毎日行列ができる店にはそれなりの理由があるものだ。
今日はそのことを改めて実感した。

吉祥寺の路地裏に「挽肉と米」というハンバーグ専門店がオープンしたのは、コロナが猛威を振るっていた2020年の6月。
吉祥寺の街でも老舗の人気店が次々に閉店し、先行きが全く見えない頃だった。
私は会社を辞めることを決断し、自転車で毎日吉祥寺の街を走りながら飲食店の変容ぶりを記録していた。
その時この店がオープンし、お店の前でチラシ配りをしているのを見て、こんな時期に新たにお店を始める人もいるんだなあと思った記憶が鮮烈に残っている。
それからさして時をおかず、この店の前には毎朝行列ができるようになったのだ。

「挽肉と米」は電話での予約ができない。
その代わり、毎朝9時から整理券を配る独自の予約システムを採っている。
今日は妻が昼すぎから検査で昼食が食べられないというので、以前から気になっていたこの店に行ってみることにした。
私がお店に着いたのは8時40分。
すでに18人が並んでいた。
整理券待ちの行列といえば、吉祥寺で「小ざさ」の羊羹が有名だが、飲食店ではこんなお店はないと思う。

午前9時を少し回った頃、一人の店員さんが出てきて先頭の人から順に名前と人数、希望時間を聞いてリストに書き込んでいく。
昼の予約枠が一杯になると夜に回されると聞く。
私は19番目。
果たして大丈夫かと不安を抱えて待っていると、案外余裕で12時35分の予約をゲットすることができた。

私の後からも続々の人がやってきて、受付開始の午前9時には50人ほどが並んでいた。
やはり圧倒的に若い人が多い。
でもそれなりの枠はありそうなので、9時すぎに来ても時間さえこだわらなければお昼の予約は取れたように思う。

ちなみにこちらが整理券。
「目安時間を過ぎて、お名前をお呼びした際に不在の場合はキャンセルとなりますのでご承知おきください」と下線付きで記されていた。

一旦家に戻り、指定された12時35分に合わせて再びお店を訪れると、入り口を取り巻くようにして10人ほどの人が待っていた。
でも1時間も待たされるラーメン屋もあるので、整理券配布のシステムはむしろ客に優しいと言えるのかもしれない。

目安の12時35分になると、店員さんが顔を出して、一組ずつ名前を呼んで店の中に呼び込んでいく。
並んだ順ではなく、人数が多い組の方が先に呼ばれ、一人の客は最後らしい。

店内に入るとまずは入り口の販売機で食券を買う。
メニューは基本的にか挽肉と米 定食」(1600円)の一択。
ハンバーグ3個と釜炊きご飯、味噌汁のセットのようだ。
それ以外には、「おかわり肉」(450円)、「ポテトサラダ」(500円)と飲み物が多少あるぐらいで、まさにハンバーグの一本足打法である。

店内には10人が座れる円形のカウンターが2つ。
私は奥のカウンターに進むように促される。

円形のカウンターの中にはハンバーグを焼くスタッフが1人。
手でこねた挽肉の塊を中央の網の上に並べていく。
私が席につくとまず最初にハンバーグの数を聞かれる。
90グラムの小ぶりなハンバーグ3個が基本で、多いと思えば数を減らしたり、有料で個数を増やすこともできるようだが、ほとんどの客は規定通り3個を頼んでいた。

私のように初めて訪れた客には、この店のシステムが説明される。
カウンターの引き出しを開けるとお皿や箸と一緒に説明書が入っていて、ハンバーグをさらに美味しく食べるための様々な調味料について説明が書いてあった。

こちらには「挽肉と米のオトモ」。
焼きたての肉と炊き立てのご飯にぴったりの5種類のオトモが用意されている。

そしてこちらの容器には、白菜の梅酢漬けと食べる醤油が入っているという。

さらに食欲旺盛な人には1人1個無料の生たまごが用意されていた。
生醤油や食べる醤油を使って炊き立てたまごかけこはんが楽しめるという。

上を見上げれば、二階建ての古い民家の二階部分を抜き、吹き抜けの空間になっていた。
こうするだけでぼろぼろの家もとてもモダンな店舗に見えるから不思議だ。

さあ、いよいよ食事開始。
席についてすぐに、まずご飯と味噌汁が運ばれてきた。
炊き立てのご飯はおかわり自由。
とても美味しい味噌汁、こちらはおかわりするには100円かかるそうだ。

