5Gの弱点

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次世代の通信規格5Gを巡って、各国がせめぎあっている。

5G端末で出遅れていたアップルが5Gチップを製造するアメリカ唯一の企業クアルコムと和解したというニュースもその一環だ。

先行する韓国の東亜日報は、次のように伝えている。

 

『米国の「情報技術(IT)巨人」の間における30兆ウォンの特許訴訟が、裁判初日に劇的合意で妥結した。アップルとクアルコムは16日(現地時間)に声明を出して、「特許訴訟と関連して合意に達しており、世界的に起こされた様々な訴訟も一括取り下げすることにした」と発表した。

これにより、2017年1月にアップルがクアルコムを相手に訴訟を起こしたことで始まった両社の特許紛争は終止符を打った。早ければ今年中にアップルがクアルコムの第5世代(5G)モデムチップを搭載した初の5Gアイフォーンを発売できるという見通しも出ている。

グローバル電子業界は、米国を代表する二つのIT企業が新たに開かれた5G市場で、これ以上押されないために「崖っぷち決戦」の代わりに「和解」を選んだと解釈している。三星(サムスン)電子が今月初め「ギャラクシーS10の5G」モデルを世界で初めて発売して5G市場に参入したことで、アップルの危機感が高まったという。

特にドナルド・トランプ米大統領が連日、5G市場の先取りを強力に要求している中、米企業同士がこれ以上戦ってはいけないという雰囲気も影響を及ぼしたという解釈も出ている。韓国国内電子業界の関係者は、「トランプ大統領が『5G競争で必ず勝利しなければならない』というメッセージを連日出しているだけに、両社は急いで合意せざるを得なかったのだろう」と説明した。』

 

クアルコムとの特許訴訟で出遅れたアップルに、中国のファーウェイが接近し、これをアメリカ政府が阻止するなど水面下では激しい駆け引きがあった。

今回の和解によって、アップルは年内にも5G対応のiphoneを投入するだろうと見られている。先行するサムスンは、今のうちに一気に世界市場でのシェア確保に躍起だ。

一方、5Gの通信設備については、アメリカの規制強化によってファーウェイが影響を受け、北欧勢が漁夫の利を得ているという。

共同通信の記事は、次のように伝えている。

 

『スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアの北欧通信機器大手2社が、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システム分野で攻勢を強めている。米国が安全保障上の懸念から中国大手の華為技術(ファーウェイ)製品を5G通信網に用いないよう各国に求めたのを追い風に、受注を積み上げている。

英調査会社IHSマークイットが今年初め時点で推計した2018年の5G関連機器の出荷台数世界シェアは、エリクソンが24%で首位、ノキアは20%で、21%の韓国サムスン電子に次いで3位につけた。

ファーウェイは17%で4位にとどまった。』

 

ただ、この分野はまだ予断を許さない。中国がこのまま素直に引き下がることはあるまい。一帯一路に絡めて、発展途上国への販路拡大はもちろん、ヨーロッパ諸国の切り崩しもすでに始まっている。

通信を制するものが世界を制する。

その意味で、5Gはどの国にとっても重大関心事である。

4月初め、世界に先駆けて5Gのサービスを開始したのが、韓国とアメリカだ。中国は今年の秋、日本は来年春からのサービス開始を予定している。日本の出遅れを危惧する声も聞かれるのだが、それほど単純な話でもないようだ。

いち早く5Gサービスが始まった韓国では、あまり評判が良くないらしい。

韓国ハンギョレ新聞で、こんな記事を見つけた。

『商用化から一週間、依然“憤り”爆発
「自動運転車どころかナビすらできない」
通信企業-サムスン「責任なすりあい」の様相
「性急な商用化」した政府の責任問う声も』

一体どういうことなのか?

