岡山では連日耕作放棄地の片付けのことばかり考えていたくせに、吉祥寺に戻るとそんなことはすっかり忘れ、来月から旅行する中東のことで頭がいっぱいになっている。
コロナのせいで海外旅行に出かけるのも3年ぶりである。

昨日、岸田総理がコロナの扱いを春以降「2類」からインフルエンザ並みの「5類」に移すよう指示したことで、日本もようやく欧米並みのウィズコロナ体制に移行することになりそうだ。
出入国の規制も国際的にだいぶ緩和されたようなので、私もそろそろ隠居後の柱となるはずだった海外視察に動き始めようと思っているのだ。
そんな折、岡山から戻ると待ち侘びたものが自宅に届いていた。

昨年末に申し込んでいた「プライオリティ・パス」が届いたのだ。
「プライオリティ・パス」というのは、世界中の空港ラウンジが利用できるカードで、格安航空券を探して経由便で目的地を目指すこれからの私にとってはとてもありがたい魔法のカードなのである。
これさえあれば、経由地の空港で軽食でもつまみながらゆったりと待ち時間を過ごすことができる。
もう私も若くはないので、多少お金がかかってもある程度は自分の体を労らなければならないと、妻に認めてもらってこのカードを購入したのだ。
こういうカードを見ると、ますます海外旅行熱が高まってくるもので、岡山での野焼きのことなどどこかに吹っ飛んで、2週間後に迫った出発に向けてさっそく旅行の準備を始めた。

まず最初に行ったのは、Amazonのサイトで中東で使えるSIMカードを手に入れることだった。
ヨーロッパやアジアの国々とは違い中東に行く日本人旅行者は少ないと見え、Amazonでもほとんど選択肢はない。
どこ製のSIMカードかは不明だが、砂漠の写真があしらわれた少し怪しい感じの「中東SIMカード UAE他7カ国」を買うことにする。
私が訪れる予定のサウジアラビア、クウェート、バーレーンで6ギガ使え、有効期間は15日間、値段は4780円だった。
ホテルはWi-Fiが使えるところを選んだので、SIMがなくてもいいのだが、公共交通機関が利用しにくい国ではウーバーが便利との情報もあるので、地図とウーバー用にとりあえず最低限の通信環境は維持しようと思った次第だ。
昨日注文したSIMカードはもう今日には届いたが、日本で試すわけにもいかず、現地に到着後スマホに挿してみて通じるかどうか試すしかない。
結構な確率で不良品もあるようなので、そこは運に任せるしかないだろう。

次に準備するのは、サウジアラビアのビザ。
この砂漠と石油の王国は、2019年まで全く外国人観光客を受け入れてこなかった。
ところが、いろいろな噂がつきまとうムハンマド皇太子が実権を握って以降、国の近代化を猛スピードで進めていて、UAEのドバイが観光で大成功を収めていることにも触発され、国を開く決断をしただけでなく観光を石油に変わる経済の柱に育てようと野心的な計画を次々に発表しているのだ。
ただ、サウジアラビアを旅行するにはビザは必要で、日本人の場合には大使館に行かなくても専用のサイトから「eVISA」を取得することが可能となっている。

サイトは全て英語。
必要な情報をインプットしながら進んでいくのだが、途中で顔写真をアップするよう求められるページが現れ焦ってしまった。
慌ててスマホで自分の写真を撮りアップロードすると、サイズが大きすぎて受け付けてもらえない。
どうすれば写真のサイズを縮小すればいいのか調べたりして、ようやくなんとか受け入れてもらった。
サウジアラビアでの滞在先も求められるため、ビザの申請をする前にあらかじめホテルを確保する必要がありそうだ。