この店で提供されるご飯は、店の隅に置かれた竈で炊かれたもの。
店員さんが客の目の前で大きな釜からご飯をよそっておかわりを求める客のもとへ運んでいく。

使うお米は日によって変わり、今日は高知四万十の「二井田米にこまる」だそうだ。

時をおかず、最初のハンバーグが目の前の網に置かれた。
「味がついているので、まずはそのままご飯の上に乗せて食べてみてください」

ちょうどお茶碗に収まるぐらいのハンバーグ。
ご飯の上にハンバーグを置いたこの構図こそ、「挽肉と米」の象徴で、多くの人がこんな写真をアップして新たな顧客を誘導しているのだ。
このサイズなら女性でも楽々3個ぐらい食べられるだろう。

ハンバーグは、お店のモットーである挽きたて、焼きたてにこだわる。
そのまま食べても文句なく美味しい。
粗挽きで、とても肉肉しいハンバーグである。
ただ、どうしてもお店特製のオトモが気になって、片っ端から試してみたくなる。

まず最初に試したのは「青唐辛子のオイル漬け」。
生の唐辛子を塩漬けにしてオリーブオイルに漬けたものだそうだ。
ピリリと辛いが激辛ではない。

2番目は「青唐塩レモン」。
塩レモンの酸味とほんのり青唐辛子の辛味が特徴のオトモは最高に私好みだった。
レモンの爽やかさが肉の味を引き締めて、いくらでも食べられそうだ。

1個目のハンバーグを食べ終えると、白菜の梅酢漬けを小皿に取る。
お肉の合間の箸休めにと書かれていたからだ。
こちらはあっさりした白菜漬けで、確かにさっぱりする。

2個目のハンバーグに合わせて、大根おろしと自家製のポン酢が出される。
ハンバーグと一緒に食べてもいいがそのまま食べるのもありだ。
さて、2つ目のハンバーグはまた別のオトモと共に食べてみよう。

3番目の味に選んだのは「モウさんの麻辣辣粉」。
遊牧民が肉につけた香辛料だそうだ。
見た目ほどは辛くない。

4つ目の味は「ジャオマー」。
実山椒、青葱、生姜、ごま油を合わせたスパイシーな薬味だというが、だんだんどれがどれかわからなくなり、あまり記憶に残っていない。

最後は黄色い粉末「大蒜ふりかけ」。
王道のにんにくを、細かく刻んで揚げたもので、ラーメンやタイ料理などでトッピングに使う揚げニンニクそのものだ。
確かに他の調味料と一緒に混ぜても美味そうである。

そして最後に残った一切れに大根おろしを載せてさっぱりといただく。
身近な料理であるハンバーグにこんな多彩な楽しみ方があったとはちょっと新鮮だ。

ご飯をおかわりして、3個目のハンバーグをその上に載せる。
そこに一番お気に入りの「青唐塩レモン」をたっぷりと。
いやあ、やっぱりこれが一番美味い。

引き出しに入っていた岩塩や黒胡椒も使い、最後残ったご飯は「食べる醤油」をかけてかき込んだ。
うーん、大満足。
さすが、連日行列ができる理由がよく分かった。

朝9時に整理券をもらいに来るのは面倒だが、それに値する魅力がこの店にはぎっしりと詰まっている。
吉祥寺からスタートしたこの人気店は今、渋谷と京都にも店舗を増やしているという。
今度は妻や家族を連れて訪れたいものである。
食べログ評価3.63、私の評価は4.50。
「挽肉と米 吉祥寺」 電話:0422-27-2959(予約不可) 営業時間:11:00~15:00/17:00~21:00(売り切れ次第終了) 定休日:隔週水曜 https://www.hikinikutocome.com/