妻が親の介護で実家に通う間、私は気になる飲食店でランチを食べることが多くなった。
今日は無性にお好み焼きが食べたくなり、それも私が子供の頃によく行ったおばちゃんがひとりで焼いているような小さなお店でお好み焼きを食べようと思った。

目についたのは、私たちが寝泊まりしている伯母の古民家と妻の実家の間にある「お好み焼 遠山」。
オレンジ色のテントと白い暖簾、昔の店は確かにこんな感じだった。

私が訪れたのは午後1時すぎ。
店のおばさんが常連さんらしき客と話し込んでいるところだった。
昔のお好み焼きもこんな感じだった。
見慣れない私が店に来たので、おばさんは常連さんとの話を切り上げて鉄板の向こう側に戻った。
常連さんも帰り、私がひとり残ったので、鉄板の前の席に陣取りおばさんと話をする。
このお店を始めてもう45年になるという。
「まさかお好み焼き屋のおばさんになるとは自分でも思わなかった」そうだ。

壁にかかったメニューの中から「モダン焼」(650円)を注文する。
高校時代、お好み焼き屋に行くと必ず「モダン焼」を食べていたからだ。
お好み焼きと焼きそばが合体したのが「モダン焼」、腹を空かせた高校生には何よりボリュームが重要だった。
「そばかうどんか、どっち?」とおばさんに聞かれ、「そば」と答えるのも高校時代と同じだ。

岡山のお好み焼きは基本的に広島スタイルで、鉄板の上に薄い皮を焼き、その上に山盛りのキャベツを積み上げ、その上に具材を載せていく。
こうして普通にお好み焼きを焼いて、別に焼きそばを作り、それを重ねれば「モダン焼」の出来上がりだ。

おばさんによれば、この店の鉄板は開店当時からずっと使っていて、今時の鉄板と違って分厚いのだそうだ。
おばさんは店の上が家になっているのでまだ営業できているが、駅前などで営業していたお好み焼き屋さんの多くがコロナ禍と物価高で店を閉めたとのことだった。

気さくなおばさんとおしゃべりしている間に、「モダン焼」(650円)が焼き上がった。
おばさんはヘラを使って「モダン焼」を鉄板上で滑らせて私の前に置いた。
私もヘラと箸を受け取る。

昔はヘラを使って直接鉄板から食べたものだが、今はお皿も渡されて、ヘラでモダン焼を切り分けて皿に移し、箸で食べるという流れらしい。
味の方は薄味で、マヨネーズも使わず、今時のお好み焼きに比べてとても素朴な印象だった。
今時のふわふわ感などカケラもない。

私が高校時代に食べていたお好み焼きってこんな感じだったんだろうか?
授業を抜け出して、高校の裏手のお好み焼き屋さんによく通ったものだ。
懐かしいような気もするが、その味はどうもよく思い出せない。

私がひとりでおばさんと話していると、お客さんが入ってきた。
今でもこうした昔ながらのお好み焼き屋さんにやってくる客がいるんだと、少し安心した。
幹線道路沿いにはチェーン店が軒を連ね、日本全国どこに行っても同じような店が目につくが、その陰で昭和の匂いそのままのお店が残っていてくれるのは本当に嬉しい。
おばさんは50年まで何とか店を続けたいと話していたが、ぜひ元気で頑張っていただきたいと思った。
食べログ評価3.09、私の評価は3.10。
「お好み焼 遠山」 電話:086-279-5611 営業時間:11:00~20:30(平日は休憩時間あり) 定休日:水曜