<吉祥寺残日録>何もしない岸田総理が初の英断!しれっと繰り出した「次世代原発」への方針転換 #220825

何もしないのに高い支持率を維持し「岸田マジック」とも呼ばれたラッキーな岸田総理。

ここにきて統一教会や安倍元総理の国葬問題で批判を浴び、物価高やコロナの感染拡大も相まって支持率が急降下中である。

おまけに夏休み中に岸田さん本人がコロナに感染、予定していた外遊も取りやめになるなどここにきて「岸田マジック」のパワーが衰えてきた。

こうした逆風が後押ししたのか、昨日オンラインで矢継ぎ早に新たな方針を発表した。

まずはコロナ対策。

欧米に比べて遅れていた水際対策だが、ようやく来月7日から日本への入国時に義務付けられていたPCR検査が免除され、ワクチン3回接種の証明書でOKとなった。

海外旅行のハードルが少し下がった形だが、1日の入国者の上限は緩和しながらも維持するとした。

外国人観光客についてはガイドが同行しないツアーも受け入れるものの、個人客はまだ入国を許可しないという。

もう一つは医療機関や保健所から悲鳴が上がっていた「全数把握」を見直し、高齢者や基礎疾患のある人のみ従来通りの報告を求める形に改める。

若い人たちについては詳細な報告は求めないが感染者数の報告は引き続き求めるそうだ。

まあ岸田さんらしい、間をとったようなマイルドな方針だが、ウィズコロナに向けて遅まきながら一歩前進である。

いろいろな議論が出尽くしてある程度落とし所が見えたところでそれに追随する政策を発表するのだから、民意から大きく離れることはないものの、常にタイミングがちょっと遅れるのだ。

しかしコロナよりも注目されるのは、原発に関する新たな方針だった。

ウクライナ危機の影響で原油価格が高止まりする中で、安倍さんでも踏み込めなかった原発の積極活動に大きく舵を切ったのだ。

昨日午後に開いた政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、来夏以降最大17基の原発を再稼働させる方針を表明した。

そして、政府が前面に立って再稼働に向けた調整にあたるとかなり前のめりなのだ。

さらに、岸田政権としては初めてと思われる重大な決断もしれっと行った。

東日本大震災以降、反原発の世論に押されて凍結していた原発の新増設についても、政府方針をあっさり転換し、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」を検討するよう指示したのだ。

「次世代革新炉」というのは、小型モジュール炉(SMR)や改良型の軽水炉を指すとみられ、現在稼働している原発に比べて格段に安全性の高い新型の原子炉に置き換えていくということである。

原発全廃を求める世論は今も根強いが、エネルギー価格の高騰で電気代など家計への負担が増大しているタイミングを見計らって次世代原発をさりげなく口にしたのは「岸田マジック」だった。

おかげでメディア、特にテレビは大きな拒否反応を示さなかった。

これまで福島の教訓を盾にして反原発に肩入れしていたのが嘘のような反応で、私はいささか拍子抜けしてしまった。

でも私も近頃、日本のエネルギーはある程度原子力に頼らざるを得ないと考えているので、古い原発をだましだまし使い続けるよりも、新しい原発に作り変えるという方針に転換したことを評価したいと思う。

私が岸田さんの政策を評価するのは初めてのことだ。

福島の事故を受けて古い原発は廃炉が決定したものも多いが、再稼働する中には稼働から40年以上経過したものもある。

岸田さんは最長60年とされている原発の稼働期間をさらに伸ばすことも検討するという。

このまま古い原発を使い続けるぐらいならば、次世代のより安全な原発に作り直した方がいいに決まっている。

原爆と福島の事故により日本人には世界一強い「核に対するアレルギー」が植え付けられてしまったが、核エネルギーの平和利用は自然エネルギーと共に人類の未来にとって残された数少ない希望だ。

