源氏のプロパガンダ
そして、前九年の役、後三年の役を経て、勝ち残ったのは清原清衡、のちの藤原清衡だった。ここから奥州藤原氏の黄金の百年が始まる。
世界遺産となった中尊寺の金色堂が建てられたのもこの時代だ。
それに終止符を打ったのは、源頼朝だった。鎌倉幕府を開き権力を握った頼朝は、弟・義経を匿った平泉を滅亡に追い込んだ。
公家の力が衰退してきた時期に、源氏は軍事貴族として頭角を現した。公家に代わって政治を司る正当性が自分たちにはあると、常にプロパガンダしてきたグループが源氏だった。
蝦夷の反乱に終止符を打った征夷大将軍の坂上田村麻呂こそ、武将の典型で英雄だと崇められるようになったのは、死後四百年ほど経た鎌倉時代である。
頼朝は1192年に征夷大将軍に任じられている。すでに平泉を制圧した後だったが、頼朝はこの役職で奥州支配の大義を得たことになる。
源氏が田村麻呂を英雄に仕立て上げたのは、頼朝が任じられた征夷大将軍がいかに重要な役職であるかを世に知らしめようとしてのことだ。そのため「御伽草子」のような読み物を利用したプロパガンダが展開された。以後、征夷大将軍は武家の最高の位として、足利幕府、江戸幕府の歴代の当主もその役職をいただくことになる。
前九年の役に取材した軍記物語「陸奥話記」は作者未詳だが、前九年の役は源頼義が王権保護のために「賊徒」安倍氏を誅した戦いであると記している。「源氏史観」で貫かれた内容からして、源氏のプロパガンダの一環として書かれたのではないかと考えられる。安倍貞任らを日本最大の逆賊として描いているのは、敵を大きく見せないと、それを討った源氏の力を示せないからだ。「陸奥話記」には、源頼義の行動を正当化し、安倍氏の側に合戦の責任を負わせるための虚構や史実の改変が随所に見られる。平泉に関しても同様で、鎌倉幕府の正史である「吾妻鏡」も、プロパガンダのためそうとう手が加えられている可能性がある。
高橋克彦著「東北・蝦夷の魂」より
東北の視点
本では、この後、豊臣秀吉に反抗した九戸政実、戊辰戦争で薩長に対抗した奥羽越列藩同盟についても書かれている。
いつの時代も、中央の権力者の勝手で攻撃され、常に負けながらもプライドを保った東北人への愛にあふれた作品だ。
そのうえで高橋氏は、東日本大震災の際、世界を驚嘆させたお互いを思い合う住民たちの振る舞いこそ、「和」の民の精神だと書いている。
東北は千数百年も前から「和」の精神を根底に据え生活してきた。東北から中央政権に戦いを挑んだことなど一度もない。なのに何度も大きな戦に巻き込まれてきた。中央の権力が東北を攻めたのは、金や馬を手に入れるためだった。
さらに近代になると、東北は兵士の供給地となり、電力の供給地とされ、東北に中央では得られないものを負担させる構図となった。
今、福島第一原子力発電所の大惨事を経験し、何十年も立ち入りできない地域も出てきている。これからの日本は、古代から東北にある「和」の精神で生きていく術を学ばなければ立ち直れない。
何度も戦いに敗れながらも、決して屈しなかった東北を、私は語り続けるつもりだ。
高橋克彦著「東北・蝦夷の魂」より
ちょっと視点を変えると、より真実が見えてくる。
天皇中心に書かれた日本の正史よりも、東北の視点で書かれた高橋氏の説の方が本当の歴史に近い気がする。
現代人が常識と思っている日本の歴史の多くは、明治政府の都合で作られた「正史」である。
蝦夷に関する資料がほとんど残っていないため、推測の域を出ないのが残念だが、日本を知るためには蝦夷について知ることが絶対に必要だということは、この本を読んで痛感した。