大相撲夏場所が終わった。
退職後、大相撲は私の日課となり、今場所も毎日中入後の全取り組みを生放送で見た。
ケガからの復活に執念を見せていた横綱・鶴竜が場所の途中で引退を発表した。
モンゴル出身の鶴竜は、地味だが真面目な人格者として知られた。
日本語の流暢さでも外国人力士の中で抜きん出ていて、去年日本国籍を獲得して親方として後進の指導に当たることになる。
もう一人の横綱白鵬は、久しぶりに土俵に戻り初日から2連勝をあげたが、3日目に突然の休場、すでに膝の手術を受けた。
前人未到の記録を残した大横綱も「引退」の2文字が日に日に強くなっている。
白鵬が引退するとなると大相撲界を席巻したモンゴル旋風が終わり、日本人横綱の誕生も期待されていた。
ところが、白鵬、鶴竜に代わって横綱最有力に浮上したのはまたもモンゴル出身力士、関脇の照ノ富士だった。
14日目、大関朝乃山を破って単独トップに立つと・・・
千秋楽は大関貴景勝も破り、3大関全員を撃破して優勝を飾った。
照ノ富士は三度目の優勝で、これで悲願だった大関復帰を確実にした。
大怪我と病気のため、大関から序二段まで転落した照ノ富士が31場所ぶりに大関に戻ってくる。
もちろん大相撲史上初の快挙である。
怪我をする前にはその怪力で一気に大関まで駆け上がった照ノ富士、しかし地獄を見た今、常に謙虚な姿勢を崩さずひと回り大きくなって戻ってきた。
特に勝負所での強さは日本人力士とは一味違い。
おそらくその強さは精神的なものから来るのだろう。
精神力で照ノ富士と対照的だったのが小結の高安だった。
十日目まで9勝1敗で星2つの差をつけ、悲願の初優勝をグッと近づけた高安だが、大関正代に負けた後、平幕の若隆景・飛猿・碧山に3連杯。
まさかの大失速で優勝のチャンスを逃した。
私は今場所は断然高安を応援していたので、残念でならない。
これまで何度か優勝のチャンスがあったが、どうしても優勝に手が届かない高安には、兄弟子の稀勢の里と同じくメンタルの問題があるのだと感じる。
今場所の高安は決して無理をせず自分に有利な態勢になるまで我慢していたのだが、終盤に入って急に体の動きが悪くなった。
足を痛そうにする場面もあったが、やはりプレッシャーで体が動かなかったとみるべきだろう。
高安に限らず、3人の日本人大関はいずれも序盤から星を落とし、上位陣の混戦ぶりが顕著となった。
これでは横綱など到底無理だろう。
今場所の優勝により、照ノ富士は一気に横綱候補に躍り出た。
膝の状態に不安を残すが、体調さえ万全ならば実力では間違いなく頭ひとつ抜けている。
今後の目標を問われた照ノ富士は、「1場所、1場所、1日、1日集中していい相撲を取っていい姿を見せられるように頑張りたい」と答えた。
「一日一日」はヒーローインタビューで照ノ富士が繰り返し述べてきた言葉だった。
誰も成し遂げたことのない復活劇は、「一日一日」の積み重ねでしか得られない。
横綱を目指す日本人力士たちには、どこかその必死さが足りない。
これは何も角界に限った話ではなく、「無理をしない」「無理をさせない」風潮の中で日本人が失ったハングリーさなのかもしれない。
「コロナ疲れ」「メンタルが限界」などという言葉がテレビから溢れる日本社会。
家でのんびり暮らしている私が言うのも何だが、ちょっと振り子が行き過ぎているような気がしてならないのだが・・・。