福島以前のように、「原発は安全だ」などと安全神話を蘇らせてはいけない。

核エネルギーの危険性を十分理解したうえで人材を育成し研究を続けることによって、きっと将来それは私たちにとって欠かせないエネルギー源になるだろう。

地球温暖化の兆候がすでに世界中に現れている中では、自然エネルギーと核エネルギーを活用する以外、私たちに道はないというのが最近の私の考えである。

日本経済新聞は17日の社説で、「原発新増設へ明確な方針打ち出せ」と政府に迫っていた。

ロシアによるウクライナ侵攻が世界のエネルギー安定供給を脅かしている。化石燃料の燃焼などで排出され、気候変動の原因となる温暖化ガスを減らす脱炭素と、エネルギー安全保障をいかに両立させるかが喫緊の課題だ。

官民あげて、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入を大胆に増やさねばならない。1割程度にとどまるエネルギー自給率の向上にもつながる。

加えて、稼働中に二酸化炭素(CO2)がほとんど出ない原子力発電も重要な選択肢となろう。岸田文雄首相は、表だった議論を避けてきた原子炉の新増設を政治決断する時だ。東京電力福島第1原子力発電所事故を教訓に、安全性と信頼の確保が大前提となる。

英国は洋上風力発電を拡大する一方、50年までに原子炉を最大8基建設し発電量に占める原発比率を足元の15%から25%に増やす。現在稼働中の11基のうち、10基は28年までに老朽化などを理由に廃止する。1基は運転期間の40年から60年への延長を検討中だ。

フランスも太陽光発電や洋上風力発電を大幅に増やしつつ、原発を新設する。50年までに6基を建設し、8基の追加を検討する。

原子炉は設計、認可、建設、安全審査、地域住民の同意取得などを含めると計画から稼働まで10年以上かかる。兆円規模の巨額投資も必要だ。政府方針が不透明なままでは開発を進めにくい。

英仏が30年以降のエネルギー需給を見据え、今のタイミングで原発の運転期間延長や新設の計画を明らかにしたのは理にかなう。日本も見習うべきだ。

引用:日本経済新聞

日本は自然エネルギーへの移行が遅れているように感じていたが、調べてみると太陽光発電による発電量はすでに中国、アメリカに次ぐ世界3位だということがわかる。

小池都知事が提唱するように新築住宅の屋根に太陽光パネルの設置を義務化することにも賛成だが、それだけではやはり化石燃料への依存からは脱却できないだろう。

どれほど世論の反対があろうとも、必要なものは決断し推進しなければならない。

まずは岸田さんや政府が次世代原発の何たるかを国民に説明し理解を求めることが重要である。

今日の発表はそのあたりの説明は一切なく、まさに気付かれないようにしれっと文言を忍び込ませたという実にせこいものだった。

おかげでメディアの注目も集めず今日のところは乗り切ったのだが、そんな態度ではどこかでしっぺ返しを受けるだろう。

ここは毅然として正々堂々、国民を説得してもらいたい。

ちなみに、22日の日本経済新聞に次世代原発の一つである「小型モジュール炉(SMR)」についての特集記事が出ていたので、引用させてもらおうと思う。

安全性や建設費の安さを特徴とする小型モジュール炉(SMR)の導入に世界が動き出した。大規模発電所を主体とした電力供給のあり方を変える可能性を秘め、米新興ニュースケール・パワーなどが新市場開拓に挑む。米欧と対立する中国やロシアはいち早く実用化を進める。気候変動やウクライナ危機で複雑さを増すエネルギー問題を解く有力技術として開発競争が熱を帯びてきた。

引用:日本経済新聞

小型モジュール炉(SMR)は大型化を推し進めてきた従来の発想を転換し、原子力発電所の新たな形を探る技術。

その利点は、①安全性、②工場生産性、③柔軟性と言われる。

1つ目の安全性は原子炉をプールに沈める構造など設計上の工夫で確保する。2011年に起きた東京電力福島第1原発事故では津波で電源が失われ、冷却ができずに炉心溶融(メルトダウン)を招いた。SMRは電源や複雑な操作に頼らずに大事故を防ぐ発想を取り入れている。

