今月の帰省は何かと忙しかった。
明日は伯母の四十九日法要、そして明後日には東京に戻る。
ということで、今月の農作業の締めくくりに取り組んだのが、ブドウ棚を解体し更地にした畑に自動車が入れるようにするためのスロープ作りだ。

もともとこの畑は道路ギリギリまでブドウの棚があったため自動車を止めるスペースがなかったのであまり気にしていなかったが、実は道路と畑の面の間には数十センチの段差があって、更地になってもこのままでは自動車を畑に乗り入れることは不可能だった。
まだこの畑の利用方法は確定していないものの、重い荷物を運ぶためにも自動車が停められるスペースはぜひ確保したいと思った。

段差を埋める資材としてブドウ棚に使われていたコンクリート製の支柱を使おうと考えた。
そのため、ブドウ棚の撤去を依頼した解体業者に、ブドウ棚の支柱は搬出せずにそのまま道路との境界線に集めてくれるように頼んだ。
業者とすれば産廃施設まで運ぶ瓦礫が減るので二つ返事で承知してくれ、解体が終わった畑にはコンクリートの重い柱が数十本、無造作に積み上げられた。
もう少し使う人の身になって滑らかなスロープになるよう積んでもらいたかったのだが、彼らは解体がお仕事、日暮れまで作業してくれたスタッフたちにもっと上手に積んでくれとは言えなかった。
畑のあちこちに散乱しているよりはこうして集めてもらえるだけでもありがたいからだ。

仕方なく、一輪車を使って自分ひとりで車が入りやすいようにコンクリートの柱を積み直す。
おそらく柱の重さは1本30キロぐらいはあるだろうが、一輪車の位置を工夫して柱の片方を持ち上げてバランスが取れるように乗せると案外楽に重い柱を移動させることができる。
これは以前、別の畑で散らばっていた支柱を集めた時に会得した運び方だ。

こうしてどうにかスロープとして使えそうな程度には支柱を再配置することができた。
ただ、このままではまだ全体に凸凹していて支柱と支柱の間に隙間も多い。
実際に車を乗り入れるとすぐに支柱が動いてずれてしまうだろうと思われた。
果たしてどうすればなだらかな坂道が作れるだろう?

昨日一つのアイデアがひらめいた。
納屋の片付けの際に出てきた大量のムシロが使えるのではないか・・・。
早速畑に持っていってコンクリートの支柱の上に敷いてみた。
長さはピッタリ、横に何枚か並べれば坂道を滑らかにすることができそうだ。
しかしその時、思わぬことが起きた。
強い突風が吹いて、敷いたばかりのムシロを吹き飛ばしてしまったのだ。
これはヤバい。
東京に戻っている間にムシロが飛ばされると、また近所に迷惑をかけてしまう。

そこで、ムシロの上から土をかぶせ、土の重みでムシロが飛ばないようにする作戦だ。
ホームセンターで、土砂を運搬するための一輪車を購入し、畑の土を集めてきてはムシロの端を固定する作業を始めた。
クワでユンボが踏み固めた土を砕き、一輪車の乗せ、何度も何度も畑を往復しながら少しずつムシロの上に土を置いて足で踏み固めていく。
これがなかなかの重労働だ。
奴隷になったり、強制収容所に入れられると、こんな重労働を毎日させられるんだろうなと想像しながら息を切らせながら土を運ぶ。

改めて更地になった畑を歩き回ると、あちらこちらに切断した針金やコンクリートの破片が散らばっていることにも気づく。
土を集める先々で、針金やビニール紐、コンクリート片などを拾っては1ヶ所に集めていくと、ちょっとしたゴミの山ができてしまった。
やっぱり解体業者というのは解体が仕事であって、その後の農地のことまで考えてはくれないようだ。
これは非常に厄介な問題である。
この畑で作物を栽培しようとすると草刈機や耕耘機を使うことになるが、こんな針金やコンクリート片が大量に地中に埋まっていては、機械が壊れてしまう可能性があるのだ。
だからなるべく目についたゴミは丁寧に拾い、畑から取り除いていくのだが、土の中に埋もれた針金は枯れ草の茎と区別がつきにくく、目視だけではなく足に当たる感触などから根気強く見つけていくしかない。

こうして昨日から今日にかけて断続的に土運びを続け、何とか風に飛ばされない程度にはムシロの上に土を置くことができた。
とはいえ、とても滑らかなスロープとはいかない。
数日前の雨の後はぬかるみのようだった土が、今日にはもう乾燥し日干しレンガのように硬くなっていてムシロの上にゴロゴロ転がった状態なのだ。
とにかく今日のところは、風に飛ばないことが肝要。
実際に車を入れるテストは来月以降、少し畑に雑草が生えてきてから行うつもりだ。

私が一輪車を押しながら畑を行ったり来たりしているのを見て、近所の人たちが興味を持ったようで、「ここは何になるんで?」と何人もから聞かれた。
その答えは自分の中でもまだはっきりしていない。
おそらく今年一年はこのまま草刈りをするだけで管理し、次の冬に果樹でも植えようと考えている。
ゆくゆくは、多種類の果樹と植栽が融合した素敵な果樹園ができれば最高だ。
このスロープ作りはそうした夢への第一歩。
まずは自分の中でのイメージを固め、時間をかけていろんな植物をこの畑に植えていけば、10年後にはきっと全く違った畑になっているに違いない。