私は子供の頃から注意力が散漫で、よく忘れ物をする。
今回岡山に来るに当たり、とんでもないものを忘れてきてしまった。
田舎暮らしには欠かせない運転免許証である。
4月といえば1年で最も自然が美しい季節。
岡山の山も光り輝いている。
農作業が本格化する大切な時期でもあり、この季節は出来る限り岡山にいて、日々変化する作物の様子を観察したいと思っている。
しかし、車の運転ができなければ、スーパーへの買い出しも、ホームセンターで野菜の苗や肥料を買うこともできない。
私は決断した。
運転免許証を取りに帰るためだけに東京に戻ろう。
タイミング悪くゴールデンウィークにぶつかり、交通費が高騰する時期ではあるが、幸いANAのマイルがかなり溜まっているため、今回はそれを使って特典航空券で岡山〜羽田を往復することにした。
運転免許証を取ってくるだけなので、本来なら日帰りで往復したいところだが、ゴールデンウィークはさすがに混んでいて、希望する時間の席が空いていない。
ということで、今日日曜日の午後便で羽田に飛び、翌日月曜日の午前便で岡山に戻ってくることになったのだ。
普段なら車で岡山空港まで40分ほどで行けるのだが、免許不所持のためそれもままならず、岡山駅まで電車で行ってそこでリムジンバスに乗って空港に向かわなければならない。
おまけにゴールデンウィークのため最寄りの駅に行くタクシーを頼むと「空車待ち」だと言われ、30分待っても来ないので問い合わせたところ、まだ空車が見つからない状態だと言う。
それまで悠長に構えていたが、このままだと予約した飛行機に間に合わなくなってしまう。
「これはマズい」と判断、自転車で最寄りの駅まで走ることにする。
亡くなった伯母が使っていた古いママチャリにリュックを積み込み、とにかく目一杯漕ぐ。
駅前のコンビニに自転車を停め、なんとか予定の電車に駆け込んだ。
コンビニに無断で停めた自転車は妻がスペアキーを使って回収してくれた。
こうしてドタバタと家を出たのだが、その後は順調で、乗った飛行機も予想に反してゴールデンウィークとは思えないほどガラガラだった。
羽田空港へのアプローチは通常の木更津ルートでも都心ルートでもなく、初めて飛ぶ東京ゲートブリッジ方向からの着陸だった。
電車を乗り継いでたどり着いた吉祥寺の街は人で溢れかえり、人並みをかき分けるようにしてマンションにたどり着く。
さあ、運転免許証はマンションにあるのか?
もしもなければ、明日府中の試験場まで行って再発行の手続きをしなければならない。
ちょっとドキドキしながら部屋の鍵を開け、置いていた東京用の財布を確認すると、その中に確かに運転免許証が入っていた。
実は私は常日頃、東京用と岡山用、さらに海外旅行用と3つの財布を使い分けている。
東京で使う図書館のカードやクリニックの診察券は東京の財布に、岡山で使うスーパーやホームセンターのカードは常に岡山の財布に入れてあり、クレジットカードや保険証、運転免許証などどちらでも必要なカード類だけ移し替えて使用しているのだ。
ところが今回は不覚にも、岡山ではなくてはならない運転免許証を移すのを忘れてしまったわけである。
私は子供の頃から注意力に欠ける人間だった。
とっくに還暦を過ぎたこの歳になっても、忘れ物癖は治らない。
その代わりと言っては言い訳に聞こえるかもしれないが、大切な物を忘れても、慌てず冷静に対処できるようにはなった。
これを人は「年の功」と呼ぶのだろう。
とにかく、まだ認知症にはなっていないようでひとまず安心した次第だ。
今夜は一晩吉祥寺に泊まり、明日の朝、妻が待つ岡山にとんぼ返りする予定である。
