気づけば明日で1月も終わり、今週金曜日には北京オリンピックが始まる。
今回の日本選手団の主将を務めるのはスピードスケートの高木美帆。
今シーズン負けなしの1500mに加え、500メートル、1000メートル、3000メートル、団体パシュートの5種目に出場する絶対的エースに成長した。
当然、金メダルの重圧がかかっているだろう。
昨日の結団式で少しやつれた印象を受けたのがちょっと心配だが、彼女の北京での大活躍が今から楽しみだ。
米国のデータ会社「グレースノート」が発表したメダル予想では、日本は北京で獲得するメダル数は、金4、銀4、銅9の計17個だそうだ。
3連覇がかかるフィギュアスケートの羽生結弦は銀メダルの予想、最大のライバルであるネーサン・チェンに負けるとの予想なのだろう。
確かにネーサン・チェンは世界選手権3連覇中だが、4回転半に挑戦した先日の羽生の演技は素晴らしかった。
オリンピック3連覇の可能性は十分にあると私は見る。
金メダル候補といえば、スキージャンプの小林陵侑。
今シーズンのワールドカップでは7勝をあげ、金メダルの最有力候補の一人だ。
ただ、ジャンプは天候に大きく左右されるため、女子の高梨沙羅同様、あまりに期待しすぎるのは気の毒だろう。
小林くんはもちろんだが、天才の名をほしいままにした沙羅ちゃんにも五輪の舞台で納得のいくジャンプを期待したい。
そのほか、過去2大会で銀メダルを獲得した平野歩夢や戸塚優斗らが出場するスノーボード。
男女ともにメダル候補を擁するモーグル。
楽しみな競技は目白押しだ。
ただ、北京大会はほぼ全て人工雪で行われるため、アイスバーンなどの不確定要素もあるという。
さらに、中国一色に染まるであろう観客席の雰囲気も普段の大会とは異なるため、選手たちが実力を十分発揮できるか心配する声も聞かれる。
でも、無観客の異様な大会だった東京オリンピックでも日本選手の冷静なパフォーマンスが目立った。
時差も少ない北京では、平昌大会を凌ぐメダルラッシュが見られるかもしれない。
さて、オリンピックといえば、東京オリンピックで男子100メートルと400メートルリレーを制したイタリア陸上チームを取材したドキュメントを見た。
BS1スペシャル「陸上短距離革命〜イタリア 金メダルの秘密を探る〜」。
誰も予想しなかったイタリアの金メダル。
ジャマイカでもなく、アメリカでもなく、リオ大会では決勝にも進出できなかったイタリアが金メダルを獲得するなど誰が想像できただろう。
そんな奇跡の原動力となったのが、ボルトの去った男子100メートルの新たな覇者となったラモント・マルセル・ジェイコブズである。
ジェイコブズは26歳、年齢的にはすでにベテランだが、100メートルの世界ではほとんど無名の存在だった。
ジェイコブズとは何者なのか?
彼はどうやって世界のトップに駆け上がったのか?
誰しもが抱くこの疑問に、この番組は見事に答えてくれた。
ジェイコブズは1994年アメリカ生まれ、幼い頃両親が離婚し母親の故郷であるイタリアで育った。
彼は陸上競技に打ち込んだが、選んだ種目は走り幅跳びだった。
18歳でイタリアジュニア記録を更新、21歳の時オリンピック選手にも名を連ねた。
しかし、リオ五輪は直前のケガで出場を逃す。
左の踏切足のケガが悪化したのだ。
さらに、再起をかけて臨んだ2019年のヨーロッパ選手権で再び膝を痛め、幅跳び選手としての道が完全に断たれてしまう。
絶望するジェイコブズを周囲の人々が支え、彼は100メートルへの転向を決意する。
幅跳び時代のコーチと共に身体づくりから始めていった。
カモッシコーチが取り入れたのが秘密の装置。
盾を意味する「スクード」という装置を自動車で牽引し、ランナーは囲いのような「スクード」を追いかけてその中で走る。
すると空気抵抗を受けないため、驚いたことに「スクード」の中で走るジェイコブズのスピードはあのボルトを上回っていたのだ。
「スクード」が空気抵抗をなくし、ランナーはトップスピードを長く維持できる。
この練習により、トップスピードでの正しいフォームが身につくという理屈らしい。
走り幅跳びのコーチだったカモッシは、バカンスに行く時、二階建てバスの後ろで走ると燃費が良くなることから着想を得たという。
事実、ジェイコブズは「スクード」を使うことによって100メートル9秒を切るスピードを経験しながら練習を行ったのだ。
ジェイコブズは言う。
『スクードがあると、いつもは出せないスピードまでいけるのです。これを使って練習していけば、スクードなしでもそのスピードに達するようになるのです』
また、コーチのカモッシは・・・
『私は100m走では継続的に加速していくことが重要だと考えています。トップスピード地点がゴールに近いほど勝つ可能性は高くなります』
カモッシの理論通り、東京五輪100m決勝でジェイコブズは50メートルにわたってトップスピードを維持し、最高時速43.3キロをマークしたのはゴール直前の85メートル地点だった。
こうして走り幅跳びから100メートルに転身したジェイコブズが一躍注目されたのは、2021年5月の東京オリンピックの代表選考レースだった。
「スクード」導入からわずか1ヶ月後に行われたこのレースで、文字通り奇跡が起こった。
ジェイコブズは100メートルのスペシャリストたちを抑え見事優勝、しかも10秒の壁を破り、9秒95のイタリア新記録を樹立したのだ。
こうして東京に乗り込んだジェイコブズは、予選でまたもイタリア記録を塗り替える9秒94、準決勝ではさらに大幅に記録を伸ばして9秒84のヨーロッパ新記録をマークした。
100メートルでの決勝進出は、イタリア選手初の快挙だった。
そして臨んだ決勝。
彼は集中していた。
トップでゴールを駆け抜けたジェイコブズのタイムは9秒80、またもヨーロッパ記録を塗り替えたのだ。
もし東京オリンピックが予定通り2020年に行われていたら、ジェイコブズが金メダルを獲得することはなかった。
「スクード」を使ったトレーニングを始めてわずか4ヶ月、無名のスプリンターは一気に世界の頂点に駆け上がったのだ。
カール・ルイスやウサイン・ボルトといった天才たちとは異なる新たなヒーローの誕生だ。
スポーツの世界では、時々こうした奇跡が起きる。
選手生命を断たれるような大きな挫折と眠っていた才能を呼び起こすコーチとの出会い。
知れば知るほど人間が持つポテンシャルに感動する。
北京を舞台に、日本からのジェイコブズのような超新星が現れることを期待しようじゃないか。
私は北京五輪が待ち遠しくて仕方がない。
