日本人にとって、こんなに気持ちの良い日は滅多にないだろう。
東京オリンピック3日目は、朝から日本人選手がどの競技でも活躍し、一日中テレビを見続けて幸せな気持ちになった。
まず最初に飛び込んできた朗報は、競泳女子400メートル個人メドレーで金メダルに輝いた大橋悠依選手。
得意とするバタフライと背泳を少しセーブして体力を温存した大橋は、強化してきた平泳ぎで一気にリードを広げ、最後のクロールでもその差を守って逃げ切った。
レース後、大橋本人は「まさか優勝できるなんて考えてもいなかった」と語った。
池江璃花子が白血病になってから、にわかに女子競泳陣のエースと目されるようになった大橋。
池江さんが太陽だとすると、大橋さんは月のような人という印象がある。
絶対にいい人だろうなと感じるが、大橋さんは所詮スターを求めるメディアが作り出した虚像だと思っていたので、正直彼女がメダルを獲得するとは予想もしていなかった。
そのため残念ながら、彼女が優勝したレースをライブで見損なってしまったのだ。
その時間、私が別のチャンネルで見ていたのは、東京オリンピックから新たに採用された新種目スケートボードだった。
街中を模したコースを自由に滑る「ストリート」と呼ばれる競技を見るのは初めてで、ルールもわからないのでとても新鮮な気持ちで見ていた。
選手たちは、一定時間内に行う自由演技を競う「ラン」を2回、一発の技の出来栄えを競う「ベストトリック」を5回行い、7回のうち得点の高い4回の合計点で順位を争う。
日本からは世界ランキング2位の堀米雄斗選手と3位の白井空良選手らが出場、メダルが有力視されていた。
予選を終わった段階で、白井は9位で予選敗退、堀米は決勝に進んだものの6位と元気がないように見えた。
午後から始まった決勝でも最初のうちは得点が伸びず、メダル獲得はまったく無理そうに見えたが、この競技は一発大技が決まると簡単に順位がひっくり返るらしく、堀米は「ベストトリック」で難しい技を次々に決め、大逆転で史上初のオリンピック王者に輝いた。
スポ根ドラマを見て育った世代には、これがスポーツかと強い違和感を感じさせるスケートボードだが、今や若者たちの間では世界的な人気スポーツとして定着していて、「Xゲーム」などの常設の国際大会で優勝すると莫大な賞金を手にすることができる。
見事に金メダルを取った堀米も、6歳からスケートボードを始め、単身渡米しプロのスケーターとして豪邸暮らしをしているという。
それでも、あまりチャラチャラした印象がない好青年で、この日も黙々と自分の技と向き合っている姿が印象的だった。
そしてなんといっても、この日最も注目されたのはこの2人。
柔道男子66キロ級の阿部一二三選手と女子52キロ級の阿部詩選手の兄妹である。
兄弟で同じ日に金メダルを獲得するのは長いオリンピックの歴史でも史上初の快挙だそうだ。
先に金メダルを決めたのは妹の詩。
強い精神力と安定した技のキレがあり、見ていてあまりハラハラすることもなく、夕方には決勝進出を決めた。
それでも優勝が決まった瞬間には、畳を激しく叩いて感情を爆発させた。
上戸彩さんに似た愛らしい笑顔はスター性抜群で、きっとCMのオファーが殺到することだろう。
兄の阿部一二三も、要所要所で鋭い投げ技が決まり順当に勝ち進んだ。
日本代表の座を巡って死闘を繰り広げた丸山城志郎に比べれば、外国人選手との勝負は余裕すら感じさせた。
優勝が決まり、オリンピック史上初めての兄弟同日金メダルが確定しても、感情をあらわにすることもなく、静かに人差し指を立てて仲間たちに喜びを伝えた。
丸山との争いが、阿部の精神力を強靭なものに変えたのは間違いないだろう。
以上4人の金メダリストのほかにも、今日は日本人選手が大活躍だった。
まずは卓球。
今大会から採用された混合ダブルスに出場した水谷隼と伊藤美誠は世界ランキング1位の台湾のチームを破り、見事に決勝進出を決めた。
特にドイツチームとの準々決勝は終始リードを許す苦しい展開で、3対3で迎えた最終セットも2−9と絶体絶命の窮地に追い込まれた。
私はとても正視できず別の競技を見えている間に、逆転での勝利を決めていた。
3連勝と波に乗る女子ソフトボールチームは、第4戦のカナダ戦に臨んだ。
この試合に勝てば決勝進出が決まる大事な試合。
先発上野とリリーフの後藤が好投するも相手投手を打ち崩せず、7回を終わっても両チームとも得点ができず、8回タイブレークの延長戦に突入した。
後藤が見事なピッチングでカナダ打線を抑えて迎えた8回裏、日本は満塁のチャンスを作り、キャプテンの山田がセンター前に跳ね返しサヨナラ勝ちを収めた。
このほか、テニスの大坂なおみや錦織圭、バドミントンの桃田賢斗らの有力選手が順当に勝ち進み、本当に笑いが止まらない1日となった。
その中でも私が興奮したのが男子サッカー。
優勝候補のメキシコ相手に、試合開始直後の前半6分に堂安からのクロスに久保が合わせて見事に先制点を奪う。
メキシコのキーパーは英雄オチョア。
その鉄壁の守備を突き破る見事なゴールだった。
さらにその5分後には、ペナルティーキックを堂安がゴールど真ん中に蹴り込み、試合開始からわずか10分余りの間にメキシコから2点をもぎ取ったのだ。
これで余裕ができた日本は、メキシコの猛攻を1点にしのぎ、「死のグループ」と呼ばれた予選A組で2連勝を飾ったのだ。
まさか、フランスを4−1で撃破したメキシコにこうも簡単に勝てるとは予想もしなかった。
やっぱり東京オリンピックができてよかった。
アスリートたちの真剣勝負の前には、スタジアムの無観客など全く気にならない。
東京の感染者は連日1000人を超え、今週には2000〜3000人という数字も予想されるが、その多くは感染対策を怠った人たちであり、彼らのためにオリンピックを中止するなど私には到底受け入れることはできないと改めて思った。
目先のコロナよりも大切なことがある。
ますますその信念を深めた1日でもあった。
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