三連休の最終日。
義父母の施設入所も無事終わり、手伝いに来てくれた次男もバタバタと帰っていった。

そして、史上最強クラスと言われた台風14号は九州から山口県へと上陸し、岡山を含む中国地方がすっぽりと台風の暴風圏に入っている。
災害列島と呼ばれる日本にあって岡山は最も災害の少ない県とも言われるが、さすがに今回の台風はかなりの暴風雨を覚悟しなければならないと思っていた。
昨夜も結構な風が吹いたようで、夜中に玄関の扉がガタガタと風で揺れる音がしていた。
朝のニュースを見たら、岡山でも午前2時ごろに29メートルの強風が吹いたという。

伯母が暮らしていた築100年の古民家で暮らすようになってから、大きな台風を経験するのは今回が初めて。
妻も私もそれなりの緊張感を持って台風に備えた。
朝起きてすぐに、風が吹いても古い建具がガタガタ言わないよう、玄関扉の隙間に厚紙を挟んで回った。

物置の扉にも・・・

そして裏口の扉も・・・。
今時のサッシでは無用な知恵だが、私はぎりぎりでサッシ以前の世代に属し、ある物を工夫して問題を解決しようという自律自尊の精神を有しているのだ。
庭に置いている物干し台も納屋の中に仕舞い、飛びそうなホースや農業用コンテナも片付けて準備は万端だ。

こうして万全の準備をして台風がやってくるのを待ち構えていたのだが、岡山には午前中、雨が全く降らなかった。
山口や広島ではかなりの大雨が降り河川も危険水位を超えたようだが、ちょっと肩透かしを食った感じである。
南からの風を四国山脈が遮ってくれているせいなのだろう。

それでも風は強弱をつけながら吹いていて、私は近所の様子を見て回った。
すると、裏庭のイチジクの枝が折れているのを見つけた。
ちょうどイチジクの実がたくさんついていて重くなっていたところに強風で煽られて折れたのだろう。

近所の庭木が大きく風でなびいていた。
こうしたしなやかな木は最終的には風には強く、頑丈そうな樹木ほど強風に弱いものである。

裏山の竹林も風で大きくたわんでいた。
写真ではわからないが、大きく揺れる竹を見ていると、台風が接近していることをはっきりと感じることができる。

ブドウ畑のビニールも風に煽られてバタバタと音を立てていた。
我が家のブドウも大半を収穫済みだが、残っている実がもったいないと言って、妻は弟の家にもう一度送ろうと急に言い出した。
まだ雨も降りそうになかったので、二人で急いで畑からブドウを摘んできて、箱詰めにして東京に送る。

午後に入って、ようやく雨が降り始めた。
しかし今度は風がぴたりと止んで、予想していた暴風雨とはかけ離れたしとしと雨が降ったり止んだり。
逆に午前中以上に、台風という雰囲気がすっかりなくなってしまった。

それでもいつ何時天気が急変するかもしれないと思い、今日は一日、家でゆっくりして過ごす。
私が部屋でゴロゴロしていると、妻が突然声をかけてきて、「屋根裏にあるおじいさんの手紙読んでみれば」と提案してくれた。
すっかり忘れていたが、去年屋根裏部屋の片付けをしていた時、私の祖父が若い頃アメリカに行ったことがあり、当時やりとりした手紙が見つかったのだ。
「また時間がある時に読むから捨てないで」と何でも捨ててしまう妻に釘を刺したまま、完全に失念していた。

確かに、台風が通過するのを待ちながら、おじいさんの手紙を読んでみるのは悪くない。
そう思って屋根裏部屋に上がると、そこには祖父が使っていた古いトランクが置いてあった。
まるでおとぎ話に出てくる宝箱のような木製のトランクである。

トランクを開けると、金髪の少女のイラストが描かれていた。
現在の味気ないスーツケースに比べて、はるかに遊び心があって素敵な入れ物である。

祖父はこのトランクを持って、アメリカに何をしに行ったのだろう?
ランタンの明かりを頼りに、トランクの中をさぐる。

アメリカ各地の地図が出てきた。
イエローストーン、サンフランシスコ、コロラド・・・。
西海岸の地名が並ぶ。

「果樹栽培全書」などの古い本も入っていた。
祖父は農業を学ぶためにアメリカに渡ったという人もいれば、農業労働者の移民として行っただけだという人もいて、真相はわからない。

そしてトランクの中身で一番興味をそそられたのはたくさんの手紙。
多くは日本から祖父宛に送られた手紙のようだった。
祖父の住所は、テキサス州の地名が書かれていた。

トランクから手紙を取り出して、玄関の土間に広げる。
長年の埃が積もっているので、妻が掃除機で掃除してくれた。
少し読んでみたのだが、毛筆で崩した書体で書かれているうえ、昔の文体なので何が書いてあるのか意味がわからない。
それでも「徴兵猶予のための書類が必要なのですぐに送れ」という親からの手紙や、遅れている家賃の支払いを求める英語の督促状のようなものもある。
どうやら若き日の祖父は私に似て、少しいいルーズな性格だったようだ。

結局、内容がほとんど読み取れないまま、今日は断念。
祖父がなぜアメリカに渡ったのかという私の疑問は解消されることはなかった。
そしてゆっくりと中国地方を通過した台風14号も前評判ほど激しいものではなく、ちょっと拍子抜けするほど呆気なく岡山を通り過ぎていった。
さて、明日は夜が明けるのを待って畑の様子を確認することにしよう。
ひょっとすると思いがけない被害が出ているかもしれない。
そしていつの日か祖父の手紙を解読して、私に似たちょっとお調子者の先祖のことをもっと知りたいと思った。
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