「共謀罪」成立

思想信条の自由を制限することに使われる可能性があると野党が強く反対していた「テロ等準備罪」が深夜に成立した。

その法律の中身もさることながら、強引な手続きが印象に残った。安倍政権にとって、加計学園問題の幕引きがそれほど重要なのかと改めて感じた。

法律というものはそれを使う権力のあり方によって姿を変える。

野党が指摘するように、この法律が戦前の「治安維持法」のように拡大解釈され、思想犯の取り締まりに使われる危険性はあるだろう。そうした意識を持ちながら、この法律が成立した日のことは記録しておきたいと思う。

日経新聞の記事を引用させていただく。

『 与野党の一昼夜にわたる攻防を経て、犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法が15日朝、参院本会議で成立した。与党は参院法務委員会の採決を省略する「中間報告」という「奇策」を繰り出し、強硬に幕引きした。一方で野党も質疑機会を自ら手放した面があり、与野党双方に「充実審議」への課題を残した。

与野党対立が一気に激しさを増したのは14日昼だった。参院本会議の休憩中、自民党の松山政司参院国会対策委員長が、民進党の榛葉賀津也参院国対委員長に「中間報告にて本日の本会議で採決したい」と伝達。突如示された強硬策に、榛葉氏は「参院の自殺行為だ」と声を荒らげた。

中間報告は各委員会で野党所属の委員長が採決に応じない場合、法案を成立させる「非常手段」として用いるのが一般的だ。委員長が与党所属の場合は職権で採決に持ち込めるためだ。与党・公明党の秋野公造氏が参院法務委員長でありながら、中間報告で採決に持ち込むのは極めて異例の対応と言える。

その背景には、23日告示―7月2日の投開票の東京都議選が間近に迫ったことがある。政府は15日にも学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設を巡る文書の追加調査結果を出す。首相周辺には野党に追及機会を与える国会を早く閉じ、都議選や政権基盤への悪影響を抑えたいとの意向があった。

自党の委員長が強行採決する形をとるのに抵抗がある公明党への配慮もあった。与野党が激しく対立する法案では、委員会での採決も混乱する可能性が高い。中間報告で委員会採決そのものを省略すれば、その場面を避けられる。

しかし委員会の審議充実の観点からは問題点も残った。13日の法務委は、日本維新の会や共産党、少数会派の質疑時間を終えない状態で、野党による金田勝年法相の問責決議案提出で散会。中間報告で委員会での審議は打ち切られたため、これらの機会は奪われたままになった。

一方で民進党など野党の対応も審議充実という観点からは疑問が残る。衆院法務委では5月2日、同日の審議を職権で決めた鈴木淳司委員長(自民党)の解任決議案を衆院に提出。その日の法務委を流会させた。審議時間を積み増すのを阻んで採決を遅らせる狙いとはいえ、十分な審議時間の確保を訴えてきた立場とは矛盾する。

採決に際し「審議時間も十分積み上げてきた」と強調した与党と「審議が尽くされていない」と反発した野党。双方とも日程を意識するあまり、審議に真剣に臨む姿勢がおろそかになっていなかったか。今回の法改正を巡る一連の審議は、国会のあり方を問い直すことにもなった。(宮坂正太郎)』

「中間報告」という手段が使われたのは2009年の「臓器移植法改正案」以来のことで、極めて異例の措置だ。

これにより与党は会期の延長をせずに国会を閉じ、加計学園に関する野党の追及から逃れた。そして国会閉会が決まると同時に、「文科省内で疑惑の文書が共有されていたことを確認した」と発表、これまで頑なに拒んでいた内閣府の調査も行うとした。あまりに露骨な疑惑隠しだが、それでも早期に決着させた方が都議選への影響が少ないと判断したのだろう。

加計学園疑惑もこれ以上の追及に必要な決定的な証拠がない。このままでは時とともにうやむやに消えていくだろう。

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