世界陸上ロンドン大会が始まった。ウサイン・ボルトのラストラン。あれだけ絶対的な強さを誇ったボルトがついに負けた。

このレース、どうしても見たかった。
準決勝は午前3時すぎ、決勝は5時45分ごろから行われる。
我が家のテレビの録画機能はもうかなり前から壊れている。最近どうしても見たい番組も減っているので、さして不便も感じなかったが、ボルトのラストランはどうしても見たかったのだ。
おまけに日本人選手3人が揃って準決勝に進んだ。注目はサニブラウン。日本人初の9秒台、世界陸上初の決勝進出の可能性がある。これもどうしても見たいと思った。
真剣に新しいレコーダーか録画機能付きテレビを買うことを考えた。ヨドバシカメラに買いに行けば、当日手に入るだろう。
いろいろ迷った末、早めに寝て、午前3時に起きることにした。
Embed from Getty Images期待のサニブラウンはスタートでバランスを崩して失速、予選のタイムには遠く及ばず、決勝進出はならなかった。
Embed from Getty Imagesケンブリッジと多田も10秒2台とタイムが伸びず日本人の決勝進出はお預けとなった。みんな、世界陸上という大きな舞台で力が入ってしまったのだろう。
でもやはりサニブラウンは、あれだけこけそうになっても10秒2台で走るのだから、今後9秒台で走る可能性は大きいと感じた。

そして迎えた男子100M決勝。
ボルトの最後のレースを待つスタジアムは異様な熱狂に包まれていた。

アジア人で唯一決勝に進んだのが、中国の蘇 炳添(スー・ビンチャン)。中国人初の9秒台をマークした蘇は2大会連続の決勝進出だ。
準決勝ではサニブラウンの隣のレーンを走った。サニブラウンが本調子ならいい勝負だっただろう。
Embed from Getty Imagesスタートの時、ボルトはいつものように人差し指を天に突き上げ、おきまりのポーズを決めた。
見る方にも力が入る。


アメリカのコールマンが素晴らしいスタートを切った。ボルトは出遅れた。

中盤からボルトが追い上げる。
しかし、いつものような伸びがない。
Embed from Getty Imagesボルトは珍しく最後まで全力で走った。こんなボルトを見たのは初めてかもしれない。
だが、アメリカのガトリンが、最後でボルトとコールマンを差し切った。
Embed from Getty Images勝ったのはガトリン、9秒92。
2位がコールマン、ボルトは9秒95で3位だった。
Embed from Getty Images負けたのを知ったボルトは、一瞬悔しそうな表情を見せた。
2008年の北京オリンピック以来、無敗を誇ったボルトがついに負けた。これも歴史的な瞬間と言えるだろう。
ボルトは陸上競技のみならず、人類の歴史における伝説である。彼の記録は当分破られることはないだろう。人間という生物がどこまでその身体能力を高められるかの現時点での最高到達点なのだ。
Embed from Getty Imagesレース後、ボルトは優勝したガトリンを抱きしめた。
そして晴れやかな表情で、スタンドの歓声に応えてスタジアムを一周した。
Embed from Getty Images英雄の100Mラストランは、銅メダルに終わった。
Embed from Getty Imagesボルトは戦いの舞台だったトラックに口づけをした。
まだ200Mとリレーが残っている。旅行先でも見ることができるだろうか。
一方で、ある意味、ボルト以上に印象的だったのが、優勝したガトリンだった。

ガトリンは、トラックに跪き、泣いた。
その涙には、35歳になった彼の数奇なアスリート人生が表現されていた。
ガトリンはアメリカ短距離界のホープとして2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得した。若くして世界の頂点を極め、陸上帝国アメリカのスーパースターに躍り出た。
そんな彼の人生が狂ったのが、ドーピング問題だった。
二度のドーピング検査で陽性反応が出て、8年間の出場処分が下された。年齢から考えると、それは事実上の永久追放とも言えた。
しかしガトリンは2012年、アメリカのトラックに戻ってきた。観客からはブーイングが浴びせられた。それでも彼のスピードは衰えておらず、アメリカ代表の座を獲得した。
2012年のロンドン五輪では銅メダルを獲得した。
そして、2013年のモスクワ世界陸上、2015年の北京世界陸上、2016年のリオ五輪と連続して、100Mで銀メダルに輝いた。
そう、常に彼の上にはボルトがいたのだ。
ゴール直後、ボルトに勝ったことを知ったガトリンは叫んだ。
自らの全盛期に出場停止となり、復活後もヒール役として「伝説のスーパースター」ウサイン・ボルトの陰に身を置いてきた。この日もスタンドからは容赦ないブーイングが飛んだ。
そんな彼の不遇な競技人生に、思いも掛けない「栄光の瞬間」が待っていた。
彼はボルトに跪いた。果たしてどんな心境だったのだろう。
Embed from Getty Images伝説のスーパースターとたまたま同じ時代を生きた天才アスリート。その悲運に負けることなく、35歳まで耐えて戦い続けた男に、言い知れぬ感動を覚えた。
ボルトとガトリン。
眠い目をこすりながら、ライブで見た甲斐があった。早朝から、いいものを見せてもらった。
2人に感謝したい。
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