🇯🇵 神奈川県/鎌倉市 2024年8月28日~9月2日
鎌倉の長谷界隈は狭い路地が迷路のように住宅街を縫っていて、歩いていると方向感覚には自信を持つ私でも方角がわからなくなってしまう。
ただその分、曲がり角を回った先に何が待っているのか、ワクワクするような散歩が楽しめる。
今朝5時前、カーテンを開けると東の空が赤く染まり始めているのに気づいた。
ちょうど妻も目を覚まして台所に降りていったので、「ちょっと海まで行ってくる」と妻に声をかけ、夜が明けたばかりの街に出た。
今日は昼頃までは雨が降らない予報である。
宿を出て目の前の路地を左に進むとすぐに江ノ電の踏切がある。
もうこれだけで非日常。
まだこの時間、歩く人の姿はない。
長谷駅のホームにも人影はない。
長谷駅の始発は5時26分だそうだ。
駅の反対方向、鎌倉方面の空には真っ赤な朝焼けが・・・。
朝焼けは雨が降る前ぶれというのは本当なのだ。
前日とは異なる路地を通って、海を目指す。
この界隈の路地は未舗装で、砂の上にコンクリートのタイルを並べて歩道を作っただけの狭い路地が多い。
海沿いの国道134号線に出た。
ここまで来ると、走る車の数も一気に増える。
宿を出てから海までは、ゆっくり写真を撮りながら歩いても5分もかからない。
砂地の道を通ってビーチまで歩く。
雲はあるものの青空も見え、すぐには雨が降りそうにない。
まだ太陽は顔を出していないが、西の空に湧き上がる入道雲には一足早く朝日があたり、赤く染まっている。
由比ヶ浜の美しい朝だ。
思いのほか風がなく、広い波打ち際に空の色が映える。
まるで台風が近づいているのが嘘のような穏やかな朝のひと時である。
時刻は午前5時15分。
東の山の端がだいぶ明るくなってきた。
もうすぐ日の出だろう。
サーフボードを抱えた人たちが次々に海に入っていく。
沖合にはすでに結構な数のサーファーが浮かんでいる。
鎌倉に住んでいるとサーフィンが好きになるのか、それともサーフィン好きの人たちが由比ヶ浜周辺に移り住むのか・・・。
サーファーたちにとってはいい波をもたらしてくれる台風は悪い存在ではないのかもしれない。
あっ、乗った。
また、あちらでも。
さすがに上手な人が多い。
私はサーフィンをやったことがなく、今更やるつもりもないが、毎朝こうして気持ちのいい海に浮かび、沖合を眺めながらいい波を待つ生活も悪くないと思ってしまう。
しばらく見ていると、サーファーたちの年齢が意外に高いということに気づいた。
サーフィンというと若者のスポーツというイメージがあるが、今時の若者は体を動かすのが好きでないのか、かつてのサーフィンブームの時代に若者だったオジサンたちが鎌倉サーファーの主流のようである。
太陽が昇ると、現実に引き戻されるように幻想的な風景は消えてしまった。
そろそろ宿に戻って朝ごはんにしよう。
そう思って由比ヶ浜を後にして、妻が待つ民泊の宿に向かって再び狭い路地に入っていく。
鎌倉の住宅街を歩いていると、凝ったお庭がたくさんあって、見事な植栽が目を楽しませてくれる。
中でもよく目につくのが、こちらの青い花。
妻が大好きで岡山の古民家でも育てている「ルリマツリ」である。
細い水路もくねくねと住宅の間を流れている。
どうやらこの辺りの住宅開発の過程で、もともとあった川や水路が付け替えられたり暗渠になっていたりするようだ。
長谷の背後にある山から流れた水がこの水路を通って海に流れ込むのだろうが、どれも川幅の狭い水路ばかりなので大雨が降り続くと溢れる危険性は高いように思える。
宿に戻ると妻がコンビニで買った枝豆を茹でていた。
今日の朝ごはんは、近くのパン屋で買ったドイツパンと紀ノ国屋で買ったトマト、そしてコンビニで買った卵とソーセージと枝豆である。
宿の近くにはスーパーがなくて買い物が不便だと思ったが、数日の滞在であればコンビニでほとんど用は足りる。
朝食後、妻を誘って再びお散歩に出かける。
今度は長谷駅から江ノ電の線路に沿って西に進んだ。
踏切の警報器が鳴り、鎌倉行きの電車が住宅の間から現れたかと思ったら、私のすぐ脇を走り抜けていった。
電車好きの男の子にはたまらないスポットだろう。
