朝鮮という脆弱な相手を攻撃できない理由はただ一つ、韓国の国民が人質に取られているからだ。そのため米国が北朝鮮に対して軍事行動を取る可能性は事実上ないとの考え方がこれまでは支配的だった。ところが米国が韓国の被害を最小限に抑えて北朝鮮を攻撃できるとなれば、それは北朝鮮への軍事行動が現実となる可能性が一気に高まることを意味する。そのためマティス長官による今回の発言は、これまでの米政府関係者の言葉とは完全に次元が異なるものと言えるだろう。

「ソウルを重大なリスクにさらさない軍事的な選択肢」として考えられるのは何か。まずは北朝鮮の核ミサイル施設に目標を限定した攻撃が考えられる。北朝鮮の核開発能力を完全になくすことはできないにしても、これによって厳しい警告を突きつけ、北朝鮮が全面戦争という形で報復できないようにする攻撃は可能ということだ。あるいはそれ以外ではサイバー攻撃、北朝鮮船舶の貨物検査による事実上の海上封鎖なども考えられる。もちろんソウルを全く危険にさらすことはないと100%断言はできないが、それでもこれらは全面戦争に拡大する可能性が比較的低いシナリオと言えるだろう。

米国は北朝鮮に対する経済制裁についてはほぼその手段を出し尽くした感がある。もちろん石油関連製品の取り引き制限を中心とする今回の北朝鮮制裁決議2375号も、これが北朝鮮経済を一層締め上げることへの期待は大きい。しかしそれでも北朝鮮が挑発行為をやめる兆候は全くみられない。しかも金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は新たな制裁決議が採択されてからわずか3日後、日本上空を通過する中距離弾道ミサイルを再び発射した。今やマティス国防長官だけでなく、米国の国務長官やホワイトハウス国家安全保障補佐官、国連大使らも一斉に「当面は外交面での解決を目指す」とはしながらも「軍事的な選択肢が実行に移されるのもそう遠くない」という趣旨のメッセージを次々と出し始めている。そのような中で「ソウルを危険にさらさず」とマティス国防長官が発言することで、北朝鮮に対する軍事行動はもはや口だけではないと誰もが考えるようになった。今年4月には中国の国営メディア「環球時報」も「米国が北朝鮮の核施設に対して外科手術的な攻撃を行ったとしても、中国が軍事介入をする必要はない」という趣旨の報道を行っている。

北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成が現実味を帯びる中、米国社会全体が北朝鮮を実質的な脅威と認識し始めたことも大きい。米政府の全ての政府省庁にとっての第1の課題も今や北朝鮮の核問題になっているという。そのためこの問題に対する米議会の関心もやはり最高レベルに達しており「決して傍観しない」との雰囲気あるいは国民感情も根強く広範囲に及ぶ。北朝鮮が6回目の核実験を行った直後、韓半島(朝鮮半島)有事に韓国在住の27万人の米国人を避難させる作戦の責任者が、韓国国内を視察していた事実も最近明らかになった。毎年2回行われる演習の一環と説明されているが、それにしてもその時期を考えると非常に意味深長と言わざるを得ない。

現在、韓半島周辺では米国と日本、そして中国とロシアがそれぞれ軍事演習を行っている。ロシアの複数のメディアは今回の中ロによる軍事演習について「米国による北朝鮮攻撃を念頭に置いたもの」と報じた。ところがその一方で韓国政府の言動をみていると、未だに「まさかそんなことが」と考えているようにしか見えなない。』

日本のメディアは横田めぐみさんの拉致に言及したことも含めトランプ演説に好意的、もしくは面白がるようなトーンで伝えているように感じる。日米の株価も値を戻した。まるで北朝鮮のミサイル発射時に比べ危機レベルが下がった印象だが、むしろ東アジアの危機のレベルはここ数日で一段上がったと私は感じている。

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一方、アメリカの反応はどうか?

トランプ大統領に批判的なCNNテレビはこのように伝えた。

『 トランプ米大統領は19日の国連総会で、就任後初の一般討論演説を行った。核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に対して「完全に破壊する」と警告するなど強硬路線を主張し、米国が国際社会で果たしてきた役割を大きく転換しようとする姿勢を鮮明にした。

トランプ氏は41分間の演説の中で、国内向けに掲げてきた「米国第一」のスローガンを改めて繰り返し、「私は常に米国を最優先する。皆さんも指導者として自国を常に最優先するだろうし、そうするべきだ」と強調。主権国家がそれぞれ自国の利益を追求する権利を尊重するべきだと訴えた。

米国が戦後一貫して国際協調を重視し、その主導役を果たそうとしてきた姿勢から、大きな方向転換を図った形だ。』

アメリカが主導してきた「国際協調主義」からの方向転換に焦点を当てている。アメリカは国連分担金の22%を負担する最大のスポンサーだ。このまま北朝鮮問題で中露の協力が得られず国連が役に立たないと判断すると、トランプ大統領は国連分担金の不払いを主張するかもしれない。

そしてオバマ氏が成し遂げたイランとの核合意についても、「率直に言って米国の恥。これで終わると思わないでほしい」と述べ、改めて離脱を示唆した。そしてイランを「地域の情勢を不安定化させている残忍な政権」と決めつけた。オバマ氏の努力はこれでおしまいだ。

すべての時計の針が逆戻りしている。

日本の総選挙が終わり、北半球が冬を迎える頃、東アジアに何が起きるか、ますます心配になってきた。

日本のメディアにもぜひ強い危機意識を持って広い視野で取材を続けてもらいたい。

 

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