2つ目の工場生産性は、原子炉などの設備の大半をあらかじめ工場で製造する手法の特徴を指す。品質の確保や工期の短縮、「量産」によるコスト低減を見込みやすい。

3つ目の柔軟性も特徴だ。需要が小さく送電網が未発達な場所でも設置できる。地産地消の電力インフラの構築に役立つ。大規模集中型から分散型への転換は脱炭素に向けた大きな流れだ。

再生可能エネルギーと、SMRを組み合わせれば、二酸化炭素(CO2)を排出せず、天候変動や災害にも強い、安定した電力供給を実現する社会の未来図を描ける。SMR市場は2030年に130億ドル(約1兆7千億円)に達するとの予測もある。

引用:日本経済新聞

この記事の中では、各国で進むプロジェクトがいくつか紹介されている。

まずはアメリカの新興企業「ニュースケール・パワー」がルーマニアで進めるプロジェクト。

「欧州のエネルギー安全保障が強化され、ルーマニアと米国で数千の雇用を生み出す」。ロシアのウクライナ侵攻が続くさなかの6月下旬、主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開かれたドイツ南部のエルマウでバイデン米大統領は訴えた。

念頭にあるのがニュースケールによるルーマニアでのSMRの設置計画だ。バイデン氏は「画期的な米国の技術の開発促進を支援する」と強調し、資金支援などで後押しする姿勢を打ち出した。

ニュースケールは2007年設立の新興企業だ。大型化を追求してきた従来の原発の出力が1基100万キロワットを超すのに対し、同社のSMRは10分の1以下の7万7000キロワットと小さい。気候変動対策などで活用が期待されたが、足元ではエネルギー安保の面で再び脚光を浴びつつある。

ニュースケールのこれまでの試算によると、米国内にSMRの発電所を設ける費用は1キロワットあたり3000ドル以下と、5000ドル以上の大型炉に比べほぼ半額の水準になるという。

同社のSMRは需要や立地条件に合わせて複数基を置く。巨費を投じて大規模な発電所と送電網を築き、遠方の消費地に電力を送ってきた従来の発想とは一線を画す。

原子炉を覆う格納容器の世界大手、IHIは日揮ホールディングスや国際協力銀行と共にニュースケールに出資する。

引用:日本経済新聞

ニュースケールの第1号の発電所は2029年にもアメリカ北西部アイダホ州で稼働する計画だ。

ヨーロッパでもルーマニア以外に、ロシアの資源に頼ってきた東欧諸国で導入構想があるという。

カナダでは・・・

カナダの電力会社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)は21年12月、新たな原発の建設計画の協業先に日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力合弁会社、米GE日立ニュークリア・エナジーを選定した。

GE日立が開発した出力30万キロワットのSMR「BWRX-300」を採用し、28年にも初号機を完成させる見通しだ。GEや日立が強みとする沸騰水型軽水炉(BWR)をベースとし、豊富な知見をもつ。知名度や信頼性は高く、米国などでもプロジェクトが進行中だ。

引用:日本経済新聞

イギリスでは・・・

英国は「グリーン産業革命」の柱の一つに原子力を位置づけ、SMRの開発を推進してきた。経済成長のエンジンとしての期待も大きく、20年にはロールス・ロイスを中心とする協議会が政府の関与を前提に20年間で16基のSMRの発電所を建設し、4万人の雇用を創出する構想を発表した。

発電所の構成機器などの8割を英国内で製造し、520億ポンド(約8兆円)の経済効果を見込む。ロールス・ロイスは子会社を通じて出力47万キロワットのSMRを手がけ、30年代初めに初号機の稼働をめざす。将来の輸出も視野に入れ、18世紀後半に産業革命を起こした同国の製造業の復権の鍵となる可能性もある。

