明日からの三連休、長崎の平戸まで一人旅を予定していたが、台風直撃の予報でキャンセルした。時間ができたので、夏休みの東欧旅行の報告を全部書いてしまおうと思う。

まずは、柳の枝に隠れそうな銅像の主のお話から・・・。

チェコ国民音楽の創始者ベドルジハ・スメタナである。

彼の功績を記念した「スメタナ博物館」はヴルタヴァ川のほとりにある。

ラジャンスキー宮殿と呼ばれるこの建物は、スメタナが一時暮らし「売られた花嫁」などを作曲した場所だ。
私がスメタナの名前を知ったのは大学生の時だった。学校で習った記憶がない。
私が所属していた学園祭の実行委員会が来日した「スメタナ弦楽四重奏団」を大学に招きコンサートを開いた。私はスメタナの名前も知らずにチケットを売った。
会社に入り、1989年、報道番組のディレクターとして「ビロード革命」を伝えるVTRを編集した。その素材の中に教会で演奏されるスメタナの名曲「モルダウ」があった。
その哀愁を帯びた曲調は、警官隊に弾圧される学生たちの姿にぴったりと合った。私は「プラハの春」でソ連の戦車に弾圧される市民たちの映像も使った。強国に囲まれチェコ人としてのアイデンティティーを守るために戦い続けた民族の歴史をスメタナの曲が象徴しているように感じた。自分で言うのも何だが、私の作ったVTRは上司や同僚からすごく褒められた。新米ディレクターだった私にとって忘れられない仕事である。

この博物館の展示の中核をなすのは、1928年に買い上げられたスメタナの遺品だと言う。今は国立博物館の一部として国が管理している。

スメタナが使ったピアノなども展示されているが、あまり期待するとがっかりするだろう。よほどスメタナに思い入れがあり、彼について豊富な知識がない限り楽しめるような展示内容ではない。
入場料は50コルナ(約300円)だから、こんなものかもしれないが・・・。

それでもヴルタヴァ(モルダウ)川の流れを見ながらスメタナの「モルダウ」を聞くと、やはりプラハを訪れたという感慨が湧いてくる気もする。すべては気の持ちようかもしれない。
こんなクラシック音楽の似合うプラハの町で2回コンサートに行った。

1回はプラハを代表するコンサートホールである「ドヴォルザークホール」。
開演は午後8時だが、まだ明るい。

建物の中に入る。
ステージの中央には大きなパイプオルガンが・・・。

一応ちゃんとしたホールなので、ジャケットを羽織って行ったが、Tシャツ姿の観光客もいて全体的にはラフな感じで大丈夫なようだ。

豪華なホールだが、今夜のコンサートは完全に観光客向けのようで、曲目も超大衆受けする有名な曲が並んでいた。
パッヘルベルの「カノン」に始まり、ヴィヴァルディの「四季」、モーツァルトの「レクイエム」、バッハの「トッカータとフーガ」と続く。

演奏するのは「プラハ・ヴィヴァルディ・マスターズ・オーケストラ」。ベテラン中心の12人編成の楽団だ。
そしていよいよスメタナの「モルダウ」の演奏が始まった。ルール違反は承知で、他の人の迷惑にならないよう気をつけながら記念の動画撮影をさせていただいた。
演奏スタイルは私の好みではなかったが、プラハで聞くことに意味がある。ミーハーだが、いい思い出になった。
この後コンサートは、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」、ベートーヴェンの「5番」、ラヴェルの「ボレロ」と続いた。こんなベタな選曲、日本ではなかなかお目にかかれない。

コンサートが終わって宿に戻ると、スメタナ博物館が昼間とはまったく違う表情を見せていた。美しいプラハの夕べ。やはりここは三脚が必要だったなあ。

もう一つのコンサートは教会だった。

旧市街広場に面する「聖ミクラーシュ教会」で毎日コンサートが開かれる。
午後5時開演だが、この日は雨模様でちょっと暗い。

プラハの旧市街を歩いていると、いくつもの教会コンサートのチケットを売っている。最初はちょっと胡散臭いと思っていたが、ちゃんと調べるとどこもかなり歴史のある立派な教会がコンサート会場になっているのだ。
値段もドヴォルザークホールが700コルナ(約4200円)に対し、教会コンサートは400コルナ(約2400円)と手頃だ。
我が夫婦は教会コンサートが好きなのだが、その良さは天から降りてくるような音の響きだ。
例えば、こんな感じだ。
楽曲は、バッハ、シューベルト、ドヴォルザーク、ヴェルディなど馴染みの作曲家の曲もあるが、知らない曲も多い。妻は「アヴェマリア」が入っているという理由で、この教会のコンサートを選んだ。
オルガンとバリトンだけ。とてもシンプルだが、心に響くいいコンサートだった。

コンサートが終わり、二人が観客の歓声に応える。何と、バリトン歌手は半袖で歌っていたのだ。演奏中には姿が見えなかった。
音楽家にとっては、ちょっとした小遣い稼ぎなのかもしれない。
でも個人的には、こんな気楽なコンサートが好きだ。演奏する方も聴く方も、肩の力が抜け自由な心で音楽を楽しむことができる。
やっぱり年をとると、クラシックはいい。特に教会コンサートはヨーロッパ旅行の楽しみだ。
これからもウンチクはどこかに置いておいて、素直な心で音楽を感じたいものだ。
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