昨日、大谷翔平が所属するロサンゼルス・ドジャースがライバル、サンディエゴ・パドレスを破り、3年連続のリーグ優勝を決めた。
オールスター後絶好調のパドレスに追い上げられ苦しんだドジャースも、この直接対決に勝利すれば優勝が決まる大事な一戦。
1番指名打者で出場した大谷は、2対2の同点で迎えた7回、ランナーを2人置いて勝ち越しのタイムリーヒットを放ち、全身でチームを鼓舞した。
結局これが決勝点となり、ドジャースは7−2でパドレスをねじ伏せた。
大谷にとってはメジャー移籍7年目にして初めてつかんだプレイオフの切符。
これを手にするために常勝軍団ドジャースに移籍したのだ。
メジャーで初めてとなるシャンパンファイトを心から楽しみ、目標であるワールドシリーズ制覇に向けて頑張ると誓った。
しかしこの日は、メジャー中継が終わっても、テレビの前から離れられなかった。
9人が立候補した前代未聞の自民党総裁選。
午後1時から、いよいよ国会議員による投票が始まったからだ。
当初最有力と見られていた小泉進次郎氏は、公約に掲げた「解雇規制の見直し」が首切り自由化だと集中砲火を浴びて選挙戦の途中で失速し、安倍元総理の影響が強い保守強硬派の支持を受けて女性初の総理を目指す高市早苗氏が終盤一気に浮上してきた。
一体、誰が勝つのか?
派閥主導で事前に勝者が予想できた従来の総裁選とは異なり、今回は蓋を開けるまで結果がわからない最後まで各陣営の思惑が渦巻く面白い選挙となった。
20人の推薦人集めにも苦労し、いわゆる裏金議員の推薦を受けてようやく出馬に漕ぎ着けた高市氏だが、党員の支持が石破茂氏に次いで高いという調査結果が明らかになると、旧安倍派を中心に高市氏を支持する議員が徐々に増えていく。
そして投票日前日には、自分の派閥に所属する河野太郎氏を応援するとしていた麻生副総裁が突然高市氏支持に回って勝負に出るとの情報が永田町を駆け巡った。
派閥解消で従来のようには勝敗が予想できない総裁選、各メディアは石破、高市、小泉のいずれか2人が決選投票に進むと見てそれぞれの組み合わせで敗れた陣営が誰を支持するかを予想するが、政治記者も評論家も結果を断定することはできない。
派閥がなくなると、こうも総裁選びが面白くなるのか。
改めて「派閥解消」という岸田総理が仕掛けた爆弾の破壊力を思い知る。
27日の午後1時から始まった1回目投票。
議員票でトップに立つと見られていた小泉氏は75、辛うじてトップは確保したが、陣営が期待した90〜100票には遠く及ばなかった。
代わって目を引いたのが高市氏、小泉氏に迫る72票を集め事前の予想を大幅に上回った。
麻生さんの号令で、小林鷹之氏、河野太郎氏、加藤勝信氏の支援者が高市氏に寝返ったと分析されている。
この議員票以上に驚きをもって受け取られたのが、全国の党員党友票の出方だった。
党員票ではダントツと見られていた石破氏を抑え、高市氏の票が1位となったのである。
これは自民党の議員もメディアも予想外だったらしいが、長く続いた安倍政権の時代に、安倍さんを神のように崇める極右的思想を持った人たちが大挙して自民党員になったことを考えれば個人的にはさほど驚かない。
この手の人々は、トランプ支持者同様の岩盤層なので、状況や個別の事象に関係なく支持する政治家、敵対する政治家が決まっているのだ。
高市さんを盲目的に応援する彼らの間では、長年安倍さんと敵対していた石破氏は敵であり、一定の距離を置いていた小泉氏も明確な敵なのである。
総裁選の期間中ネットを見ると小泉氏を揶揄する記事が大量に流れていたが、これらの多くは右寄りのネットメディアや雑誌が意図的に小泉氏を狙い撃ちにしているように私には見えた。
決選投票で強いと見られていた小泉氏を引きずり下ろし、石破氏との対決になれば高市氏が勝てるとの目算があっての小泉叩きだったと私はみなしている。
こうして高市氏はトップで決選投票に勝ち進んだ。
