白人警官によって黒人のジョージ・フロイドさんが殺された事件をきっかけに全米に広がった抗議デモは、アメリカ社会の深い部分にも影響を与えつつある。
怒りを表現する拳が運動のシンボルとなり、今も各地で様々な形で人種差別に抗議する活動が繰り広げられている。
奴隷貿易や奴隷制度に加担した歴史上の人物たちの銅像が全米各地で破壊されている。
その中には、アメリカ大陸を「発見」したコロンブスの像も含まれている。
映画界でも見直しの動きが広がり、名作「風と共に去りぬ」も黒人差別を助長する内容が含まれるとして、大手動画配信サイトが配信停止の措置を取ったという。
過去に遡り、アメリカ文化に深く染み付いている差別を洗い出す動きが進められているのだ。
しかし、人種差別の問題は、アメリカ特有のものではない。
そして、肌の色の違いだけが理由ではないのだ。
たとえば、私も現役記者時代に取材したアフリカ・ルワンダの大虐殺。
多数派であるフツ族の住民がツチ族住民を襲撃し大量虐殺したひどい出来事だったが、100万人を超えるとされる犠牲者のうち10%はフツ族だった。
それまで混ざり合ってお隣さんとして暮らしていたフツ族とツチ族は、外見上だけでは区別がつきにくい。フツ族は丸顔が多く、ツチ族は面長が多いといった漠然とした基準で殺害対象が決められていった。
日本人の中にも、昔から抜き差し難い差別意識が存在する。
明治から昭和初期にかけて、朝鮮や満州を支配した日本人は、欧米列強から国を守るという当初の目的を忘れ、自らの欲するままに他国を侵略した。
その中で、普通の日本人の心に、朝鮮人や中国人を自分たちよりも下に見る意識が育った。もちろん歴史を振り返り、我が国に多くの文化を伝えた中国や朝鮮を正当にリスペクトする人たちもいたが、「皇国」という言葉が定着する中で、日本を神の国、特別な国として神聖視する意識が日本人の中に芽生えた。
そもそもは、天皇を中心に据えた国づくりを目指した明治政府の方針がきっかけだったが、戦争に勝利するたびにその皇国意識は強まり、軍部や政治家だけでなく、メディアもそれに加担し国民を煽動するような紙面づくりに走った。
人種差別の根源は、人間一人ひとりの心の中にある。
自分と他者を区別し、異質なものを恐れ排除しようとする本能を誰でもが持っている。
肝心なのは、そうした人間の弱さ、醜さを正しい知識や理性でコントロールすることである。
しかし、そうした人間の弱さ、醜さを自らの利益のために利用し、人種差別を煽る輩がいつの時代にもどこの社会にも現れるものなのだ。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが、イラストで名誉を傷つけられたとして女性漫画家を提訴したというニュースがあった。
私はこのニュースで初めて存在を知ったのだが、この漫画家はまさに自分の利益のために人間の醜さを煽動しようとするタイプの人間のようだ。
この漫画家の名前は、はすみとしこ という。
上のイラストは、伊藤さんの名前は出していないが、それとわかるようなイラストと文章で「枕営業大失敗!!」と悪意ある書き込みをツイッターで発信した。
この漫画家は、他にも在日の人たちやシリア難民を揶揄する作品を発表し、日本国内だけでなく海外のメディアからも批判を受けているという。
その作品には、人間の最も醜い部分が露骨に表れていて、見ていて反吐が出そうになった。しかし彼女を支持する層も日本の中には確実にいて、出版された作品集は重版を重ねたという。
この漫画家は自らを「風刺漫画家」と称しているようだが、風刺というものは権力者や多数派に向けられるものであって、弱い立場の人たちを攻撃するのは断じて風刺ではない。それは差別であり、ヘイトであり、商売でもある。
残念なことに、日本国内には、こうした反吐が出るような作品に金を払うヘイトのマーケットが確実に存在する。
ヒトラーの例を持ち出すまでもなく、他者を攻撃することによって自らの支持基盤を強化しようという指導者は古今東西無数に存在する。
私たちは、そういう煽動に利用されてはならない。
差別は常に自分の心の中にあるのだ。
それを自覚しつつ、歴史を学び、他者を攻撃することによって得られる熱狂の先に何が待ち受けているかを理解する、それが差別と戦う第一歩だと私は信じている。