千秋楽の結びで、とんでもないドラマが待っていた。
西の前頭17枚目。いわゆる幕尻の力士が優勝してしまった。
しかも、両横綱の休場で番付最上位となる大関貴景勝を圧倒しての幕内最高優勝である。

正直な話、私は、14日目で貴景勝の優勝が消えた以上、千秋楽で徳勝龍と貴景勝の一番を組んだ審判部の判断はおかしいと思っていた。
3敗の北勝富士あたりが妥当だろうと思っていた。
しかし結果的には、北勝富士ではなく、貴景勝に勝っての優勝でよかった。これなら誰も文句は言えない立派な優勝力士だろう。
優勝の瞬間、徳勝龍は土俵上で男泣きした。
近大相撲部の主将として角界入りし、序の口、三段目優勝などを飾り、負け越しを経験することもなく幕下に駆け上がった。しかし、そこから伸び悩み、十両と幕内を行ったり来たりしているうちに33歳になった。力士としては普通はピークをすぎている年齢だ。
自分でも限界を感じていただろう相撲人生に突如降って湧いた栄光の時。
本人が一番驚いているのだと思う。

「自分なんかが優勝して、いいんでしょうか?」
優勝インタビューで開口一番、そう語って場内の笑いを誘った。さすが関西、奈良県出身らしい受け答えである。
しかし話がこの場所中に急逝した近畿大学時代の恩師、伊藤監督のことに及ぶと、涙があふれしばらく言葉を詰まらせた。
人間性が垣間見えた素敵な優勝インタビュー。これを聞いた人はみんな徳勝龍に好印象を抱いたことだろう。好感度が一気にアップし、来場所以降、人気力士の仲間入りをすることは間違いない。
1敗で徳勝龍を追い、優勝決定戦があるものと思って待っていた正代が、結びの一番を見て思わず天を見上げる姿も印象的だった。今場所の正代は強かった。内容的には、徳勝龍よりも正代が優勝にふさわしかっただろう。
でも、持ち前のメンタルの弱さが大事な一番で出た。
敢闘賞のインタビューを受けた正代は、複雑だが可愛らしい受け答えで、「この人もきっと心優しいいい人なんだろうな」と思わせるインタビューだった。
私も歳をとったせいか、このところ大相撲が大好きになった。
それぞれの力士の人生や性格が取り組みから滲み出てくるのを楽しめる年齢になったのだろう。
中堅若手に個性的な力士が目白押しで、各界の下克上はまだしばらく続きそうだ。
今場所を沸かせてくれた力士たちに拍手を送りながら、来場所を楽しみに待ちたいと思う。