長い自民党の歴史で女性候補が決選投票に残ったのは初めてのこと、「自由民主党にとっても日本にとっても歴史的な瞬間だ」と高市氏も語った。
私は女性総理の誕生を大いに支持する立場の人間である。
ただ、「高市さんは嫌だな」と思いながらテレビを見つめていた。
マーケットは高市総理誕生を見越して円安株高が進んだ。
高市氏はアベノミクスの継承を掲げ、金利引き上げに反対していたからだ。
一方、2位で決選投票に臨んだ石破氏。
投票前の演説では、38年間の議員生活を振り返り同僚議員にお詫びした。
「私は至らぬ者でありました。多くの至らないところがあり、多くの方々の気持ちを傷つけたり、嫌な思いをされた方が多かった」
過去4度の総裁選で党員からの支持を集めながら議員票が伸びなかったことを素直に反省した言葉だった。
しかし同時に、自らの信念もはっきりと口にした。
「ルールを守る自民党でなければならない。国民はなお自民党を信じていないかもしれない。国民を信じて逃げることなく正面から語る自民党をつくっていく」
裏金問題に一切触れない高市氏とは対照的な演説だった。
そして国会議員と都道府県連代表による決選投票が行われた。
結果は、高市氏194票に対し石破氏が215。
安倍・麻生体制の下、長年非主流派として冷飯を食わされてきた石破氏が議員票によって高市氏を逆転したのだ。
この結果は、ちょっと予想外だったが、すぐに自民党らしい結果だと考えるようになった。
田中角栄総理がスキャンダルで退陣し、国民の政治不信が高まると自民党はすかさず弱小派閥ながらクリーンなイメージのある三木武夫氏を次の総理に担ぎ上げ危機を乗り越えた。
あの時と、同じだ。
裏金議員に担がれた高市さんでは野党から格好の攻撃材料となり、選挙で敗れる可能性が高い。
であればここは「党内野党」と呼ばれ正論を主張してきた石破さんを立てて急場を凌ぎたい、そんな自民党議員の本音が透けて見える。
しかし、何はともあれ、5度目の正直で石破茂さんが岸田さんに代わる自民党総裁に選出された。
私も直接お会いしたことがあり、その飾らない人柄に好印象を持っているので、まずは苦労が報われて良かったと思う。
とはいえ、党内基盤が弱い石破さんが自らの政策を実現できるかは大いに疑問だ。
年内にも行われるであろう解散総選挙と来年夏の参院選を乗り切れば、もう用済みとばかり「石破降ろし」が始まるかもしれない。
事実、三木さんもそうして引きずり下された。
それまでに国民の支持を高めて政権の基盤を安定できるかどうかが石破さんの運命を決めるだろう。
与えられた時間は限りなく少ないのだ。
当面の焦点は人事である。
石破氏は総裁就任の記者会見で、共に戦った8人の候補者をそれぞれふさわしいポストで処遇する考えを示したが、派閥の推薦は一切受けないと断言した。
メディアの分析によれば、今回の決選投票では岸田総理と菅前総理が石破氏支持に動き、麻生さんと茂木さんが高市氏を支持したと見られている。
すなわち安倍元総理とともに長く自民党内に影響力を行使してきた麻生さんが、今回は非主流派の立場に置かれることになるのだ。
しかも麻生さんは、自らの派閥所属の河野さんを見限って土壇場で高市さんに走った。
これで唯一残っていた麻生派もバラバラ、今月84歳になった麻生さんの求心力は急速に失われる可能性が高い。
すでに安倍さんはなく、麻生さんも力を失えば、右に大きく傾いた自民党の力学も転換点を迎えるだろう。
今後の実力者は菅さんか岸田さんか?
この二人は、岸田さんが菅政権に反旗を翻した因縁の関係でもある。
個人的には、石破さんが政治とカネの問題で透明性の高いルールを作ってくれることを望む。
防災省のような災害対応の司令塔を作ることにも賛成だ。
地方創生も含め内政に関しては石破さんに大いに期待している。
しかし、総理大臣の仕事は内政だけではない。
残念ながら、外国の首脳と並んだ石破さんがどうもイメージできないのだ。
もしもトランプさんがアメリカ大統領に返り咲いたら、石破さんとトランプさんで会話が成り立つだろうか?