こうして四苦八苦しながら申請した甲斐があり、申請完了の5分後には、登録したメールアドレス宛にeVISAが送られてきた。
これでひとまずサウジアラビアには入国できるだろう。
ビザは有効期間が1年間、入国から最大90日間滞在できる。
マルチビザなので、おそらく1年以内ならば何度でもサウジアラビアに入国できるはずだ。
eVISAの取得にあたっては決められた会社での保険加入も求められるため、ビザの取得料は結構割高になる。
苦労して手に入れたサウジアラビアのビザ。
今年はあまり訪れたことのない中東を中心に回りたいと思っているので、せっかくならば別の国に行く際にもトランジットなどでサウジのビザを利用させてもらいたいものだ。

続いてもう一つの訪問国クウェートのビザも申請した。
こちらも日本人はeVISAの対象になっているため、ネットからの申請が可能だ。
クウェートの場合は顔写真ではなく、必要な情報が記載されたパスポートのページの写真をアップロードするよう求められるのだが、サウジアラビアのビザ申請で写真のサイズをコントロールする方法も覚えたので問題なく写真は用意できた。
ところが、である。

クウェートでの滞在先を記入するページで思わぬ苦戦をすることになった。
クウェートでは、フランス系のホテル「IBIS SHARQ」に3泊予約を取っていたが、どこにもホテル名を書く欄がない。
ホテルの住所を書けばいいのだが、記入欄が細かく分かれていてどこに何を書けばいいのか戸惑ってしまったのだ。
記入欄は「Area」「Governorate」「Block」「Street」「Avenue」「building Number」「building Type」「Flat / Floor」に区分されているのだが、ホテルの住所のどの部分が「Area」でどの部分が「Governorate」なのかさっぱりわからなかったので、適当に記入して「NEXT」を押すと、「Area」「Governorate」の欄が削除されて、「Start typing the Area name in the Area field then select from the search list」という注意書きが表示される。
最初は「Area」の欄に「Kuwait City」と書いたがダメ、次に「Kuwait」と書いてみたがダメ。
同じく「Governorate」にもいろいろ書いてみたが、その都度削除され同じ注意書きが表示されてしまう。
一体、「Area」「Governorate」って何なんだと叫びたくなった。
何かヒントがないかとネットで調べていると英語のWikipediaにこんな記述を見つけた。
Kuwait is divided into 6 governorates (muhafazah). The governorates are further subdivided into areas.
『クウェートは6つのgovernorate(muhafazah)に分かれている。governorateはさらに複数のareaに分かれている』
そして「Areas of Capital Governorate」という表が出ていて、その中にホテルの所在地である「SHARQ」の文字を見つけたのだ。
そうか、Areaの欄に「SHARQ」と書けばいいのか。
実際に記入してみると、自動的にGovernorateの欄には「Asimah」という文字が表示された。
私が予約したホテルのあるエリアは官庁が集まる「Capital Governorate」で、別名「Al Asimah」とか「Al Kuwayt」と呼ばれるらしい。
でもそんなこと、ホテルの住所にはどこにも書かれていない。
これはかなりの難題だと感じた。
さらに、その下の欄には「Local Kuwait Mobile Number」と書かれていて、クウェートの携帯など持っていない私はなんと書いていいのやら戸惑ってしまった。
結果的にはホテルの電話番号を記入してみたら、無事に受け付けてもらえたようだ。

こうしておよそ1時間もかけて、ようやくeVisaの申請作業は終了した。
審査を経て後日、登録したメールアドレス宛にビザが送られてくるはずだ。
私が取材などでよくビザを申請していた頃には当然のことなど電子ビザなど存在しなかった。
どうも勝手がわからないことも多いが、混雑する大使館に行くことを思えばずいぶん楽になったものだ。
通訳アプリの精度も上がっている。
ちんぷんかんぷんのアラビア語でも、こうしたアプリを使えばコミュニケーションもできるだろう。
まだまだ私が知らない便利なツールがたくさんあるのだろうが、必要に応じて徐々に慣れていけばいい。
とはいえ見知らぬ外国を旅していると、予期せぬトラブルもつきものだ。
世界中でコロナで中断していた旅行需要が回復する中、さまざまなトラブルも旅の醍醐味だと思って、せいぜい3年ぶりの中東旅行を楽しみたいと思っている。