チムジルバン
韓流ブーム以降、韓国に行くのは女性中心となったが、昔私が若い頃には「すけべオヤジ」たちが団体で韓国旅行に出かけていた。
キーセンパーティーとアカスリ、それがオヤジたちの目的だった。
私は過去2回仕事で韓国に来たことがあったが、キーセンパーティーもアカスリも経験したことはない。今回2泊3日で昼飯も食わずに駆け回りいささか疲れたので、最終日の午後、マッサージでも受けてみようと思いネットで探した。
「チムジルバン」という言葉を初めて知った。ウィキペディアの解説はこうだ。
『チムジルバン(찜질방)とは、韓国で近年、都市部を中心に急増している、50~90℃程度の低温サウナを主体とした健康ランドの一種。ほとんどの施設で24時間営業となっており、日本のカプセルホテルのような低価の宿泊施設の機能をも持っている。』
なるほど、ソウル好きな人の間ではとてもポピュラーな施設のようだ。その中で評判の良かった大型施設に行ってみることにする。
その施設は近代的な超高層ビルが立ち並ぶ龍山駅のすぐ近くにあった。
実はこのエリアには、日露戦争以後、終戦まで日本軍の基地が置かれた。戦後はアメリカ軍がその基地を使用し、在韓米軍司令部が今も龍山基地の中にある。
そんな基地の街で今大規模な再開発が行われているのだが、その中に一つまったく異質な建物が残っていた。
ドラゴンヒル・スパ&リゾート
「ドラゴンヒル・スパ&リゾート」。
こんなゴテゴテした建物が駅前ロータリーの一等地にデンと居座っている。
こここそが、私が目指している「チムジルパン」なのだ。
入り口には、関羽のような武将の大型フィギュア。不思議のワンダーランドである。
その先には、和風ともエスニック風ともつかないエントランスのアプローチが・・・。
月曜日の午後1時だというのに、フロントは混雑していた。
まるでビーチのタオルデスクのような受付で、タイ人らしきフィギュアがお出迎え。
入場料1万2000ウォン(約1500円)を支払い、ロッカーキーとTシャツと短パンを受け取る。ロッカーキーにはトークン=ICチップのようなものが付いていて、施設内の支払いはすべてこれで可能、出る際に清算する。
まずは鍵の番号の靴箱に靴を預ける。
そしてケバい玄関を通って施設の中へ・・・。
24時間営業で、時間制限はないらしい。
玄関を入ると男女に分かれる。男性専用のエレベーターに乗り、5階へ直行する。
5階は男性用の更衣室とお風呂場になっている。
小ぎれいなロッカーが並び、自分の番号のロッカーに荷物を収納する。
私の荷物はちょっと大きめのリュック1つなので、ロッカーにすっぽり収まった。
よくわからないまま、支給されたTシャツと短パンに着替える。
初めてのアカスリ
動線がよくわからないまま、みんなのいる方向へ進むと・・・
そこは風呂場だった。
そのまま中に入ろうとすると、おっさんが「服のままじゃダメだ。脱がないと」的なことをジェスチャーで示す。だけどその手前に日本のような脱衣所がない。
キョトンとしていると、先ほどの更衣室から全裸の人が次々にやってくる。「なんだ、最初から脱いで風呂に来ればいいんだ。でも、サウナはどこにあるんだ?」
そんな疑問を抱いたまま、更衣室に戻って服を脱ぎ風呂に入った。ここは日本のスーパー銭湯と同じで、様々な温度の風呂があり、泡風呂があり、水風呂もあり、寝湯もあり、打たせ湯もあり、サウナやシャワーもあった。
そしてその一番奥に、待ってました、アカスリらしき場所があった。ベッドが4つほど並んでいて、先客は1人だけだった。私が行ったのが1時過ぎでまだ空いていたのだろう。マッサージのおじさんたちもくつろいでいた。
私が入って来たのを見て、一人のおじさんが寄って来た。壁に貼られた料金表を見せる。