理由は、5Gが使えるエリアの狭さのようだ。記事の続きを引用する。

 

『 5Gの商用化がなされて一週間目の10日、利用者は依然として憤りを爆発させている。地方はもちろん、ソウルでも5Gがまともに機能しない所が多いうえ、5GからLTEへ変わる時に自然に転換(ハンドオーバー)されず、急に通信が途絶える現象が繰り返されているためだ。通信企業が設けなければならない基地局が不足し、サービス提供地域が狭い点などが主な原因に挙げられる。ある5Gサービス利用者は「5Gで自動運転車が実現するというが、現在はナビゲーションもできない」と話した。

通信企業は「初期には仕方のない現象だ」、「端末メーカーと対策を探している」という話ばかり繰り返している。商用化以前にサムスン電子の「ギャラクシーS10 5G」デバイスを通じて、ネットワーク-スマートフォン連動試験と仮想環境によるシナリオ別テストなどを進めたと大々的に広報してきたが、面目を失った。ある通信企業の関係者は「通信網とサムスン電子の端末の間の連動テストが十分になされないままに発売された」と打ち明けた。』

『業界では「性急に商用化を推進して発生した問題」として、政府の責任を問う声も出ている。政府は昨年、下半期に予定されていた5G周波数の競売を上半期に操り上げるなど、“世界初”のための“5G商用化”に踏み込んだ。通信企業のネットワーク投資負担を減らせる方式に競売方式を決めたうえに、ネットワーク構築義務も相当部分で緩和した。一般基地局のみならず。光中継基地局、スモールセル基地局も基地局構築数に含ませてやり、構築すべき基地局数(3.5GHz帯域基準)もLTEの全国網水準である15万局に設定し、3年以内に15%、5年以内に30%の構築義務を賦課した。5Gは電波の特性上、LTEより4倍以上多い基地局が必要と伝えられている。』

 

世界初の栄冠を欲しがるばかりに、拙速にサービスを開始したというのだ。

だが今の時代、5Gに限らず、ITの分野では「とにかく早く始める」ことが勝利の方程式となっている。先行したものが、市場を独占するのだ。

だから、あながち韓国の方針が間違っているとも言えない。

聞くところによると、韓国のサービスの方が同時期に始まったアメリカのものより優れているという。アメリカも、5Gサービスが始まったと言っても、エリアも事業者もごく限定的だ。

通信端末にいたっては、現実的にはサムスンのものしかない。その意味では、韓国が先行しているということは、どうやら間違いないらしい。水曜日から仕事でソウルに出張の予定なので、時間があればサムスンかKTのショップを覗いて来たいと思っている。

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それでは、日本はどうなっているのだろう?

おととい、ドコモが名古屋で開いた「5G  BUSINESS  CAMP」という展示会に行ってきた。

日本でも先日、ようやく電波の割り振りが決まり、いよいよ本格的な準備が始まったという。ラグビーW杯が開かれる9月にはプレサービスを開始し、来年春から本サービスが始まる予定だ。そして、他国の動きに触発されたためか、来年春というのが「新春」になるかもという発言も飛び出した。どうやら年明けには、日本でも5Gのサービスが開始される見通しのようだ。

その頃には、アップルや中国メーカーの5G端末も出揃うだろう。ここでも日本メーカーの存在感がないのは、少し寂しいが・・・。

でもこの日のセミナーを聞いていて、一番印象に残ったのは、予想外のエリアの狭さだった。

5Gは直進性が強いため、ちょっとした障害物があると電波が届かないということは知っていた。しかし、ガラスでも厳しいとは知らなかった。つまり、室内ではほとんど使えないということらしい。

昔、携帯電話の電波は地下には届かない時代があった。電話をかけるためにベランダに出るということもよくあった。どうやらその時代に戻るイメージなのだ。

さらに、電波が飛ぶ距離も短く、スタジアムや大きなコンサートホールで5Gを使えるようにしようと思うと数多くの送信装置を設置しないといけないという。

そして、来年春の本サービス開始の段階では、限られたエリアだけで5Gが利用できるようになるということがわかった。つまり、5Gサービスが始まっても、4Gとの併用期間が長く続くということのようだ。

ドコモでは、どのエリアで5Gサービスを始めるかまだ発表していない。基本的には大都市の駅や空港など、同時に大勢の人がスマホを利用する場所が優先のようだ。それ以外には、自動運転の実証実験など戦略的な意味がある場所が選ばれるのだろう。

私など、今の4Gで特段不便を感じていないので問題はないが、仕事的には5Gが普及して高画質の動画がどんどん普及していくかどうかは大いに関心があるところだ。

5G時代にはこんなことが可能になります、といった夢物語が先行しているが、メディアはもっと勉強する必要がありそうだ。冷静に現実を見極めること、それが私たちに求められている。

 

 

 

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