石破さんが主張する「アジア版NATO」の構想を私は個人的に支持しているが、これはかなり露骨な中国包囲網であり、上手に進めない限り中国政府の反発だけでなくアメリカのアジア戦略ともズレを生み、良好な日米関係にヒビを入れる可能性もある。
「物言う日本」を果たしてアメリカは受け入れてくれるだろうか?
かつての鳩山元総理のようにアメリカから危険人物とみなされて、日米同盟の強化という石破さんの真意が伝わらないまま遠ざけられてしまう懸念を私は抱く。
事実、石破新総裁誕生を伝えたアメリカのメディアの論調には、歓迎というよりも警戒心が漂っている。
相手の懐に飛び込む安倍さんのような芸当は期待できない以上、アメリカ側に石破さんの真意を理解してくれるパートナーが現れることに期待するほかはない。
総理になっても靖国神社を参拝すると公言していた高市さんに比べれば、韓国や中国との関係は穏やかに始められそうだが、それとて何か重大な事案が発生すればたちどころに緊張を孕むだろう。
いずれにせよ、石破さんの外交からは当面目が離せない。
もう一つの懸念は、マーケットである。
決選投票で石破氏の勝利が決定した瞬間、日経平均の先物が急落した。
高市総理を織り込んで上昇していた株価が見事に反転したのだ。
アベノミクスは庶民の懐は豊かにしなかったものの、円安ドル高を常態化させ株価を4万円にまで吊り上げた。
石破総理の誕生で安倍政治に幕が下ろされれば、右肩上がりだった株式市場にも変調が起きるだろうというのはある意味自然が読みである。
一方為替は大きく円高に振れた。
庶民を苦しめている物価高の大きな要因が行きすぎた円安だと指摘されながらも、日銀が利上げに踏み切っても円安の基調は変わっていない。
ところが石破さんが総理になると伝わると一気に円高が進んだのだから、それはそれで静観すればいいと私は思うのだが、きっと株が下がると石破さんを批判する人たちが現れるのだろう。
政府の勧めでNISAを始めた人たちもいて、株価が急落するときっと石破政権への逆風が強まるに違いない。
個人的には、株価が下がろうとも大企業だけが儲かる今の円安状況が改善された方がいいと思っている。
政府と日銀がグルになって株価を吊り上げたアベノミクスが異常なのであって、政府が日銀に過剰に干渉することなく、慎重に正常化の道を歩んでくれることを望む。
そして、石破さんが主張する金融所得課税の強化もぜひ進めてもらいたい。
庶民の株式投資には非課税のNISAが普及してきているのだから、非課税枠を超える大口取引の利益にはしっかり課税して、勤労所得よりも金融所得の方が税率が安いという馬鹿げた現状を改善してもらいたいと思う。
いずれにせよ、石破総裁の誕生で安倍的なる自民党が曲がり角に来た。
保守派に支配された自民党が中道寄りに軌道修正したことになる。
壇上で石破さん以上に岸田さんが嬉しそうだったのが印象的だった。
次の選挙で、裏金をもらっていた旧安倍派の議員は落選する可能性が結構高い。
高市さんの敗戦で自民党を見限る支持者もいるかもしれない。
こうして右に振り切った自民党は、党内での政権交代により振り子を元に戻し、安倍政権誕生前の幅の広いヌエのような政党に回帰するのだ。
こんな不思議な政党は他国にもあるのだろうか?
野党の立憲民主党が中道の野田佳彦元総理を新代表に選ぶと、自民党も負けじと中道の石破氏を新総裁に選んだ。
アメリカをはじめ欧米各国の政治状況が左右両極に分断を強める中で、日本では与野党ともに中道に回帰していることをとても興味深く思う。
日本人というのは元来、極端なものを好まず、当たり障りがないほどほどのものを選ぶ民族なのかもしれない。

