ロシア料理などまったく期待していなかった。
かつて1990年ごろのモスクワで食べた料理は、毎日同じようなものばかりだった。酢漬けの野菜や酢漬けの魚ばかり食べていたような気がする。
だから何か食べられればいいと割り切って街に出た。「地球の歩き方」の掲載されているレストランか、たまたま見つけたお店の中から気が向くままに夕食を食べる店を選んだ。
ローキシプローキシ
初日のディナーを食べたのは、ウラジオストクのメインストリートであるスヴェトランスカヤ通りに面する地下のお店「ローキシプローキシ」。
そう、この「餃子館」の文字と写真に惹かれたのだ。
広い店内。キッチン用具を使ったモダンなインテリア。
そして英語のメニューがある。これは、助かる。
まずは、ロシアのビールを注文する。せっかくなので生ビールがいいと思い、「CRAFT BEER」の一番量の少ない「MEAD」(250P)という奴を頼んでみた。
ちょっと色が薄いなあと思いながら、一口。・・・甘い。
「これ、生ビール?」
アルコールが入っているのかどうか不明だが、色も味もジンジャエールだ。ラベルには、熊や豚がジョッキを飲んでいるイラストが描かれているものの、文字はキリル文字なのでさっぱりわからない。まあ、飲めるからいいけど・・・。
気を取り直して、料理のご紹介。
最初に運ばれて来たのは「GARLIC PAMPUSHKA」(20p)。ガーリック味のパンだ。
メニューにあるピロシキを注文しようとしたら今日はないと言われ、代わりにこれを勧められた。まあ、味はガーリックトーストの味で悪くはない。
それよりも、パンが載っているお皿。ちょっとかわいくないですか?
続いては「RUSSIAN SALAD」(180p)。こちらもお皿がいい。
ポテト、人参、玉ねぎ、チキン、卵、グリーンピースをマヨネーズで和え、きゅうりのピクルスとハーブを添えたもの。「オリヴィエ」と呼ばれるサラダのようだ。
「これが、ロシアのサラダなんだ」
味はまあ想像通り。驚きはないが、普通に美味しい。
そして最後に登場したのは、あの餃子だ。「ペリメニ」というシベリア風水餃子だという。
いろいろ種類があるが、私は「GRANDMA’ S PELMENI」(290p)を選んだ。初心者としたはやはり「おばあちゃんのペリメニ」から始めるべきだろう。
醤油ではなく、サワークリームをつけて食べる。
皮はまさに水餃子だが、具はニンニクとバターの味がした。個人的には醤油の方が美味い気がするが、これはこれでありだ。ニンニクのしつこさがサワークリームで和らげられ美味しい。
量もたっぷりあって、一人だとこれだけでお腹いっぱいになる。
この日のディナーは、740ルーブル。日本円で1500円だった。
思ったよりちょっと高いが、街の中心部だからまあこんなものか。
このお店、ペリメニの他にもメニューは豊富で旅行者にも使いやすいレストランだと思う。
ポルト・フランコ
2日目のディナーは、こんな日本語の看板が掲げられたお店を選んだ。
1919年オープンの老舗「ポルト・フランコ」だ。
スヴェトランスカヤ通り沿いの階段を地下に降りると、重厚な扉が待っている。
扉の奥には不思議なエントランスホールが・・・。
ほうきのような物を持った人形は何なんだろう?
そしてこれが店内。やはり不思議な空間だ。
100年前からこんな内装だったのだろうか?
この店には写真付きの英語メニューがあった。これはわかりやすい。
その代わり値段は高い。さすが老舗、今夜はちょっと奮発しよう。
まずはロシアのビールから。
「ゾロタヤ・ボツカ」(350p)という銘柄のようだ。
ちなみに、ロシアでは2011年にビールをアルコール飲料とする法律ができた。それまではアルコール度数10%未満の物はお酒ではなく食料品に分類されていたというから驚きだ。
写真を見ながら私がこの老舗レストランの豊富なメニューから選んだのは、まずこちら。
「Pancake with Caviar」(650p)だ。
ブリヌイと呼ばれるロシア風パンケーキに包まれているのは・・・
あふれんばかりの、イクラ。
要するに、たっぷりイクラの茶巾包みといった料理だ。
イクラをクレープで包んだだけだから、不味いはずがない。
しかも、さすがロシア極東はイクラの本場。これだけイクラが入って1300円ぐらいだ。安いといえば安い。
ただイクラが多すぎて、塩っぱいかもしれない。ご飯が欲しくなるほど、贅沢だ。
続いての一品は「Salad with Squid and Caviar」(435p)。
「イカとイクラのサラダ」ということになる。こんなの食べたことない。
サワークリームをかけていただく。
このサワークリーム、ロシアではスメタナと呼ぶらしい。
こちらはイクラの塩分がイカやレタス、サワークリームで緩和され、食べやすい。そして、もちろんこれも美味い。
そして、ロシアに来たからには食べておきたい「ボルシチ」(350p)。
