<吉祥寺残日録>人口80億人を突破した世界で、希望に満ちた未来を示せないリーダーたち #221116

世界の人口が80万人を超えたという。

私がバンコク支局勤務だった1987年に「世界の人口が50億人を超えた」というテーマでインドを取材したことを思い出す。

あれからわずか35年で30億人も増えて、世界の人口は1.6倍になったということだ。

私が生まれた1958年の世界人口はどれぐらいだったんだろうと思って調べてみると、まだ30億人にも達していなかったことを知り驚く。

要するに私が生きてきた65年間に地球上の人類はほぼ3倍に増殖したことになる。

そして私が100歳になる頃には世界の人口は100億人を突破するらしく、これはもう「異常繁殖」と言ってもいいだろう。

第二次世界大戦終結後、人類が急速に増えた一つの理由は「平和」だ。

東西冷戦という核兵器による危うい均衡の中で、何千万人もが死ぬような大規模な戦争を迂闊に仕掛けられなくなった。

ロシアのウクライナ侵攻で、もしもNATOが参戦を決めていたなら、この戦争による死者は現状の比ではなかっただろう。

朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争やイラク戦争など局地的な戦争はいくつも起きているが、大国同士が正面からぶつかるような世界大戦は起きていない。

だから人口の増加はある意味、過去の教訓から学んだ人類の叡智の賜物だとも言える。

そうした戦後の「平和」を今後も維持できるかどうか、鍵を握る2人のリーダーが初めて対面で首脳会談を行った。

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平総書記である。

予想された通り、双方がそれぞれの主張を行い、目立った成果はなかった。

ただ両国ともに直接的な武力衝突に発展しないように対話を続ける意思を示したことは重要な一歩だといえるだろう。

焦点となるのは台湾問題。

中国は完全に国内問題だと思っている一方、アメリカは民主主義国家を守るという世界的な文脈でこの問題を見ているから、双方の考えが一致することは絶対にない。

解決策がありえるとすれば、中国が時間を味方につけて当面台湾問題を棚上げにするという鄧小平的な知恵を使うか、アメリカが国内問題に忙殺されてアジアから手を引くかのどちらかだろう。

残念ながら、どちらもすぐには起こりそうにない。

現在東南アジアを舞台に、世界のリーダーたちが集まる国際会議が次々に開かれているものの、そこで私たちの未来を明るくするような話し合いが行われているという情報は全くない。

最大のテーマは目先のウクライナ問題であり、各国のロシアに対する温度差がそのまま世界の分断を示しているだけだ。

インドネシアで開かれているG20首脳会議には、ロシアのプーチン大統領は欠席、代理で出席したラブロフ外相は一時体調を崩して病院に運ばれたという情報も流れた。

欧米諸国や日本はロシアを強く非難したが、中国やインド、ブラジル、南アフリカのBRICS諸国はロシア制裁には消極的な姿勢を崩さなかった。

G20にはトルコやサウジアラビアなど欧米の民主主義とは一線を画す国も多い。

最近の日本では、欧米に同調することが正義だという意識が浸透しているが、この日本でも少し前までは米軍基地に反対し強い反米感情を持った人たちがたくさんいた。

日本が欧米の価値観を全面的に受け入れたのはつい最近のことであり、ある意味では日本人のものの見方が単純化しすぎているといえるかもしれない。

G20に先立ってカンボジアで開かれたASEANサミットの場では、3年ぶりとなる日韓首脳会談も実現した。

文在寅政権時代、慰安婦や徴用工をめぐる問題でこじれにこじれ出口が見えない状況に陥ったが、韓国に保守政権が誕生したことと、北朝鮮の動きが活発化したことが後押しとなってようやく首脳会談が再開されたのだ。

これはひとまず良かったと思いたい。

東アジアの状況を俯瞰すると、韓国以外に日本が手を組むパートナーは見当たらない。

ヨーロッパ諸国はEUとNATOによって自由と民主主義を守ろうとしているが、アジアでは日本だけがアメリカの出先のような位置づけになっていて、もしも台湾有事が起きた場合、日米同盟だけで中国を封じ込めることは不可能に思える。

東南アジアは伝統的に中国の影響下にあり、経済的にも中国と敵対することは国益に反するだろう。

EUやNATOのようにはならなくても、日本、韓国、オーストラリアの足並みが揃っていれば中国に対して一定の抑止力にはなる。

近い将来には、アメリカだけでなくNATOとの連携強化も重要な政治課題として浮上してくると私は見ている。

外相として慰安婦合意をまとめた実績のある岸田さんに、ぜひ奮起してもらって、韓国との間のしこりを一つ一つ丁寧に取り除いてもらいたいと思っている。

安倍さんと違って岸田さんなら、慰安婦や徴用工の人たちと直接対面して謝罪することもできるのではないか。

岸田総理にはぜひお得意の「聴く力」を発揮していただいて、日韓の相互理解を進めていただきたいと期待しているのだが、私がどうしても気になってしまうのは、岸田総理の具体的なビジョンが見えないことである。

