今年のメジャーリーグは、日本人選手の活躍に支えられたロサンゼルス・ドジャースが、第7戦の延長戦にまでもつれた大接戦を制し、トロント・ブルージェイズを下して2連連続のワールドチャンピオンに輝いた。
常勝軍団ドジャースでも、ワールドシリーズ連覇は史上初の快挙だという。

延長11回、ダブルプレーで優勝が決まった瞬間、マウンドに立っていたのは前日に先発し勝利投手になったばかりの山本由伸だった。
いち早く駆け寄ったのは決勝ホームランを放ったキャッチャーのスミス、ホッとして気が抜けたようになる山本を担ぎ上げ、その献身的なピッチングを讃えた。
スター軍団と言われるドジャースの選手たちも一斉に山本のもとに集まり、彼が名実共にドジャースのエースとして認められたことを全身で表す。
日本人として、しかも同じ岡山県出身者として、何とも誇らしい感動的な瞬間だった。

とにかく、ドジャースの優勝は日本人3選手がいなければ間違いなく達成できなかった。
そのことはアメリカ人も誰もが認めることだろう。
野茂英雄、イチロー、松井秀喜・・・数々の名選手が切り拓いてきたメジャーへの道が一つの頂点を迎えたのが今年のプレーオフだったと言える。
今年のポストシーズンには、大谷、山本、佐々木が所属するドジャースの他に、ダルビッシュ、松井裕樹が所属するパドレス、鈴木誠也、今永昇太のいるカブス、さらに吉田正尚のレッドソックスと大勢の日本人選手が出場、しかもみんな各チームの主力選手である。

まずワイルドカードシリーズでシンシナティ・レッズと対戦した大谷は、いきなり先頭打者ホームランを含む2本塁打を放ち、翌日には山本が先発して連勝、すんなりと地区シリーズ進出を決めた。
レギュラーシーズンでは3年連続のホームラン王は惜しくも逃した大谷だが、ポストシーズンでは今やメジャーを代表するその打撃で連覇に向けてチームを鼓舞した。
ただ、この試合で特に注目を集めたのは、今年ドジャースに加入したもののケガのため目立った活躍ができなかった佐々木朗希だった。
第2戦の9回に登板した佐々木は打者3人に完璧に抑え、一躍リリーフ陣に不安を抱えるドジャースの救世主になったのだ。

カブスの鈴木誠也もポストシーズンで3本塁打を放ち、地区シリーズで敗退したものの充実のシーズンを締め括った。
今シーズンの鈴木は3番に定着、松井秀喜の記録を越える32本のホームランを放ち、松井、大谷に続く日本人三人目の30本塁打、100打点をマークし、チームのポストシーズン進出に貢献した。

ドジャース地区シリーズの対戦相手はフィラデルフィア・フィリーズ。
大谷を抑えてホームラン王のタイトルを獲得したシュワーバーとの直接対決が注目された。
初戦に先発した大谷は、ポストシーズン初となる二刀流を披露、3点を失ったものの6回9奪三振で勝利投手となった。
続く第2戦ではバッターとして決勝打を放ち、強豪を相手に2試合続けて接戦をものにする。

ロサンゼルスに舞台を移して行われた第3戦。
地区シリーズ突破をかけた戦いを任されたのは山本は3回までフィリーズ打線を無安打に抑える好投を見せる。
しかし4回、本塁打王のシュワーバーに痛恨の一発を浴びると猛打のフィリーズ打線が火を吹き、この回3失点。
続く5回も2者連続のヒットを許しマウンドを降りる。
リリーフ陣も打たれて終わってみれば2−8の大敗となった。

第4戦は延長にもつれ込む大接戦となった。
大谷はこの地区シリーズ、フィリーズ投手陣に抑え込まれ4試合でヒットわずかに1本、投手戦のまま1−1で延長戦に突入する。
この試合でヒーローとなったのが、突如抑えの切り札となった佐々木朗希。
フィリーズとの大事な初戦で初のセーブをマークすると、第4戦では同点の8回から登板、3イニングを無安打で抑え勝利投手となった。
この地区シリーズでロバーツ監督やチームの信頼を得た佐々木は、ポストシーズンを通じてドジャースのクローザーとして勝利に貢献することになる。