よくわからないまま、「ゴールドスペシャルマッサージ」(洗身+全身+顔(パック)+あんぽう)というのにした。7万5000ウォン(約9400円)と奮発した。
「あんぽう」という謎の言葉に惹かれたのだ。英語では「JJim-jil」と書いてある。
なんだかわからないままやってもらった。
ゴールドスペシャルマッサージ
まず、ベッドに仰向けに寝ろという。素っ裸で仰向けに寝る。おじさんはバシャバシャお湯をかけながら、アカスリを始める。かなり強めだ。
仰向けの次はうつ伏せ、そして横向き。何度もお湯をかけながら、丹念に全身を洗う。
ここで一旦シャワーを浴びてこいという。戻るとマッサージが始まった。こちらもかなり荒っぽい。肘を使っているのか? おじさんの骨を感じる。でも不思議と痛くはない。うつ伏せになり、首の裏側をゴシゴシしごかれるのが痛気持ちいい。
続いて顔のマッサージ。何やらパックらしき乳液を塗っている。時間が経つとちょっとヒリヒリした感触が・・・。
そしていよいよ「あんぽう」。しかし、実際何が行われているのか、最後までわからなかった。先ほどの全身マッサージに比べてツルツルした感触で全身をマッサージしている感じ。オイルマッサージともちょっと違う。あえて言えば、石鹸水で全身を撫でている感触だろうか?
「あんぽう」とは「罨法」と書き、『身体の一部に温熱または寒冷刺激を与えて行う治療法』だそうだ。ウィキペディアには「温罨法」という言葉が出ていた。
『温罨法(おんあんぽう)は、漢方医学の治療法の一つ。古くは熱熨法(ねついほう)とも呼んだ。人体(特に患部)を暖めることによって寒湿に由来する病状を緩和して、新陳代謝を活性化させる効果があると言われている。北京原人の遺跡から熱した石が発見されており、この時代にルーツを求める考古学者もいる。後に鍼の原型である砭石(べんせき)を用いる治療法が出現し、更には表面が丸や平らになった温罨法の専用の砭石が出現するようになり、これが温石のルーツとなった。』
ひょっとして、あのスベスベした感触は石だったのだろうか?
最後に頭もバシャバシャ洗ってもらい、こうして初めてのアカスリ体験が終わった。疲れた体には良い刺激だった気がする。疲れた足もスッキリしたようだ。
男女共用フロア
さて、ネットに出ていた男女共用フロアというのはどこにあるのだろう?
風呂を出てキョロキョロしていると、どうやら1階がそうだということがわかった。エレベーターで1階に降りる。そここそはまさに「チムジルバン」の真髄だった。
石板が敷き詰められた大きな部屋。床暖房が施され、多くの男女が思い思いにくつろいでいた。床暖房を全身で楽しむため寝転んでいる人も多い。
一瞬、オウム真理教に紛れ込んでしまったような錯覚を覚える。
一角に玉座のような屏風と長椅子。その脇にはクリスマスツリー。もうとっくにクリスマスは終わっているが、そんなことはお構いなしだ。
しばらく眺めていると、若いカップルが多いことに気づく。お互いにあまりおしゃれとは言えない衣装に身を包み、ただゴロゴロしながら時間を過ごす。日本ではあまり見かねない光景だ。私が知らないだけで、日本にもこんな場所があるのだろうか?
マッサージチェアがずらりと並ぶ。10分間2500ウォン(約300円)だそうだ。
さらに、この大ホールの周囲にはいくつもの小部屋が設けられている。それぞれ種類の違うサウナのようだ。せっかくなので順番に回ってみることにする。
松の木火汗蒸幕
まずは「韓国伝統 松の木火汗蒸幕」と書かれた高温の蒸し風呂。
何やら注意書きが貼られているが、ハングルだけだ。
土のレンガを積み上げたピザ窯のような造り。床にはムシロのようなものが敷いてあり、湿気でじっとりしている。
フラッシュを使わなければこの通り。暗い。そして、暑い。
こんな中で、ずっと電話で話をしている女性がいた。スマホは大丈夫なのだろうか?
