<吉祥寺残日録>【東京五輪6日目】「競泳女子初の二冠」大橋悠依と「体操の若き王者」橋本大輝 #210729

昨日、東京でのコロナ感染確認数が初めて3000人を超えた。

東京都の新規感染者は3177人。

全国的に感染が広がっていて、昨日の全国の新規感染者数は9583人で1万人越えも視野に入ってきた。

介護のために岡山に通う私にも不都合な事態が起きそうである。

しかし、高齢者のワクチン接種が進んだことで重症者数はまだ第3波に比べると少なく、メディアの扱いもかつてに比べると冷静になっている。

その最大の理由は、連日オリンピックで日本人選手がメダルを獲得するため、コロナ以外に伝えたい話題に事欠かないからだ。

テレビにしろ新聞にしろ、ニュースを扱える枠が決まっていて、ニュースがない日には無理やりでもその枠を埋めなければならないが、今のようにニュースが有り余っている時には、聞き慣れたニュースは相対的に扱いが悪くなるものである。

でも元テレビマンである私から見れば、これまでのコロナ報道があまりにマンネリだったので、オリンピックで日替わりで新鮮なヒーローやヒロインが誕生すれば、それに飛びつくのは当たり前のことにすぎない。

東京オリンピックも昨日で6日目。

この日も、新たなヒロインとヒーローが誕生した。

まずは、競泳の大橋悠依選手。

400メートル個人メドレーに続き、200メートル個人メドレーでも見事に優勝し、競泳女子としては初めてとなる二冠を達成した。

400メートルの時はノーマークで見逃してしまったが、昨日の200メートルはしっかりライブで優勝の瞬間を見届けた。

ライバルはアメリカ選手。

大橋は得意な背泳ぎと平泳ぎでリードして、クロールで逃げ切るしかないと解説者も言っていた。

ところが、平泳ぎを終えた段階で4人ほどが横一線という混線のままク最後50メートルのクロール勝負となった。

「これは、ダメだ」と思った。

しかし、大橋は必死で食い下がり、なんとラスト5メートルでアメリカ人選手2人をかわしトップでゴールした。

日本人がクロールでアメリカ人を逆転するなんてシーンはこれまで見たことがない。

しかも、あんなに弱々しそうに見える大橋悠依がそれをやってのけたのだ。

あの強さはどこから来るのか?

彼女は重度の貧血で学生時代成績が落ち込み、水泳をやめようと思い詰めたという。

池江璃花子のようなポジティブなオーラはまったく感じない。

むしろネガティブ思考で周囲の人たちは腫れ物に触るように彼女に接したという。

それでも平井コーチとの信頼関係が、彼女を東京オリンピックのヒロインに変えたのだ。

おそらく彼女の強さの秘密について、いずれ科学的に分析する番組も作られるだろう。

競泳でいえば、ちょっとおバカそうなヒーローも誕生した。

男子200メートルバタフライで銀メダルを獲得した本多灯(ともる)選手。

瀬戸大也に憧れ、一緒にこの種目での決勝進出を目指したが、本命の瀬戸は準決勝で敗退、ノーマークだった本多がメダリストとなった。

メダルをとっておどける様子は、まるでお笑い芸人のよう。

でも、明るさは強さの重要な要素なのかもしれない。

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むしろ、競泳男子のエースと目された瀬戸大也が気になる。

リオで活躍した萩野公介が不振に苦しみ、期待の池江璃花子が病に倒れた後、日本競泳陣の顔として金メダルが期待されたのが瀬戸大也だった。

しかし去年、週刊誌がすっぱ抜いた瀬戸の不倫報道がきっかけで激しいバッシングにさらされる。

名誉回復をかけて臨んだ今大会だったが、得意種目の400メートル個人メドレーで決勝進出を逃し、200メートルバタフライでも決勝に残れなかった。

瀬戸大也と大橋悠依。

この2人の差は何だったのだろう?