リーグ優勝決定シリーズの相手は、今シーズン両リーグを通じて最高勝率を誇るミルウォーキー・ブルワーズ。
目立ったスター選手がいないものの、日本的な緻密な野球でナショナルリーグの第1シードを手にしたチームで、レギュラーシーズンでは6戦全敗という苦手な相手だ。
第1戦を任されたのは、ワイルドカードシリーズからワールドシリーズまですべて第1戦に先発したスネル、2回のサイ・ヤング賞を獲得したドジャースのエースである。
この試合、スネルは完璧なピッチングでブルワーズ打線を完全に封じ、8回無失点10奪三振でマウンドを譲り、9回は守護神佐々木。
しかしこの日の佐々木は制球に苦しみ、1点を失いなお走者を残したまま降板。
辛くも2−1で逃げ切ったものの、最後までハラハラする薄氷の勝利であった。

第2戦に先発した山本は先頭打者にいきなりホームランを許すものの、その後は徐々に立ち直り、中盤からは一人のランナーも出さない完璧なピッチングでメジャー移籍後初の完投勝利を飾る。
3安打1失点、ポストシーズンでの完投勝利は2017年のバーランダー投手以来で、日本人投手としては初の快挙だという。
勢いに乗るドジャースは続く第3戦も3−1で勝利し、ワールドシリーズ進出に王手をかける。

一気に勝利を決めたいドジャースは大谷が先発。
ポストシリーズの打率が1割台と極度の不振に陥っていた大谷が突然覚醒、初回先頭打者ホームランを放つと、4回、7回にもソロホームランを放ち、打っては3本塁打、投げては6回0/3を2安打10奪三振無失点で勝利投手という文字通り漫画のような大活躍を見せた。
まさに球史に残る1日。
勝利投手が10奪三振と同時に3本塁打を達成するなど一体誰が想像しただろう。
こうしてドジャースは4戦全勝で苦手ブルワーズを退け、2年連続でワールドシリーズに駒を進めた。

ワールドシリーズの相手は、アメリカンリーグの最多勝利チーム、トロント・ブルージェイズだった。
4戦無敗で勝ち抜けたドジャースとは対照的に、ブルージェイズはリーグ優勝決定シリーズでマリナーズを4勝3敗で破ってようやく勝ち上がり、事前の下馬評ではドジャースが圧倒的に有利と見られていた。
ゲレーロJr.ぐらいしか私が知る選手がいないノーマークのチームだったけれど、ヤンキースやレッドソックスといった強豪ぞろいの地区を勝ち上がったその実力は本物で、初戦ではこれまで安定したピッチングでポストシーズン3勝を挙げていたスネルに対し6回無死満塁のチャンスを作り降板させると、続く下位打線が連打で得点を重ね、最後は代打のバージャーが満塁ホームラン。
終わってみれば4−11の大敗だった。
ポストシーズンでの代打満塁ホームランはメジャー史上初、その後も毎試合息が詰まるような熱戦が繰り広げられる。

嫌な流れを変えたいドジャースは第2戦、山本が先発。
初回は先頭から2連打を浴び、いきなり無死一、三塁のピンチを迎えたものの、このピンチを無失点で凌ぐと、3回に1点を奪われ同点に追いつかれても崩れることなく、安定したピッチングで9回を投げ抜き、4安打1失点、5−1で2試合連続の完投勝利を挙げた。
ポストシーズンでの2試合連続完投勝利は実に24年ぶりの快挙である。

そして1勝1敗で迎えた第3戦。
これまた球史に残る壮絶な試合となった。
この日再び大谷が大爆発、4打数4安打でしかも2本のホームランと2本の二塁打と極度の不振に苦しんでいたのが嘘のような大活躍を見せる。
ワールドシリーズで1試合4本の長打というのは119年ぶりの記録だという。
しかし、ブルージェイズも負けてはおらず、5回に逆転すると一歩も譲らず、9回を終わって5−5の同点、ゲームは延長戦に突入する。