引用:日本経済新聞

中国やロシアでは西側諸国以上にSMRへの取り組みが早い。

まず中国では・・・

中国の動きも速い。国有原発大手の中国核工業集団は21年7月、海南省でSMR「玲龍一号」の実証炉を着工した。出力は12.5万キロワットで、国際原子力機関(IAEA)の安全性評価も通過した。玲龍一号は発電に加え暖房や海水淡水化にも使える設計だという。

引用:日本経済新聞

ロシアでは・・・

ロシア国営のロスアトムは20年5月、世界初の浮体式原発「アカデミック・ロモノソフ」の商業運転を極東チュクチ自治管区内で開始した。出力3.5万キロワットの原子炉を2基積んだ船型で、地区のエネルギー需要の50%を賄うという。さらに27年以降、出力5万キロワットの新型SMRを積んだ船4隻を順次稼働する予定だ。
ロスアトムは陸上での展開も視野に入れる。20年12月、ロシア極東のサハ共和国と出力5.5万キロワットのSMRを北部地域に建設することで合意した。24年にも着工し28年に運転を開始する。

引用:日本経済新聞

世界の原発市場で中ロの存在感は大きく、軍事的な援助や融資を絡めてアジアや中東、東欧などへの輸出を進めてきたとされる。

国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、17年以降に世界で着工した31基の原発のうち、ロシア製と中国製が27基を占めたそうだ。

これに対して、日本は福島原発事故の影響で完全に出遅れているが、原発技術を持つ日本企業は個別に技術開発を進めている。

SMRの導入に積極的な米英やカナダに比べ日本は慎重だ。与党の一部などに活用論があるが、東京電力福島第1原発事故の反省を踏まえ、原発の新増設の凍結が続く。

そうした中でも将来の建設を見据えた動きが出てきた。三菱重工業は出力30万キロワット規模のSMRを開発し、21年に国内の電力大手と初期の設計協議に入った。

SMRの商用化は原子炉の冷却材に普通の水(軽水)を使う軽水炉が先行する見通しだが、世界では「次」を見据えた技術開発も進む。日本でも東芝が高温の熱を取り出せる技術として注目される高温ガス炉の研究に挑む。蓄熱設備を併設して発電量を調整したり、水素製造プラントと組み合わせたりする用途も想定する。

引用:日本経済新聞

50年経てば、科学も進歩し新たな技術も生まれる。

核エネルギーと人類の出会いはまだ始まったばかりで、原子力という選択肢を完全に捨て去るにはまだ時期尚早、きっと将来に禍根を残すことになるだろう。

広島、長崎に加えて、福島の教訓も持つ日本は、世界一安全な技術を確立して原子力の平和利用を追い求めることで、ぜひエネルギーの自給自足を実現してもらいたい。

そして核のゴミ処分場の問題も忘れずに・・・。

もし国民の納得を得てこの重大な方針転換を成し遂げられれば、岸田総理の功績は国葬で送られる安倍さんをはるかに越えるものとなると私は思う。

ついでに、今回の原油高を逆手にとって、国民に協力を仰ぎ国を挙げた省エネ運動を進めて、プーチンの道具となっている「サハリン2」からさっさと撤退してくれればスッキリするのだが。

ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾への威圧を受けて、世界の形は大きく変わってしまった。

「経済安全保障」という言葉がずいぶん聞かれるようになったが、食糧とエネルギーはできるだけ地産地消で国内で賄う方法を考えなければならない。

お得意の「検討します」だけではどうにもならない大きな曲がり角に差し掛かっている今だからこそ、強力なリーダーシップが求められる。

岸田さんにこの難題が解決できるのかはなはだ心もとないが、まずはコロナを治してブレずに頑張っていただきたいものだ。

<吉祥寺残日録>岸田政権で再び停滞しそうな日本の脱炭素社会への道 #211105

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