昨日は朝からテレビに釘付けとなり、一日中オリンピックを堪能した。
北京オリンピックもいよいよ終盤となり、日本人選手最後のメダルラッシュとなった。

午前中の注目は、スノーボード女子ビッグエア。
日本人3選手が2、3、5位で予選を通過し、金メダルも期待された。
1人3回飛んでそのうち2本のスコア合計で競うこの競技、人間業とは思えない華麗なパフォーマンスと共に最後まで逆転の可能性があるハラハラの展開が醍醐味だ。

結果を出したのは17歳の村瀬心椛(ここも)。
1回目にバックサイド、2回目でフロントサイドで「ダブルコーク1080」という女子選手では最高難度とされる3回転ジャンプを2本成功させ、銅メダルを獲得した。
17歳でのメダル獲得は、浅田真央さんを抜いて冬季五輪の日本人選手最年少記録を更新した。

しかし、村瀬以上に興奮したのは4位となった岩渕麗楽。
彼女も「ダブルコーク1080」を2本決めたが得点が今一つ伸びず4位で3回目を迎えた。
一発逆転でメダルを狙った岩渕が挑戦したのは女子選手が誰もやったことのない「トリプルアンダーフリップ」。
縦に3回転する大技に思わず息が止まる。
着地し成功したかに見えた次の瞬間、尻もちをついて転倒、今度は思わず「あ〜」と声が出た。
ナイストライ、でも岩渕は平昌に続き4位に終わった。

ガッカリと肩を落とす岩渕のもとに他の選手たちが全員駆け寄り彼女の挑戦を讃える。
それだけライバル選手たちを感動させるすごい挑戦だったのだ。
東京五輪のスケートボードでも見られた感動的な光景。
まだ発展途上にある新しいスポーツが持つ素敵なカルチャーである。
メダルを取る以上に人の心を揺さぶることがある。
岩渕の3回目は、まさにそうした瞬間だった。

午後は男子のビッグエア、2人の日本人選手が決勝に進んでいた。
女子が3回転で勝負しているのに対し、男子は同じジャンプ台で5回転を競う。
素人がいくら目を凝らしても何回回転しているのか解説を聞かなければ理解できない。
結果的にこの種目で日本人トップとなったのは国武大晃(19)。
3回目を終えて3位に入ったものの、後続の選手に抜かれ惜しくも4位に終わった。

しかし、国武以上に力が入ったのは20歳の大塚健。
2回目で「キャブトリプルコーク1800」という5回転の大技を鮮やかに決め、最高得点となる95.00を叩き出した。
3回目を無難にまとめればメダルがほぼ確実な状況だったが、大塚は最後も5回転に挑戦。
見事決まったと思った次に瞬間、バランスを崩して転倒、メダルが手から滑り落ちていった。
この時も思わず、私の口から声が漏れた。
「あ〜、惜しい」
確かにメダルは選手にとって大事だが、最高の舞台で自分の持つ力を出し切りたいという気持ちは爽やかで、心からの拍手を送りたいと思った。
日本の若きスノーボードチーム、本当に格好よかった。
そしてこの男子ビッグエアで金メダルに輝いたのは、中国の17歳・蘇翊鳴。
彼のパフォーマンスは圧巻だった。
銀メダルに終わった「スロープスタイル」でもそのしなやかな演技は群を抜いていて、その時の審査結果には海外からも疑問の声が上がっていた。
ビッグエアでは2回とも90点を上回るすごい得点を叩き出して他を寄せ付けず、3回目を待たずして優勝を決め観客を熱狂させた。
本当にすごい選手だが、彼を指導するのは日本人の佐藤康弘コーチ。
これまでウィンタースポーツが盛んではなかった中国だが、北京五輪をきっかけに一気に火がついたようで、今後様々な競技で有力な中国人選手が出てくるのは間違いないだろう。
そう、中国といえばもともと、超人的な雑技団で知られる国なのだ。