今回のお散歩の目的地はこちら。
路地の先に踏切があり、その向こうに神社の鳥居が立っている。
そう、ここはドラマのロケ地。
私も妻も大好きだったフジテレビの「最後から二番目の恋」で、小泉今日子演じる主人公のテレビプロデューサーが仕事に疲れ鎌倉に移り住んだ借家がこの踏切の手前にあるという設定で、ドラマの中でたびたび登場した。
この踏切は長谷駅と極楽寺駅の間にあり、奥の鳥居は源頼朝の鎌倉入り以前からあった
平安時代の武士・鎌倉景正を祀る「御霊神社」のものだそうだ。
そして踏切の手前にはドラマで見覚えのある路地。
路地の雰囲気は多少変わってはいたが、借家の隣には実際にカフェがあった。
ドラマの中でも、この建物は坂口憲二が切り盛りする居心地の良さそうなカフェで、ダブル主演の中井貴一ら賑やかな兄弟が暮らしていた。
私はロケ地巡礼などするタイプではないのだが、この場所はとにかく非常に印象に残っていて、自分の足で場所を特定できたのはとても嬉しかった。
踏切では私と同じように写真を撮る男性がいて、この人もあのドラマのファンだったのかなと思った。
ロケ地からの帰り道、宿の近くに今日オープンしたコンビニに立ち寄った。
私たちの滞在中にオープンとは何という偶然、しかもこのコンビニが圧倒的に宿から近いのだ。
一通り商品をチェックして、今日必要なものだけ購入する。
滞在中食材をはじめ欲しいものがあれば、まとめ買いせずその都度このコンビニまで買いにこようと妻と合意した。
私が買ったのは、鎌倉ハムの「煮込みハンバーグ」と「ひとくちサラミ」。
これが今日の夕食となった。
午後3時すぎ、急に激しい雨が降りはじめた。
窓から見える隣家の屋根を濡らしたかと思ったら、私たちが泊まる宿の屋根もバリバリと大きな雨音を響かせた。
どうやらこの宿の屋根は金属パネルで葺いてあるようだ。
雨が上がるのを待って、濡れている路地を通って再び海に行ってみた。
スマホの雨雲レーダーで雨の様子を気にしながらのお散歩である。
民家の敷地からはみ出した植栽の緑が雨に濡れて輝き、いつも以上に美しく見える。
こんなところにもカフェがある。
違う道を通ると、必ず新たな発見があり、それが路地歩きの醍醐味なのだ。
雨が降るのは行動が制約されて残念ではあるが、猛暑よりは街歩きが楽で、しかも街が綺麗に見えるというメリットもあると思う。
雨上がりの由比ヶ浜には人影もまばらだ。
波は思ったほど高くはない。
空も意外に明るくて、ゲリラ豪雨をもたらすようなおどろおどろしい雲は広がっていなかった。
海の家も商売あがったりで、中には閉鎖されている店もある。
今年の夏は書き入れ時のお盆に南海トラフ地震の注意情報が出て大きな打撃を被った上に、この進路が定まらぬノロノロ台風だ。
わざわざ雨が続くとわかっていながら海に来る私のような客は多くはないだろう。
私もテレビ局時代、ひと夏だけ海の家の経営に携わったことがあるが、売り上げは本当に天気次第。
そういう意味では、殺人的な猛暑に始まり地震と台風に翻弄された今年は最低の夏だったに違いない。
しかも、今時の海の家はエアコンを効かせた特別ルームを用意したり、高級なカップルシートを設けたり、昔に比べて費用もかけているので、客が来ないダメージは昔以上だろう。
そうこうして、海の家を端から端まで見ながら由比ヶ浜を歩いていると、気がつけば鎌倉の中心部、若宮大路まで来てしまっていた。
鎌倉から長谷までは3駅あるが、歩けば案外近いのだなあと私の頭の中にある鎌倉の地図を少し修正する。
帰り道、知らない通りで立派なお屋敷をいくつも見た。
歴史ある洋館は、飲食店として利用されているケースも多いようだ。
多くの政財界の大物や文化人に愛された鎌倉。
その歴史は街の至る所に残っている。
時代が変わっても人々に愛され続ける鎌倉は、やっぱり素敵な街である。
しかし、過去には巨大な津波に襲われて大仏殿が破壊されたこともある災害の多い街でもある。
宿に戻る途中、「鎌倉市に大雨警報が発令された」という注意喚起が防災無線から流れるのを聞いた。
宿の近くを流れる水路は大丈夫だろうか?
思わず道端を流れる小さな川を覗き込んだ。
その時また、大粒の雨が降りはじめた。