ハト派である総理自身にはきっと理想とする世界観があるのだと思うが、口から出てくるのは世論に追随するだけの目先の話と当たり障りのない抽象論ばかり、国民の反対を押し切ってでも成し遂げたい将来のビジョンを総理から聞いたことがない。

日本国民の甘えも同じ様に問題である。

気にするのは自分の利害ばかりで、増税には反対、物価高対策という名のバラマキをただただ歓迎する人が多いのは困ったものだ。

日本の最大の問題は、国も地方も借金まみれで必要な政策を実行するためのお金が政府にないということだと私は思っている。

岸田政権が実行しようとしている防衛費の増額には理解を示す国民が増えているようだが、これをもしも国債の追加発行で賄うことになれば、それは戦前の戦時国債の二の舞であり、軍拡に歯止めが効かなくなってしまう危険性が伴う。

痛みが伴わなければ国民は本気で反対しないからだ。

東アジアの安全保障環境が厳しくなったことを理由に本当に防衛費の大幅増額を行うのであれば、国民はそれに見合う負担に応じきちんと税を納めなければならない。

誰かが代わりにお金を出してくれることなどないのだ。

岸田さんもそのことをはっきりと国民に説明すべきなのに、支持率への影響が気になってちっとも具体的な言及がないまま予算編成がどんどん進んでいる。

きっとなし崩し的に防衛予算増額のための国債発行がある日突然発表されるに違いない。

13日まで中国の珠海で開かれていた「中国国際航空宇宙博覧会」には、中国国産の無人兵器が大量に出展されたそうだ。

こうした兵器とAIを組み合わせた戦闘ネットワークの構築が官民あげて進められている。

中国が思い描く次世代の戦闘は、ウクライナで起きているような昔ながらの戦争ではなく、ターミネーターのようなもっとSF的な世界かもしれない。

ロボットがAIの司令に基づいて人間を攻撃する世界。

ひょっとすると台湾がそのテスト場となるかもしれない。

ウクライナの戦場でもイラン製のドローンが話題になっているが、この展示会で初展示された中国製の大型ドローン「翼竜3」は、航続距離が1万キロ以上で、グアムやインドまで作戦範囲が及び、もちろん日本はその範囲内に入っている。

中国のドローンといえば、民間ドローンで世界の7割のシェアを誇るDJIが知られる。

つまり中国は世界トップクラスの姿勢制御技術と無人誘導能力を持っており、大量の無人機を投入して一気に台湾海峡を越えて攻め入ることは十分に考えられるのだ。

空母と戦闘機といった従来型の兵器ばかりに気を取られていると、次の戦争には勝てない。

果たして日本の防衛装備は時代についていけるのだろうか?

こうした首脳会談が続く中、ウクライナでは戦況を左右しかねない微妙な状況の変化が起きている。

一つには、ロシア軍に占拠されていた南部の州都へルソンが解放され、多くの市民がウクライナ兵と抱き合って喜びを表している映像が放送されていることだ。

ゼレンスキー首相もこの街に入り、「この戦争は大きな代償を伴っている。我々のうち最良の人々の命と健康と引き換えに自由を得た」と兵士たちの労をねぎらった。

一方で、ロシア製のミサイルがNATO加盟国の一つポーランドに落下し住民が死亡するというショッキングなニュースも伝わっている。

ポーランドが本当にロシアから攻撃を受けたのであれば、NATOが戦争の当事者となる可能性も出てくる重大な事案である。

インドネシアに集結していたG7やNATOの首脳たちは直ちに緊急会合を開き、対応を協議し、まずは事実関係を調査するという冷静な判断になったようだ。

こういう時こそ冷静さが大切で、ミサイルの軌道を分析すると発射された場所はロシアではないらしい。

ウクライナ側の誰からNATOの参戦を促す目的であえてロシアから奪ったミサイルをポーランド領内に撃ち込んだ可能性だって否定できないだろう。

Embed from Getty Images

このように一歩間違えば世界大戦に発展しかねない緊迫した情勢の中で、この人が大統領選への出馬を表明した。

先日の中間選挙で事前に予想された野党共和党の圧勝が起きなかったのはトランプ氏のせいだと身内からも批判が出ているが、ご本人はそんなことはお構いなし。

全て自分ファーストの政治スタイルは今も全く変わらない。

世界のリーダーたちには、戦争がなくみんなが平和の中で自分らしい人生が送れる方法を示し、その方向に国民を導いていく存在であってほしい。

しかし現実には、自らの政治的な利害から他国を利用し、対立を演出するリーダーも多い。

そうした国内向けの危険な演出が結果として戦争を生むのだ。

世界中の人が夢を託したくなるような偉大な指導者がそろそろ現れてほしい。

一連の首脳外交を見ながら、そんなことを感じた。

コメントを残す