トランプ考①

トランプ大統領が次々に署名する大統領令が波紋と混乱を引き起こしている。予想されたことだが、トランプ氏の言動や政策はアメリカが体現してきた「自由と民主主義」の根幹を揺るがし、人類が少しずつ積み上げてきた理性的な成果を台無しにしようとしている。

破壊は簡単だ。その先に何が待っているか。ネガティブな予測はいくらでもできる。しかし過去の歴史を見れば、ひとりの独裁者の誕生が世界を変えてきたことがわかる。ある者は暴君と呼ばれるが、別の独裁者は英雄と呼ばれることもある。いずれにせよ民主的なリーダーは歴史に名を残さない。後世に記憶されるのは多くの場合、独裁者なのだ。

その意味ではトランプ氏は私の同時代人としては、これまで見たことのないような非常に興味深い人物とも言える。このブログでは、今後、トランプ大統領の打ち出す政策とその影響を注視していきたい。ヒットラーの登場や日本軍部の台頭もこうしてスルスルと一気に進んでいったのだろう。

われわれは歴史の大きな岐路にいる。

トランプ大統領は就任直後、まずTPPやNAFTAに切り込み、オバマケアをぶちこわした。既存のメディアと喧嘩をして、公約だったメキシコ国境の壁建設を進める大統領令に署名した。

トランプ氏の狙いは、アメリカ人の雇用を増やすことのようだ。しかし、私が思うに、アメリカ人の雇用を奪っている一番の原因は移民ではなく、インターネットなのではないかと思う。ネットで情報だけでなく物の製造も販売も急速に効率化された。この勢いはさらに強まるだろう。効率化されると雇用は奪われる。雇用を作るためにわざわざ非効率な方向へ転換するとは思えない。99%の富を独占する人たちの多くがアメリカに住んでいる。一般労働者の雇用問題は最後は国内の格差問題にぶつかると予想している。トランプ氏が叩こうとしている相手は生け贄にすぎず、いずれ矛盾が露呈するだろう。

そして今度は「安全」というキーワードのもと大混乱が起きている。きのう、すべての難民の受け入れを一時凍結、中東アフリカ7カ国の国民の入国をストップさせたのだ。200人以上が入管で拘束されたり搭乗拒否され混乱が広がった。

「移民の国」アメリカ。国の根幹にかかわる重大な方針変更だ。この大統領令は憲法に違反するとして司法に持ち込まれる公算が強い。果たしてアメリカの裁判所はどのような判断を示すのだろうか。

もうひとつ日経新聞に科学についての記事がのっていた。

『トランプ米政権の科学技術政策に、研究者らの懸念が広がっている。宇宙開発で実現可能性の薄い目標を掲げる一方で、ワクチンへの懐疑を表明するなど、科学的証拠を無視した発言を続ける。地球温暖化にも否定的で、関連する研究成果の公表は停止された。世界中の頭脳をひき付け、米国の国力の源泉となってきた科学に、逆風が吹き付けている。

「宇宙の謎を解く」。科学に後ろ向きなトランプ氏が就任演説で突然掲げた目標に驚きが広がった。政権幹部の昨年10月の提言によると、トランプ政権の宇宙政策は「探査と科学」を中核に据え「今世紀末までに太陽系のすべての惑星を有人探査する」という。

だが、これまで有人探査が具体的に研究されているのは火星まで。政府の肥大化を嫌うトランプ氏が、現実に宇宙開発費を増額する望みは薄い。

オバマ前大統領の功績否定をめざすトランプ政権では、がんや幹細胞など生命科学にも矛先が向く。オバマ政権ではバイデン前副大統領ががん研究を主導、免疫療法などの研究を進める計画だった。キリスト教保守派のペンス副大統領は、受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)研究に反対している。』

トランプ氏の就任式の演説で、私も唐突に飛び出した「宇宙」という言葉が妙に印象に残った。アメリカはアポロ計画によって世界一の超大国というイメージを世界中に植え付けた。しかし、今やスペースシャトルの打ち上げもやめ、ロシアや中国に遅れをとっている印象がある。現実主義者のオバマさんが手を抜いた宇宙事業。金はかかるが華がある。夢がある。レーガン時代にはスターウォーズ計画を大々的にぶちあげた。トランプ氏もそうした派手な国威発揚策として宇宙を利用してくるかもしれないとその時感じたのだ。

個人的にはアメリカは宇宙事業を続けてほしいと思う。中国が宇宙でリードする状況は何となく怖いからだ。

ただこの科学の分野はまだ具体的な政策は発表されていない。科学者たちが心配している段階だ。しかし、皆の心配は現実のものになりつつある。科学の分野でもいずれ驚く発表がなされて、国内外に大きな波紋を広げることになりそうだ。

 

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