作家の瀬戸内寂聴さんが亡くなった。
享年99、死因は心不全だったという。

戦時中の1943年、20歳で結婚し夫の赴任地である北京に行き、そこで女の子を出産するが、終戦で内地に引き揚げると、今度は夫の教え子と不倫し、ついに幼い子供を捨てて家を出た。
戦中戦後の混乱期を自分の気持ちに素直に生き抜き、その溢れる情念を小説にぶつけていった。
51歳の時、中尊寺において天台宗で得度、法名を寂聴とする。

その後も、様々なメディアに登場し持ち前の明るいキャラクターで多くの名言を残したのだが、その多くは幸福に生きるということについて、特に男女の関係についての言葉はたくさんの人々に支持されていった。
晩年まで多くの信者に語りかけながら、波乱万丈の99年間を全うしての大往生であった。

波乱万丈ということでいえば、今月8日に亡くなった占い師の細木数子さんも半端ない。
父である政治運動家の細木之伴の家には、政治家の大野伴睦や、松葉会会長の兄などが出入りして、細木さんも20歳で銀座にクラブを開くなどたくましく生きてきた。
一度結婚するがすぐに離婚、借金を抱えた島倉千代子の後見人になったり、芸能プロダクションを作ったり文字通り波乱万丈の人生を歩む。
1982年には独自に編み出した「六星占術」が一大ブームを引き起こし、テレビでも視聴率を稼げる女傑として大活躍した。
歯に衣着せぬその言葉が人気を博したのだが、この方も男女関係のお悩み相談が十八番であった。
私はお二人のファンではなかったので、彼女たちが出演するテレビや書いた本を読んでいないのだが、男と女ということについていえば、最近見たテレビ番組がかなり衝撃的だった。

NHKスペシャル「ジェンダーサイエンス第1集 男×女 性差の真実」。
最新の脳研究から見えてきたのは、男女の違いを前提にした私たちの常識のウソであった。
この番組から、私が面白いと感じた部分を書き残していきたいと思う。

ドミニカ共和国のサリーナス村での取材。
人口5000人ほどの小さなこの村では、女の子として生まれ育てられた子供が成長すると男性に変わるケースが複数報告されている。
成長につれて筋肉がつき、声が低くなって、性器の形も変わるのだという。
村人の50人に1人の割合で性が変化しているのだ。
どうしてそんなことが起きるのか?
それを解明するためには、性別が決まる仕組みを理解する必要がある。
卵子と精子が合体してできる胎児は最初、男性でも女性でもないのだそうだ。
男性の場合は、Y染色体が働くことで精巣が作られ、受精から8周目、精巣から男性ホルモンのテストステロンの分泌が始まる。
この現象は「テストステロンシャワー」と呼ばれ、これが外性器など男性の体を作っていくのだ。
サリーナス村で見られる現象については、胎児期のテストステロンシャワーが弱く、思春期に再び放出されるテストステロンシャワーによってようやく本来の男性の肉体に変化したものと考えられている。

思春期のテストステロンシャワーは胎児期のそれに比べ長期間放出され、細胞もホルモンに反応しやすくなる。
サリーナス村の場合、住民にちょっとした遺伝子変異が確認されていて、テストステロンの効果を強める酵素が働かない人が多いため、思春期を過ぎてから女の子が男性に変化するという不思議な現象が起きるのだ。
さらに言えば、哺乳類では「XX染色体=女性」が基本型であり、そこにたまたまY染色体が入るとテストステロンが作られ男性型にスピンアウトするというわけだ。
男性ホルモンが特に強く作用する臓器は、脊髄・心臓・骨格筋・肝臓・腎臓・皮膚・脂肪組織で、筋肉が多く脂肪が少ない男性的な肉体になる。
一方、女性ホルモンが強く作用する臓器は、扁桃腺・肺・リンパ節・血管・乳腺・T細胞・B細胞で、そのため女性は動脈硬化になりにくく、血管がしなやかなために「キラーT細胞」など免疫機能が強い。
女性が男性に比べて、新型コロナで重症化しにくいのもそのせいと考えられる。

