パリ五輪で中断を強いられた今年の夏ドラマは、ヒット作に恵まれなかった。

2桁の世帯視聴率を獲得したのはTBS日曜劇場『ブラックペアン2』のみ。
二宮和也主演の医療ものの続編だが、内容は陳腐で、私は途中で見るのをやめてしまった。

韓国の大ヒットドラマのリメイクとして期待値の高かったテレビ朝日の『スカイキャッスル』も酷かった。
金と欲にまみれた富裕層が次々に不幸に見舞われるのを見て楽しむ品のないドラマ。
正直どうでも駄作だが、そのベタさがクセになる人もいるかもしれない。

こうしたリアリティー無視のエンターテインメント作品の中で、私が一番楽しめたのはTBSの『笑うマトリョーシカ』である。
櫻井翔演じる若く国民的な人気の高い国会議員を裏で操る黒幕は誰か、水川あさみ演じる新聞記者が暴いていくという物語だ。
櫻井の演技は相変わらず下手だが、それがかえって得体の知れない人気者にピッタリで、このキャスティングを思いついたプロデューサーは天才だと思った。
ひょっとすると櫻井翔ありきで決まった企画だったのかも知れない。

そんな不作と言われた夏ドラマだが、フジテレビの月9『海のはじまり』は素晴らしかった。
何といっても、生方美久さんの脚本が秀逸だ。
学生時代に付き合っていた元カノが亡くなり、その葬儀に顔を出した時、彼女が内緒で自分の子供を産んでいたことを知らされた主人公。
女の子はもう小学生になっていた。
突然父親であるという事実を突きつけられた主人公が、戸惑いながらも状況を少しずつ受け入れ、女の子を引き取って二人で暮らす決断を下すまでの過程が丁寧に描かれる。
とても静かで、重いドラマだ。

でも、生方さんの作品には悪者が出てこない。
生方さんが一躍脚光を浴びた『silent』同様、目黒蓮が演じる主人公も、有村架純演じる今カノも、大竹しのぶ演じる元カノの母親もみんな優しい人たちで、女の子にとって何が幸せなのかを考えながら真剣に悩み、時には率直な意見を主人公にぶつける。
「自分には関係ない」「お前が何とかしろ」と言って、自分の責任から逃げる人がいないのだ。
だから、一人一人のセリフが心に沁みる。
もし自分が主人公の立場だったら、この重い現実から逃げずに向き合うことができただろうか?
ドラマを見ながら、自分ごととして考えさせられる。
そして本当に天使のような泉谷星奈ちゃんの可愛らしい演技が、「6年間知らずに育っていた娘」にリアルな存在感を与えていた。
多様な家族のあり方、人間の温もりについて考えさせてくれる素晴らしいドラマだった。

家族の多様なある方を描いたといえば、TBSの『西園寺さんは家事をしない』も幼い女の子と暮らすシングルファーザーの物語だ。
しかし月9とは真逆の明るいコメディーなので、月曜日に暗い気持ちになった視聴者が火曜日にはこのドラマで癒されるとネットで評判になった。
妻がこのドラマが好きだったので、私も最後まで見たが途中からシナリオがかなりはちゃめちゃになり、面白くなくなったのは残念である。

それに対して、不思議な魅力を発揮したのがNHKの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。
父親を早く亡くし、弟はダウン症、大黒柱の母親も車椅子生活になり、手助けに来た祖母も徐々に認知症が進んでいくという絶望的な状況の中で、そんな家族を笑いに変えて人気作家になる娘が主人公だ。
演じるのは『不適切にもほどがある』で注目された河合優実。
彼女には何か独特のオーラを感じる。
ものすごく重いテーマだが、シナリオも演出もかなりシュールで、クスッと笑えるようなシーンがあったかと思うと絶望的なシーンが待っていたり、かと思うと元気が出る前向きなエピソードが登場したり、とにかくおかしなドラマで結局最後まで見てしまった。
ダウン症の弟を演じた吉田葵は正真正銘のダウン症の俳優で、彼が働き始めるカフェのスタッフも全員ダウン症の人たちである。
その自然な演技が愛らしく、家族が彼を心から愛する理由が説得力を持って視聴者に伝わってくる。
他人からは可哀想な境遇に見えたとしても、素晴らしい家族愛がそこにはあった。

NHKといえば、朝ドラ『虎に翼』が好評のうちに今朝最終回を迎えた。
女性初の裁判官をモデルにした少しお堅いテーマながら、「法の下の平等」という理想に真正面から向き合い多くの視聴者に支持された。
主演の伊藤沙莉をはじめ、母親役の石田ゆり子、夫役の仲野太賀ら私のご贔屓の役者さんたちがたくさん出演していて、妻と一緒に毎朝欠かさず見た。
最も印象的だったのは出征する夫を見送る場面、芸達者な仲野と伊藤の顔芸に思わず涙が出た。
ただ主人公が裁判官になってからの戦後パートは、いささか理屈っぽくなってしまい、ドラマとしての魅力は半減した。
法律という硬いテーマを扱う作品の難しさを改めて感じる。

それとは対照的なNHKドラマが、今月始まった『団地のふたり』。
今の私にしっくりハマる大好きな作品だ。
団地で生まれ育った幼馴染の2人が、いろいろあって団地の実家に舞い戻り、50代独身の女性2人が仲良くまったり暮らす日常を描いたゆる〜いドラマ。
主人公を演じるのは小泉今日子と小林聡美、とにかくこの2人が自然体でいい。
毎回身の回りの些細なことがテーマなのだが、昭和の団地に残る人情と広々とした敷地になぜかとても心惹かれ、もしも引っ越すなら団地にしようと考えたりした。
NHKのドラマは大河と朝ドラ以外ほとんど見ていなかったが、なかなか地味に面白い作品があるようだ。
ちなみに、このドラマのプロデューサーである八木康夫さんは、『パパはニュースキャスター』など多くのヒットドラマを制作した元TBSの有名プロデューサーである。

最後にもう1本、この夏、私がものすごくハマったドラマがあった。
木曜深夜に放送された讀賣テレビの『クラスメイトの女子、全員好きでした』。
この一風変わったタイトルに惹かれて見始めたら、見事にハマってしまった。
盗作した小説で文学賞を受賞した貧乏作家が、中学の同級生の中にいるはずの本当の作者を見つけるため、クラスメイトの女子ひとりひとりを思い出しながら、崖っぷちの編集者と組んで彼女たちをネタにした連載を始める物語。
主人公の冴えない作家を演じるのは「ドラえもん」のジャイアン役などで知られる声優・木村昴がとてもいい。
私がまだ中学生だった頃に大好きだった石立鉄男にどことなく似ている。
ドジで冴えないのだが、誰にでも優しくて、友達のことをよく観察し記憶しているのだ。
だから彼が綴るクラスメイトのエピソードは、どれもとても面白くて優しさに溢れていた。

主人公の中学時代を演じる及川桃利くんも、とてもチャーミングだ。
全ての女の子に興味を持って、仲良くなろうとする姿に思わず笑ってしまう。
同じ制服に身を包んでいても、一人ひとり個性豊かな女性たちだ。
そんな違いをしっかり観察し、みんなを好きだと言える感性を持っていれば、たとえ全くモテなくても学校生活はその人の財産になる。
今更ながら、そんなことに気づかされたドラマだった。
不作と言われ、視聴率的には目立った作品は生まれなかった今年の夏ドラマだけど、日本社会でも多様な生き方が認められる時代になったことを感じ、ちょっと嬉しかった。