日本人選手の大活躍で盛り上がる東京オリンピックの中で、個人的には前評判の高かった人気選手の不振がちょっと気になっている。

大会5日目に敗退したテニスの大坂なおみと卓球の張本智和。

負けた選手のことはあまりテレビは報道しない。

そして昨日、バドミントン男子の世界ラインキング1位、桃田賢斗選手が格下の韓国選手に敗れ、まさかの予選リーグ敗退となった。

オリンピックでは何が起きるかわからない。

去年1月に遠征先のマレーシアで交通事故に遭い右眼窩底骨折という選手生命に関わるケガを負った桃田。

その後もほとんど試合ができないまま臨んだ東京オリンピックだが、事故前のコンディションにはまだ程遠いとするとあの本人には全く責任のない交通事故が何と罪深いものか・・・。

桃田のように不運と戦う選手もいれば、東京五輪の1年延期でビッグチャンスをモノにした選手もいる。

その代表格が、体操男子の若きエース橋本大輝選手である。

個人総合2連覇を果たした内村航平の後継者として、この1年で急速に頭角を現し、見事東京オリンピックで個人総合金メダルを勝ち取った。

これで日本は、体操男子個人総合で3連覇を達成したことになる。

最初の種目「床」と2種目目の「あん馬」で好発進した橋本。

この段階でトップに立つ。

しかし苦手の「つり輪」で順位を落としたのに続き、4種目目得意の「跳馬」で着地に失敗。

中国やロシアの選手に抜かれ4位となる。

5種目目の平行棒で3位に上がった橋本は、最終種目の「鉄棒」で逆転の金メダルを狙う。

橋本にとって鉄棒は最も得意な種目だ。

今大会、この鉄棒一本に絞って4度目のオリンピックに賭けた内村航平がまさかの落下をしたのは大会2日目だった。

難度の高い離れ技は落下のリスクも高い。

予選トップ通過の橋本はすべての選手の中で最後の演技者となる。

勝負のかかった鉄棒。

緊張する場面だが橋本は落ち着いていた。

予定されていた離れ技を次々に決め、着地もなんとかこらえた橋本は大きく両手をあげてガッツポーズをした。

勝利を確信した橋本。

19歳の若者が日の丸の重圧を跳ね除けた瞬間だった。

3年後のパリ大会も、日本のお家芸体操はどうやら安泰なようだ。

柔道女子70キロ級で金メダルを取った新井千鶴選手も勝利への強い執念を見せた。

リオ五輪では国内選考で敗れ悔しい思いをした。

この日の勝負所はロシアのタイマゾワとの準決勝。

体の柔らかいペレスに対して何度も寝技を仕掛けるが、関節技がまったく効かない。

死闘は16分間にもおよび、最後は送り襟絞めで相手が意識を失い勝負がついた。

柔道は格闘技、それを実感させる試合だった。

昨日は野球も始まった。

日本プロ野球のスーパースターを集めた日本代表「侍ジャパン」は福島で初戦のドミニカ戦、先発のオリックス山本由伸は好投したが、打線は現在巨人に所属するドミニカ先発のメルセデスをまったく打てない。

3−1とリードを許したまま9回裏の侍ジャパンの攻撃。

ヤクルト村上のヒットでまず1点、続いてソフトバンク甲斐のスクイズで同点に追いついた。

最後は満塁で巨人坂本。

初球を打ってセンターの頭を越えるヒット、侍ジャパンは辛くも初戦を逆転サヨナラで勝利した。

今回の日本代表は各球団の主軸を打つ強打者を揃えたが、それでもオリンピックは何かが違う。

野球が正式種目となってから日本はまだオリンピックで金メダルを取っていない。

さて、東京で悲願の金メダル獲得となるのだろうか?

この日、私が一番エンジョイしたのはサッカー男子。

「死の組」と言われた予選A組で2連勝で迎えた最終戦の相手は強豪フランスだった。

フランスは日本に2点差で勝たなければ予選を突破できない。

そのため立ち上がりから積極的に攻撃を仕掛けてくるフランスに対し、日本は落ち着いて対応し、前半27分久保建英が3試合連続のゴールを決めた。

続いて34分、サイドバックの酒井宏樹が追加点。

どちらも鹿島アントラーズのフォワード上田綺世が放ったシュートをキーパーが弾き、こぼれたところを詰めて蹴り込んだゴールだった。

2−0で前半を終えた日本は、ほぼ予選突破を確定的とする。

後半に入っても日本の攻撃は続き、後半25分にはアントワープの三好康児、分には横浜F・マリノスの前田大然が相次いでゴールを決め、日本はフランスを4−0で下した。

今大会のフランスは3年後のパリ大会を睨んで若いチームで臨んだとはいえ、若き日本代表の強さは半端ない。

堂安律が宣言したように、金メダルも夢ではない気がしてきた。

今年6月に20歳となった久保建英はまだ童顔のままだが、その動きも態度も堂々としていて外国選手と比べても能力の高さを感じさせる。

幼い時から世界と戦ってきた若者は、間違いなく多様性を秘めた新世代日本人の象徴だろう。

ぜひ世界的な人気スポーツ・サッカーで金メダルをもぎ取ってもらいたい。

久保建英

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