またテストステロン(男性ホルモン)の量には大きな個人差があり、男性の場合、多い人は200pg/mlを超えるのに対し、少ない人は25pg/mlしかない。
運動や筋トレはテストステロンを上げていく効果がある。
女性でもテストステロンを出していて、平均すると男性より少ないものの、10〜130pg/mlと男性の平均値を上回る男性ホルモンを出している女性もいるのだ。
つまり、「男性ホルモン」「女性ホルモン」という呼称そのものが見直される可能性がある。

続いて、紹介されるのは脳における性差の問題である。
これこそ、いわゆる性同一性障害の問題と密接に結びつくテーマなのだ。
アメリカでは4年前から出生証明書の性別の欄に、男、女に加えて「X」という選択肢が認められるようになった。
「X」は男女どちらでもなく、成長した段階で自分で性別を選ぶことができるという。
番組では、南米エクアドルで暮らす1組の夫婦、男性の肉体を持つ妻ダイアンさんと女性の肉体を持つ夫ザックさんのケースが紹介される。
トランスジェンダー同士の2人の間には子供がいるが、この夫婦の場合、お父さんが子供を出産したのだ。
男性の脳と女性の脳は違うのか?
イスラエルにあるテルアビブ大学の研究チームが、18〜80歳の男女1400人の脳をMRIを使って調べたところ、女性グループと男性グループの脳で大きさが違う部分が見つかった。
特に違いが大きかったのは10カ所。
たとえば、記憶をつかさどる「海馬」は男性より女性の方が大きく、他にも運動に関係する「小脳虫部」、自己認識の「上前頭回」、愛着の「尾状核」に大きな違いが見られた。
しかし重要な発見は、一人ひとりの脳を調べていくと、多くの人が男性的な部分と女性的な部分を両方持っていることがわかったことである。

10カ所の部位が男性的な場合は青、女性的な場合は赤、どちらでもない場合は白で表示すると、90%の人が男女が入り交じる「モザイク脳」だったのだ。
研究を行ったテルアビブ大学のダフナ・ジョエル博士はこう話す。
「ジェンダーは私たちを男か女の2つの枠に押し込めようとします。でも私たちの脳はそうではありません。脳は体ほど明確に男か女のどちらかではないのです。なぜなら脳は男女が入り交じるモザイクだからです。」
脳の中でも最近注目されているのが「分界条床核」、自分の性をどう思うかを決める性自認の中枢だと考えられている。
男性は女性に比べてこの「分界条床核」が大きいが、体が男性でも心が女性の場合には「分界条床核」が女性に近く、心が男性の場合には「分界条床核」が男性に近いことがわかった。
この「分界条床核」の形成に、胎児期のテストステロンシャワーが大きく関わっていると考えられるのだ。
こうしてもともとバリエーションを持った私たちの脳は、その後の環境や経験によってもますます多様性を生み出していく。
つまり、「生物学的に考えると、みんながLGBTの素質を持っている」ということなのだ。
ある意味、LGBTの問題が表面化したのは必然と言えるのだろう。
しかも、現代社会に生きる男性は16年間で25%もテストステロンが減少したというデータもある。
「男性の中性化」「草食系男子」といった現象はデータからも裏付けられているわけだ。
原因としては運動不足や肥満、長期にわたるストレスがあると言われてきたが、人類の進化が深く関わっているということもわかってきた。
テストステロンの量は頭蓋骨の眉の部分が膨らむことで判断できるのだが、8万年前と5万年前の間に頭蓋骨の形に大きな変化が表れたという。
一人で獲物を獲る時代から仲間と協力して社会を作るように変わるとともに、眉の部分が平板になってきた。
大宝律令に始まる男女差別によって中性化はある程度ブレーキがかけられていたが、男女平等社会が実現するにつれて、男性の中性化が進むことは避けられないとも言えるのだ。

ジェンダー平等が遅れた日本では、いまだに夫婦別姓すら実現できないでいる。
瀬戸内寂聴さんのように一人一人が自分の生きたいように生きられる社会を実現するためには、男女のグループで物事を語るのではなく、一人一人みんな違うんだという生物学的な視点に立って常識を疑うところから始める必要があるのかもしれない。
実に「目から鱗」のいい番組であった。