<吉祥寺残日録>大相撲新時代到来!初土俵から10場所目の尊富士、堂々たる110年ぶり新入幕優勝の快挙 #240324

「荒れる春場所」とはよく言ったものだ。

今年の春場所は序盤から荒れに荒れ、横綱・照ノ富士が6日目までで4敗を喫し休場に追い込まれたほか、東の正大関・霧島は5勝10敗と負け越し、関脇・大栄翔も負け越して来場所の三役陥落が確定的となった。

そんな荒れる春場所から、2人の新たなスターが誕生した。

速攻の尊富士と圧力の大の里、共に24歳である。

長くモンゴル勢が独占してきた横綱を狙える日本人力士の出現、しかも2人同時に現れたことで、大阪の土俵は大いに盛り上がった。

中でも目を引いたのは、横綱・照ノ富士の弟弟子に当たる尊富士だった。

新入幕で幕尻の東前頭17枚目で今場所に臨んだ尊富士は、初日から白星を積み重ね、無敗のまま中日に勝ち越しを決め、優勝争いのトップに躍り出た。

そして9日目、今場所好調な小結・阿炎を破ったあたりからこれは単なるまぐれではないという印象に変わり、10日目にはライバルの大の里を撃破、さらに11日目には新大関で優勝候補の最有力だった琴ノ若までを速攻相撲で破る。

こうして、あれよあれよという間に、大横綱・大鵬が持つ新入幕での連勝記録に並んでしまったのだ。

12日目に大関・豊昇龍に敗れて初黒星を喫したものの、13日目には関脇・若元春を圧倒して2位に2つの差をつけてついに新入幕優勝に王手をかける。

しかし、荒れる春場所は最後まで何が起こるかわからない。

勝てばその時点で優勝が決まる14日目、相手は西前頭筆頭の朝乃山だった。

元大関の意地をみせた朝乃山に敗れ2敗目を喫した尊富士、その際に思わぬアクシデントが尊富士を襲った。

なんと、この相撲で尊富士は右足首を負傷し、車椅子に乗って退場する事態となったのである。

優勝がかかった千秋楽の土俵に上がれるのか?

そんな心配が場内を覆う中で、尊富士を2つの差で追っていた大の里は阿炎に勝って、尊富士との差を1に詰める。

ところが、もう一人の3敗力士、豊昇龍は琴ノ若に敗れてしまう。

こうして優勝の行方は、2敗の新入幕・尊富士と3敗の入幕2場所目・大の里の2人に絞られて今日の千秋楽を迎えることになったのだ。

共に大学から角界に進んだ尊富士と大の里だが、2度のアマチュア横綱のタイトルを手に角界入りした大の里は幕下付け出しからのスタートだったのに比べ、学生時代に大けがをしてタイトルを取ることができなかった尊富士は前相撲からのスタートで、入門からの注目度は圧倒的に大の里が優っていた。

それでも尊富士は初土俵からわずか10場所目で幕内に上がるスピード出世、幕下付け出しからスタートした大の里に至ってはまだ入門から6場所目である。

2人ともまだ大銀杏が結えず、「ちょんまげ」と「ざんばら」による前代未聞の優勝争いとなった。

どちらが優勝しても、110年前の大正3年に両国が記録した入門11場所目の幕内最高優勝を超える新記録となることは確定していた。

ただ、尊富士がもし土俵に上がれなければ、どうなるのか?

尊富士は3敗に後退、もしも千秋楽で大の里が豊昇龍に勝てば優勝決定戦となり、不戦勝で大の里の優勝となるのだろうか?

そんな前例のない状況の中で、尊富士は痛めた右足首にテーピングを施し、千秋楽の土俵に強行出場した。

テレビ解説の伊勢ヶ濱親方は普通なら相撲が取れる状態ではないが、本人がどうしても出場したいと申し出たため、それを止めることはできなかったと裏事情を明かした。

しかし、そうした周囲の予想に反して、尊富士は足の痛みを感じさせることもなく、好調の豪ノ山を突き出し、見事自力での優勝を決めたのである。

これには正直、感動した。

結果的には大の里が豊昇龍に敗れたため、この相撲に負けたとしても尊富士の優勝は変わらなかったが、勝って優勝を決めるのと相手が負けて優勝が転がり込むのとではずいぶん印象が違うものだ。

青森県出身力士の優勝は27年ぶりということで、地元は大いに盛り上がった。

110年ぶりの新入幕優勝、さらに大相撲史上初の入門10場所目での優勝を飾った尊富士は、「記録よりも記憶に残る力士になりたい」と優勝インタビューで語った。

優勝争いの単独トップに立っても土俵上で平常心を保ったメンタルの強さは、すでに大物の風格を漂わせる。

優勝した尊富士は殊勲賞・敢闘賞・技能賞の三賞独占、大の里も2場所連続の敢闘賞に加えて技能賞も獲得した。

2人の大学時代の対戦成績は2勝2敗だという。

来場所、大の里は三役に昇進し、尊富士も平幕上位に上がることが予想される。

ケガさえなければ、上位でも十分に戦える実力を2人はすでに備えているように見える。

ついに大相撲にも新時代到来、来場所が楽しみで仕方がない。

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