そして夕方の注目は、スピードスケート女子団体パシュート。
平昌で金メダルを獲得した3人が出場する日本が最も金メダルに近い種目である。
高木美帆を中心に、高木菜那、佐藤綾乃の3人の滑りは、いつ見てもため息が出るほど完璧な同一性を見せる。
予選でオリンピック記録を塗り替え、準決勝では対戦相手のロシアが最初から日本との勝負を諦めるほど絶対的な強さを今回も見せつけていた。
ところが・・・

決勝のカナダ戦。
スタートからリードを保っていた日本チームにまさかの事態が起こった。
ゴール直前の最後のカーブで、高木菜那がバランスを崩して転倒したのだ。
「あ〜〜〜〜」
思わずテレビに向かって叫んだ。
身長188cmという長身のイザベル・ワイデマンが率いるカナダチームの激しい追い上げに、プレッシャーを受けたことが原因だったのかもしれない。
だが、パシュートでは3人目がゴールした瞬間の速さを競う。
一人が転倒するとその段階で負けが決まってしまうのだ。
目の前にあった金メダルがあっけなく逃げてしまった。
高木菜那は涙が止まらなかった。
チームメートやコーチが声をかけても抱き締めても、溢れる涙は止まらない。
悔しくて、悲しくて、申し訳なくて、情けなくて・・・。
この気持ちが痛いほど伝わってきて、こちらまで涙が出そうになった。
彼女が誰より辛いことは皆がわかっているので、そっと寄り添って心が落ち着くのをただ待つことしかできない。

高木菜那は表彰式でもまだ泣いていた。
いろいろあったスケート人生。
平昌では2個の金メダルも獲得している。
しかし北京でのパシュートはきっと彼女の心から一生消えないことだろう。
そしてこの瞬間は、冬季五輪の歴史にも消えることのない伝説として語り継がれることになるのだろう。
でもこれこそ、人間の極限で戦うアスリートだからこそ起こる物語であり、高木菜那の涙は私の心に深く刻まれた。

そして夜。
ノルディック複合男子個人ラージヒルが行われた。
ノーマルヒルでは外国人選手との走力の違いを見せつけられ、ラージヒルも全く期待はしていなかった。
ジャンプでは、若手のホープ山本涼太が2位、エースの渡部暁斗が5位と好位置につける。
それでもやはり厳しいだろうと思って後半のランを見始めたのだが、なんのなんの、渡部がトップで走っているではないか。
その後、先頭集団4人の最後尾に回った渡部、引きの映像で1人選手が遅れ始めたのを見て、「ああ、やっぱり」と思ったが、それは渡部ではなかった。
むしろここから渡部は試合を引っ張り、再びトップに立ってスタジアムに戻ってきた。
「行ける、行ける」
「渡部すごいぞ、そのまま行け」
これまた、自然に声が出た。

最後の直線で、後ろから追い上げてきたノルウェーの2選手に抜かれ、渡部は惜しくも3位。
それでも3位に入ったのだ。
ソチ、平昌でのノーマルヒル銀メダルに続く、3つ目の五輪メダルは北京ラージヒルの銅メダル。
今年33歳の渡部にとって、次があるかどうかはわからないが、日本のオリンピック史に残る金字塔を再び打ち立てたのだ。
「ジャンプはうまいが距離では外国人選手に敵わない」
そんな常識が渡部には通用しない。
すごい選手だ。
期待していなかった渡部の銅メダル獲得によって、北京五輪での日本人選手のメダル獲得数は14個となり過去最多だった平昌を超えた。
だが、メダルの数以上に、若いスケートボードチームの躍進が目立った大会だったと思う。
フィギュアやジャンプ、スピードスケートに偏っていた日本の選手層が横に広がり、多様な種目に多くの注目選手が登場してきた。
残る期待種目はわずかになったが、最後までしっかり楽しませてもらおうと思っている。
やっぱり、オリンピックは面白い。