小さめのピロシキが付いているのも、旅行者にはうれしい。スメタナとハーブを加えて食べるようだ。
ロシア料理の定番中の定番「ボルシチ」はビーツ(砂糖大根)のスープだ。
見た目、具が少なそうに見えた。しかし、かき混ぜてみると・・・
スープの中から、肉やジャガイモがごそっと顔を出した。思いの外ボリュームがある。
そして、ここのボルシチは本当に美味しかった。日本で食べるボルシチとはまったく違う気がする。
やはり、外国人が食べても美味しいからロシアの定番料理と見なされているのだろう。
創業100年の老舗レストラン。
支払いは1785ルーブル(約3500円)と高かったが、その価値は十分にあるお店だと思った。
ウフ・ティ・ブリン
そして最後3日目のディナー。といっても店に入ったのは午後4時ごろだった。
前日食べすぎてお腹が重かったことと、人気店なので混雑時を避けようとの狙いがあった。
通称「噴水通り」と呼ばれる観光客に人気のアドミラーラ・フォーキナー通りにある超人気のお店「ウフ・ティ・ブリン」。
看板でわかる通り、ロシア風パンケーキ「ブリヌイ」の専門店だ。
午後4時だというのに、店内は満席。
忙しそうに立働く店員にメニューを頼んでも、一向に持って来てくれない。というか、水さえ出てこないのだ。
「サービスの悪い店だなあ」
と思いながら店の様子を伺っていると、どうやらこの店ファストフード店のように客がカウンターに行って注文するスタイルだとわかった。
私もカウンターに行き、メニューをくれと伝えると「どこから来た」と聞いてくる。
「そんなことはどうでもいいからメニューをくれ」と思っていると、「コリアンか?」と聞くので「ジャパニーズだ」と伝えると、サッとメニューを手渡された。
開くと何と日本語のメニューではないか。
どうやらこのお店、韓国人に大人気で韓国語のメニューがたくさんある。
日本人客もそれなりに多いので、日本語メニューも作っているということらしい。
確かに一口にブリヌイといっても、おかず系のブリヌイもあり、デザート系のブリヌイもある。そしてその種類がべらぼうに多い。だから日本語で材料などが丁寧に説明されているこのメニューがないと、何を注文していいのか皆目見当がつかないようなお店なのだ。
迷いに迷って注文するメニューを決めた。
カウンターの店員に注文を伝え支払いを済ませると、木製の番号札を渡される。
注文した品は、先ほどの“サービスの悪い”店員が席まで運んで来てくれる仕組みのようだ。
最初に運ばれて来たのは「ピナコラダ」(165p)という謎の飲み物。この店ではこの種の飲み物を「カクテル」と呼ぶ。アルコールはまったく入っていない。
「ピナコラダ」は、アイスクリーム、ミルク、ヤシの実、パイナップルジュース、ヤシの実シロップが原料だと書いてある。
一口飲むと、これが超美味い。思ったほど甘すぎず、しっかりとした旨味がある。これは大正解、オススメだ。
「ピナコラダ」を少しすすったところで、ブリヌイが運ばれて来た。
私が選んだのは「鮭、クリームチーズと野菜入りブリニー」(230p)。この店ではブリヌイを「ブリニー」と表記する。クレープに巻かれた材料は、クリームチーズ、燻製の鮭、そして野菜だ。
これが今夜の主食となる。とても美味しい。
クレープには甘みがあり、中はスモークサーモンとクリームチーズ、適度な塩分と酸味がある。これは重くなった胃にはちょうどよかった。
鮭のブリヌイを食べ始めたところへ、早々とデザートのブリヌイがやって来た。
「バニラアイス付き洋梨のブリニー」(210p)。
まだ暖かいクレープの上で、アイスクリームが溶け始めていた。
急いで鮭のブリヌイを食う。その間にも、アイスクリームは容赦なく溶けて広がっていく。もう少し、時差をつけて持って来てくれればいいのに・・・。
鮭のブリヌイを食べ終わった時には、アイスはもうお皿全体に流れ出していた。
それをクレープで拭き取りながら食べる。
うーん、これはどうだろう?
ちょっとロシアのアイスクリームは味がしつこい。乳脂肪の濃度が高すぎるのだろう。だから後味がさっぱりしない。もちろん、クレープとアイスクリームの相性は悪くないのだが、最初に飲んだ「ピナコラダ」の方がずっと美味しい。
デザートのブリヌイはシンプルに蜂蜜だけのものにすればよかったと、ちょっと残念な気持ちになった。
でも、このお店、世界の観光客を引きつけるその魅力と実力は、間違いない。ちょっと軽めに食べたい時にはうってつけのお店だと思う。
この季節、ウラジオの夕日が沈むのは、午後9時ごろだ。
ディナーを食べた後でも、気持ちのいい夕涼みができる。
予想外に美味しいディナーに3日ともありつけて幸せだった。ロシア料理を侮ることなかれ。特に海産物の豊富なウラジオストクは、ひょっとするとロシアのグルメタウンなのかもしれない。
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