延長戦は両チームのブルペンが踏ん張り、スコアボードに0が並ぶ展開でついに18回に突入。
4安打の大谷はその後、史上初となる4連続敬遠を含む5四球で、9打数連続出塁という珍しい記録を打ち立てた。
双方ベンチ入りした投手も野手も全員投入する総力戦となり、怪我人を抱えるブルージェイズが野手全員を使い何かあっても交代要員がいないギリギリの状態になれば、ドジャースも控えピッチャーを使い果たし、最後は2日前に完投したばかりの山本が投球練習を始めるところまで追い込まれる。
18回裏に得点が入らなければ、いよいよ山本投入という非常事態でゲームを決めたのは4番フリーマンの1発。
去年のワールドシリーズ初戦で劇的な逆転ホームランを放ちシリーズMVPとなったチームリーダーの一振りがチームを救ったのである。

これで一気にドジャースに流れが傾くかと思われた第4戦。
今度は先発の大谷がブルージェイズのチームリーダー、ゲレーロJr.に手痛い逆転ホームランを喰らう。
6回0/3投げて6安打4失点、チームも2−4で敗れ、大谷はポストシーズンで初めての負け投手となった。

2勝2敗の5分で迎えた第5戦。
この日はブルージェイズが初回スネルから2者連続のホームランで先制すると、先発した新人投手イエサベージが7回12奪三振の快投を見せ、1−6とドジャースを圧倒した。
イエサベージは昨年のドラフト1位で、今シーズン初めにシングルAでスタートし、ダブルA、トリプルAと一気に駆け上がり、シーズン後半にメジャーに昇格、いきなりワールドシリーズ第1戦に先発するという大出世を果たしたピッチャーだという。
新人とは思えぬ落ち着いたマウンドさばきで、並いるドジャースの強打者から三振の山を築き、初戦では5回途中で降板したため勝ち投手にはなれなかったけれど、この日は自身最長となる7回まで投げ、大谷をはじめとするスター選手揃いのドジャース打線を見事に沈黙させた。
この連勝でブルージェイズが3勝2敗として、32年ぶりのワールドチャンピオンに王手をかける。

ブルージェイズは、投打ともに弱点がなく、若くてとてもチームワークの良い想像以上に強いチームである。
打線は1番から9番まで3番のゲレーロを中心に個性的なバッターが並び、本当に切れ目がない。
中心選手である1番スプリンガーは脇腹を、4番のビシェットは足を痛めていても、それを感じさせないようなプレーでヒットを量産、下位打線も全員しぶとくてハラハラの連続である。
チーム打率は両リーグトップで、三振も一番少ないというのが嘘ではなく、とにかく空振りが少なく追い込まれてもとにかくファウルで粘る。
守備も固く、何度も超ファインプレーでドジャースの得点を防ぎ、走塁や小技も巧みで、カナダを本拠とする唯一のチームとして悲願のワールドチャンピオンを目指し全員が団結していることがひしひしと伝わってくるチームだった。
これは流石のドジャースも負けるかもしれない、そう感じた第5戦であった。

しかしそんなムードに再び待ったをかけたのは、またもやこの男だった。
負けると終わりという緊張する第6戦に先発した山本はさすがに疲れが見え、初回からランナーを出す苦しい展開。
しかし要所要所を締めて、6回を5安打1失点にまとめ、リリーフに後を託した。
7回はロブレスキが抑え、8回からは佐々木が登板、9回にピンチを迎えるとロバーツ監督は翌日の先発が予想されていたグラスナウを投入、辛くも3−1で勝利を掴んだ。

沖縄にルーツを持つロバーツ監督は、明るくて親しみやすい良い人ではあるが、投手交代の判断ではイライラさせられることが多い。
今シーズンは投手陣に故障者が続出し、苦しい台所事情ではあったが、交代のタイミングや選ぶ投手がどうもピントはずれで、代えては打たれ逆転されるシーンを何度となく魅せられた。
このポストシーズンでも、先発投手は安定していたけれど、リリーフ陣は実に頼りなく、先発のカーショーやシーアンをリリーフ陣に加えたものの、その起用法がチグハグに見え、ピンチでトライネンやバンダを投入しては大量失点というパターンを繰り返していた。
そんなロバーツ監督が、第6戦、負ければ後がない状況でグラスナウを選んだのは英断だったが、ダブルプレーで球数少なくゲームセットとなったのは不幸中の幸いだった。

