<吉祥寺残日録>パレスチナ危機🇵🇸 イスラエルが辞任要求を突きつけた国連グテーレス事務総長の勇気 #231025

国連は無力だ。

しかし、国連に代わって世界平和のために働く国際機関は他には存在しない。

イスラエルとパレスチナの間で危機が深まる中で、国連のトップであるグテーレス事務総長に対しイスラエルが辞任要求を突きつける事態となってしまった。

紛争当事者の間に立ち、戦火を逃げ惑う市民を守り紛争解決の糸口を探る役目を担う国連といえども中立を保つことは難しい。

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辞任要求の発端となったのは、24日に開かれた国連安保理でのグテーレス氏の発言。

イスラエルとパレスチナの外相が参加しての閣僚級会合でのことだった。

グテーレス事務総長は冒頭、ガザ地区の人道危機について「(イスラエル軍の攻撃は)明白な国際人道法違反だ」と述べたという。

ハマスによる攻撃は正当化することはできないとしつつ、このように発言したのだ。

「イスラム組織ハマスによる攻撃は何もないところから突然起きたわけではない。パレスチナの人々は56年間、息苦しい占領下に置かれてきた」

私からすれば、至極もっともな勇気ある発言だと思うのだが、突然ハマスの攻撃を受け過去半世紀で最大の犠牲者を出し、今も多くの人質を捉えられているイスラエルとしては、聞き捨てならない暴言だと感じたらしい。

イスラエルのエルダン国連大使は「テロ行為を正当化している」として直ちに事務総長の辞任を求めた。

「まともな人間であれば理解できない発言だ。グテーレス氏は事務総長を辞任しなければならない」

そして予定されていたグテーレス事務総長とイスラエルのコーヘン外相との会談も中止となった。

もちろん、イスラエルの主張にも一理ある。

今回の危機の引き金をひいたのは紛れもなくハマスであり、イスラエルには国民を守る義務がある。

とはいえ、現在イスラエルが行っていることはガザ地区全体に対する無差別空爆であり、近い将来、ハマス壊滅を目指してガザに地上侵攻することは確実視されている。

イスラエル側の死者が1400人ほどとこのところほとんど増えていないのに対し、パレスチナ側の犠牲者数は今も増え続け、5000人を超えた。

ガザ地区への支援物資の搬入は、イスラエルが承認したものについて3日前から開始されたが、その量は200万人と言われるガザの人口を賄うにはあまりにも少なく、発電機を回すための燃料の持ち込みは頑なに拒否している。

多くの負傷者が運び込まれている病院の発電機もあと数日で動かせなくなると悲鳴が上がっている。

グテーレス事務総長の発言の裏には、現地での支援にあたる国連職員やNGOからの突き上げがあるのは確実だ。

ハマスは依然として220人の人質を人間の盾として利用している。

23日、2回目の人質解放としてイスラエル国籍の2人の高齢女性を自由にしたものの、彼女たちの夫は依然囚われの身のままである。

戦闘が激化し連日多くの人命が失われる中で、220人の人質の存在は相対的に軽く見られがちだが、北朝鮮による拉致問題で国際社会の協力を求める立場の日本政府が積極的にこの問題解決に動こうとしないのは理解できない。

ハマスが人質にした人の中には多くの外国人が含まれている。

タイの報道を見ると、拉致する際にハマスの戦闘員がタイ語で呼びかけたという証言があり、国際社会の関心を集めるためにあえて多国籍の人を狙ったのかもしれない。

先週末開会した国会では、減税や統一教会などの質疑ばかりが注目され、ガザの人道問題やイスラエルの人質問題はほとんど議論されていないのが日本の実態だ。

北朝鮮による拉致問題解決が政権の最優先課題だと本気で思っているのであれば、白昼公然と起きた今回の拉致事件は日本の苦しみを世界と共有するチャンスであり、この機をとらえて行動しないことなど考えられないはずである。

24日、フランスのマクロン大統領がイスラエルを訪問するなど、欧米首脳たちの活発な動きが続いている。

こうした中で日本を除くG7の6カ国が共同でイスラエル支持の声明を発表した際、日本国内では議長国の日本だけがそれに加わっていないことを危惧する論調も見られた。

しかし私は、この問題で日本は独自の立場を明確にすべきだと考える。

宗教の面でも経済の面でも日本のスタンスは欧米諸国とは明らかに異なる。

むしろ人質問題やガザの人権危機の解決でイニシアティブを取ることこそ日本のあるべき姿だと思う。

今回示されたグテーレス事務総長の姿勢は日本政府の立場と近いのではないか。

ハマスの行動は非難されるべきだが、イスラエルの占領政策は明らかに国連決議に違反している。

日本は国連と歩調を合わせることにより、誰が関与しても難しいパレスチナ問題で果たせる役割があるように感じる。

<吉祥寺残日録>国連75年と吉田松陰の「幽囚録」 #200923

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