<吉祥寺残日録>「直ちに避難!」北朝鮮のミサイルが北海道周辺に落下するとの“Jアラート”にビックリ! #230413

このところ連日黄砂のニュースが賑やかだと思っていたら、大陸から別のものが飛んできた。

毎度おなじみ北朝鮮の弾道ミサイル発射の速報である。

ただその内容はいつもよりも切迫していて、各テレビ局は番組を中断して以下の文面を読み上げ続けた。

『直ちに避難。直ちに避難。直ちに建物の中、又は地下へ避難して下さい。ミサイルが、08時00分頃、北海道周辺に落下するものと見られます。直ちに避難してください。』

これはなかなかの情報である。

時間は午前8時前、多くの人が会社や学校に出かける時間だ。

この情報を受けて北海道では交通機関がストップしたり、学校が登校時間を繰り下げたりする騒ぎとなった。

この時間、私はブドウ棚を解体する業者さんと戸外で話しているところだったが、妻が慌てた様子で私にテレビを見るように言う。

その時、NHKではこんな画面が流れていた。

これまでのJアラートは何度か出されたが、日本の領土・領海にミサイルが落ちるかもしれないという報道は見たことがない。

これはもう戦時のニュースである。

政府与党はこういう事態を想定して反撃能力、すなわち敵の領土に反撃できるミサイルの保有が必要だと主張しているのだから、もしも北海道に着弾するようなことがあれば、これはすぐに戦争になる。

北朝鮮のミサイルには関心の薄い私も、この情報にはさすがに釘付けとなり、新たな情報を見守った。

すると20分後、弾道ミサイルはすでに落下し、北海道とその周辺への落下の可能性はなくなったと情報が訂正されたのである。

結果的には、ミサイルはいつも通りに日本のEEZの外側の日本海に落ちたようだ。

一体何がどうなってこんな情報が朝っぱらから流れたのか?

当然それが気になった。

その後の報道をチェックすると、どうやら発射を探知した後、自衛隊のレーダーがミサイルを見失ったことが原因らしい。

松野官房長官は会見の中で、「探知の直後にレーダーから消失していた」と明らかにしたうえで、「限られた探知の情報でシステムが航跡を生成したため国民の安全を最優先する観点からJアラートを発出した」と説明した。

もし万一、Jアラートを出すことを躊躇しているうちにミサイルが着弾したら政府が吹っ飛んでしまうとの危機感から不確かな情報ながら国民に避難を呼びかけたということらしい。

北朝鮮が頻繁にミサイルを発射する中で、Jアラートが発出される機会も増えているが、毎回その情報の不正確さが問題となる。

去年には北海道だけを対象地域とするべきものが東京都の伊豆諸島にもJアラートが発出されるという信じられないミスがあった。

韓国に尹錫悦政権が発足し、日米韓の連携が強化されたことを受けて、北朝鮮の危機感はますます高まっている。

10日に開かれた朝鮮労働党中央軍事委員会の拡大会議では、金正恩総書記が出席し、韓国や米国との戦闘を想定した「攻撃作戦計画」を確認したと朝鮮中央通信が伝えた。

こんなニュースが流れた直後のミサイル発射だったので、防衛省もこれまでとは違う「攻撃作戦計画」も念頭に置いて対応しなければならず、それが今回のような過度なJアラートに繋がってしまったのかもしれない。

岸田総理は、「国民の皆様の安全を最優先する観点から発出した。判断は適切であった」と強調したが、Jアラートのもとになる日本の情報収集能力の欠如は誰の目にも明らかである。

日本は戦後一貫して「専守防衛」を国是としてその範囲内で自衛力を整備してきたのだが、だからと言って敵の攻撃を探知する能力を持たなくていいということにはならない。

むしろ専守防衛だからこそ「受け身」を強化する、すなわちいち早く敵の攻撃の兆候をキャッチして国民に知らせる体制が必要であろう。

しかし現実はそうはなってはいない。

世界でも10本の指に入る防衛費を毎年使いながら、どうも日本の情報網は穴だらけである。

日本の防衛力ということでいえば、1週間前に起きた陸上自衛隊第八師団長ら10人を乗せたまま宮古島で消息を絶ったヘリコプターの捜索も私に不安を抱かせる。

台湾有事を睨み政府が力を入れている南西防衛の最前線で、有事対応の主力となるはずの第八師団の幹部が揃って遭難するという自衛隊にとっては極めて深刻な事故。

当然自衛隊の総力を上げた捜索が行われているにもかかわらず1週間経っても何の手がかりも得られていない。

こちらも日本の情報収集能力に不安を抱かせるニュースである。

自衛隊幹部たちを乗せたヘリコプターは当然ベテランの操縦士が操縦していて、事故の2分前の地上との交信では異常はなかったという。

その後、機体の異常などを知らせる余裕もないまま、突然海に墜落したと見られる。

一体なぜ、どこに墜落したのか?

消息を絶ったヘリコプターには、強い衝撃を受けたり浸水したりしたときに自動で救難信号を出して場所を知らせる「救命無線機」が搭載されていたが、これまでのところ信号は確認されていない。

ヘリコプターのドアやブレード、隊員のヘルメットなどが見つかっているが、肝心の機体やボイスレコーダーの在処は依然手がかりなしだ。

海上自衛隊の潜水艦救難艦「ちはや」も投入して24時間体制で捜索しても見つからないのでは、中国や北朝鮮の潜水艦を探知することも難しいのではないかと考えてしまう。

平時の防衛力をどのように維持するのかは非常に難しい問題だ。

戦争のリスクがなければ、防衛費は常に政治的批判の対象であり、現場が求める体系的な装備が整えられることはなく、しかし一度緊張が高まれば対応が悪い、準備ができていないと現場が責められる。

Jアラートにしても、ヘリコプターの捜索にしても、自衛隊だけの責任ではない。

平時にどのような防衛力を保有しておくのかというのは事実上政治の問題であり、国民世論の問題である。

私たち日本人は戦後常に平和を求め、防衛力の拡大に反対してきた。

その結果が今の自衛隊である。

中国や北朝鮮、さらにロシアの脅威が急に高まったからといって、すぐに装備や人員の拡充ができるわけがない。

今日本人に求められていることは、誰か、特に現場の自衛隊員を責めることではなく、日本の防衛力の実力がどの程度なのかを正確に認識して、それをもとにどんな国を目指すのかを決めることだろう。

ある程度は予想していたが、どうも日本の防衛力はできないことが多そうだということをまずしっかりと理解しておきたいと思う。

<吉祥寺残日録>岸田内閣1年の日に鳴り響いた北朝鮮ミサイルによる「Jアラート」の違和感 #221005

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