天井はこんな感じ。この形にもきっと意味があるのだろう。
カメラが壊れそうなので、早々に退散する。
アイスルーム
その隣にあったのが、「アイスルーム」。温度計はマイナス12℃を示している。
一瞬で凍えるかと覚悟して入ったのだが、意外に快適でサウナで熱せられた身体が冷えて気持ちがいい。1分ほどいるには悪くない。
「インターネットカフェー」「シネマホール映画館」と書かれた下り階段もあった。
階段を降りるとパソコンルーム。韓国はインターネットゲーム大国だ。
ここでゲームをしたり、映画を見たりできるということなのだろう。使用料金は1時間2000ウォン(約250円)と手頃だ。
黄土ピラミッド瞑想修練室
「黄土ピラミッド瞑想修練室」という看板もある。
何だ、これ?
温度は31℃。暑くない。もちろん寒くもない。ちょうど気持ちいい温度だ。
薄暗い部屋には、小部屋に仕切られていて、それぞれの穴から足が4本ずつ出ている。明らかに男女の足だ。
どうやら、ここはカップルが長時間イチャイチャしてものぼせない快適なスペースのようで、私のような単身オヤジには居心地が悪い。すぐに退散する。
天然軟玉ピラミッド気体験室
そのお隣には「天然軟玉ピラミッド気体験室」。これまた、意味不明だ。
こちらは完全に石張りの室内で、空いていたのでしばらく滞在する。ここも適温で長時間過ごすことができる。
ヒノキ森林浴部屋
そして和式の部屋もあった。
「ヒノキ森林浴部屋」だそうだ。
この部屋は、床も壁も木でできている。そしてこの施設で唯一、外光が入る明るい部屋なのだ。怪しげな照明ばかり見せられていたので、この部屋に入った瞬間、とても清々しい気持ちになった。
そして木の感触、実に気持ちがいい。室温は他の部屋に比べ一段低く設定されている。おそらく30℃前後だろう。もっとも快適な温度で、空気が爽やかに感じられる。
日本人だからこの部屋がお気に入りなのかと思ったが、次々に人が入ってきて居場所がなくなってしまう。それが唯一の欠点だろう。
韓国伝統クヌギ炭窯
そして「韓国伝統クヌギ炭窯」。
温度の違う3つのサウナが並ぶ。嫌な例えだが、去年訪れたアウシュヴィッツの死の焼却炉に似ている。ちょっと不気味だ。
しかし、中に入ると、ipadをする人、本を読む人、みんな思い思いに過ごしている。
全体的に日本の一般的なサウナに比べて温度が低い。日本のサウナは長時間じっとしていられない。韓国のチムジルバンの方が、その意味で優れているような気がする。
ここで喉が渇いたので、缶ビールを1本。韓国ビールの2大メーカーの一つ「OBビール」の主力商品「カス」。韓国ビール四天王の一つだそうだ。
施設内にはゲームセンターや食事処、仮眠所やエステ、タイマッサージもある。
宿泊も可能だ。ホテル代をケチるため、チムジルバンに泊まる韓流好きの人も多いと聞く。
クリスタル光塩部屋
時間はそろそろ午後4時が近づいた。空港に向かう時間だ。
最後に残った「クリスタル光塩部屋」に入ってみた。
岩塩なのだろうか?
床に白い小石のようなものが敷かれていて、そこに広げた毛布の上に寝転ぶ。この部屋に入る際は靴下着用との注意書きがあるが、誰も守っていない。この小石(岩塩?)が火傷するほど熱くなることがあるのだろうか?
この部屋は少し暑い。最後に体の芯を温めて、初めてのチムジルバンを後にした。
旅の終わり、空港までの時間を潰すにはカジノよりも健全で気持ちがいい場所であった。
<関連リンク>
⑤「ドラゴンヒルスパ」で韓国式サウナ「チムジルバン」を初体験
<参考情報>
私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。