そうしてついに3勝3敗で迎えた第7戦、勝った方がワールドチャンピオンに決まる大一番だ。
先日の試合でグラスナウを使ったロバーツ監督は、先発投手に大谷を中3日で起用、大黒柱に勝利を託した。
しかし連日二刀流でフル回転してきた大谷に、この日は疲労がはっきりと見て取れた。
初回から制球が定まらず、2回は満塁のピンチを背負う。
ここを何とか無失点で切り抜けた大谷だったが、3回4番ビシェットに痛恨の3ランホームランを許してしまう。
2回0/3、5安打3失点、大谷はここで無念の降板となった。

対するブルージェイズ先発は、通算221勝を誇るレジェンド投手シャーザー。
第3戦では大谷にホームランを許したシャーザーだが、この日はまさに鬼気迫る投球でリードを守った。
リードするブルージェイズは、途中からは第5戦で12奪三振を奪ったイエサベージを投入し逃げ切りを図る。
しかし8回、ポストシーズン不振だったマンシーにソロホームランが出て3−4、1点差に詰め寄り、ブルージェイズベンチはイエサベージを諦めて守護神のホフマンを投入した。
ポストシーズンの防御率0点台というホフマンはこの日も好調で、9回勝利まであと2人、ドジャースの連覇の夢は断たれたかと思われたが、ここで起死回生9番ロハスに同点ホームランが飛び出した。
どこからでもホームランで点を取れる、これこそがドジャースの強さの秘訣である。

大谷に続き、グラスナウ、スネルと先発投手陣を総動員したドジャース。
同点に追いついた9回裏、スネルが1死1、2塁のピンチを招くと、ロバーツ監督は何と前日投げたばかりの山本をマウンドに送ったのである。
日本と異なり、ピッチャーの登板間隔や球数を厳格に守るメジャーリーグで、先発投手が中0日でリリーフのマウンドに上がることは常識はずれな決断だ。
疲労が抜けていない山本はいきなり最初のバッターに死球を与え、1死満塁のピンチを背負う。
しかしここでも山本は落ち着いていた。
続くバッターは内野ゴロと外野フライに抑え、絶体絶命のピンチを凌いでみせた。
ドジャースvsブルージェイズのワールドシリーズは、最終戦も延長戦に突入する大熱戦となった。

10回は両チームとも無得点で終わり、迎えた11回表。
この日2番に入っていたスミスが値千金のソロホームランをレフトスタンドに叩き込む。
これで5−4、裏の攻撃を凌げばドジャースの連覇が達成される。

11回もマウンドに上がった山本由伸。
疲労のためか緊張によるものだろうか、山本は1死1、3塁のピンチを招く。
3塁ランナーが返れば同点、1塁ランナーが返れば逆転サヨナラという緊張する場面。
バッターはこのシリーズ大活躍で勝負強いカーク、最後の最後までヒリヒリするような展開が続く。
ここで山本が投じた一球はカークのバットをへし折り、ショートへのゴロに。
捕球したベッツが自ら2塁ベースを踏んで1塁へ送球、その球をフリーマンがキャッチしてダブルプレー、その瞬間ドジャースの2年連続ワールドチャンピオンが決まった。
山本は両手を突き上げホッとした笑みを浮かべる。

これで山本はワールドシリーズで3勝、あのランディー・ジョンソン以来24年ぶりの快挙だという。
試合後のセレモニーでシリーズMVPに選ばれた山本。
誰もが納得のMVPだったが、疲れのためだろう、渡されたトロフィーを頭上に掲げるのに苦労するほど山本の腕には力が残されていなかった。
ポストシーズンが始まってからの1ヶ月、いやその前のヤキモキするようなレギュラーシーズンの終盤から、私はドジャースの試合をほぼ欠かさず見て過ごした。
それは私にとって隠居暮らしを彩ってくれる何よりの楽しみであり、幸せなルーティーンとなった。
おかげでブログの更新がおろそかになってしまったが、来年の春まではしばらく静かな日常が戻ってくる。
来年のメジャーリーグを楽しみに待ちながら、冬の間にせいぜいブログの充実に努めたいと思っている。