なるほど、と思った。
コロナショックが起きてから、初めて膝を打つような話を聞いた気がする。
「9月入学」を真剣に検討すべきだ、という提案である。
この議論のきっかけを作ったのではとみられるのが、「中尾 西野」という大阪の2人の女子高生だった。
インターネット上で署名や募金を集めるキャンペーンサイト「change.org」に、「秋学期制度の導入を!!」と賛同者に署名を呼びかけた。
初めまして。大阪市の高等学校に通う三年生2人でこの署名を開始しました。
全国に緊急事態宣言が出たことがきっかけとなり、今ほとんどの教育機関がストップしています。ゴールデンウィーク明けからの学校開始をめどに自主的な学習を求められていますが、各自での勉強には限度があるのが正直なところです。
そこで、私たちは「新学期を半年ずらし、9月スタートにする」すなわち「秋入学」を提案させていただきます。
勿論、9月までにコロナウイルスが終息するという確証はありません。ですが、このまま少しずつ少しずつ学校開始が延ばされ、本来の学校生活を送れないまま3月に卒業となるよりは、まだ学校生活を全うするチャンスが生まれるのではないでしょうか。
それに、私たち、いわゆる「受験生」の立場からすれば、外部検定の受験機会減少、地域格差や情報格差、一般入試より早く始まる推薦入試実施の可否 などの不安も、学校自体の始まりを遅らせることで幾分かは解消されます。
また、グローバル化に伴い新学期を9月にずらす案は以前からあったということも知りました。 日本人の留学率を更に上げ、国際的な人材を増やす ためにも、ピンチをチャンスと捉えて世界と足並みを揃えるべきだと考えます。
そして、高校三年生はもちろん、学生にとって学校生活はかけがえのない時間です。
出典:「Spring Once Again 〜日本全ての学校の入学時期を4月から9月へ!〜」
今こうして家にいる間に、楽しみにしていた行事が、どんどんとなくなりつつあります。
そしてなにより、クラスメートと一緒に勉強する時間、なんでもない話をしながらお弁当を食べる時間、恋愛話に花咲く放課後の時間、これら全ての何気ない瞬間が、今、消えそうになっています。
私たちの人生の中でかけがえのない青春の1ページに、もう一度色を塗れるチャンスをいただけないでしょうか。
彼女たちが考えるメリットとは・・・
- 全国一律で8月末まで休校にすることで9月から平等な教育を受けられる可能性が高い
- 入試等もそれに準ずることで混乱を抑えることができる
- 海外の学校と足並みを揃えることによる留学の推進
- かけがえのない青春を取り返すことができる
あくまで高校生の立場からのメリットだが、こうした問題が生徒たちの視線から提起されることは貴重だろう。
彼女たちは集まった署名を文科省に提出する予定だ。
これらのことを踏まえ、文部科学省宛にこの署名を提出することをゴールに活動を始めます。また、この案がもし実現したときには半年間の学費免除、全ての学校に務める方の給与保証も加えて要求します。
ただでさえ混乱している世の中、このような大きな決断は不可能に等しいかもしれません。様々な現実的な問題が生じるのも承知しています。ですが、私たち学生が声を上げることにより、少しでも良い方向に物事が進めばと思っています。
出典:「Spring Once Again 〜日本全ての学校の入学時期を4月から9月へ!〜」
26日までに2000人が賛同し、文部科学省に提出したいという。
現場の教師の間でも、だらだらと休校を延長するならいっそ「9月入学」に移行したらという声も出始めていて、27日の朝、西日本新聞がこれを記事にした。
これを受けるように、政治家たちの間から一斉に「9月入学」に前向きな発言が上がり始めたのだ。
宮城県の村井知事は27日の定例会見で、臨時休校が続く学校の再開時期について「学校の入学、始業の時期を9月にずらすのも大きな方法。9月入学にすれば学力差が無くなる。今は学校をやっているところと、ずっと休校しているところでかなり学力差、地域格差が出ている」と述べ、9月入学に前向きな姿勢を示した。
そして28日に行われた全国17県知事で作る政策提言グループのウェブ会議で、「9月入学制の導入を含めた抜本的な対策の検討を政府に要請する」と提案。全ての知事が前向きな反応をした。
大阪府の吉村知事や東京都の小池知事も相次いで9月入学に賛成する考えを明らかにしたため、「9月入学」問題は一気に重要な政治テーマに浮上してきたのだ。
中央政界でも、国民民主党や維新の会が9月入学を推進する考えを明らかにした。
これを受けて、萩生田文科相も28日、9月入学について「文科省内としては一つの選択肢としてシミュレーションしている」と明らかにし、「文科省としては課題はすでに整理できている。グローバル化社会では留学生を受け入れやすくなるというメリットもあるだろう」と述べた。一方で高校や大学入試、就職なども含めた対応が必要とし「文科相が決断すればいいとの声もあるが、そんなに単純な仕組みではない。社会全体で考えないといけない」として関係省庁などと話し合う必要性も強調した。
さすが、機を見るに敏な政治家たちだ。
こういう時は、動きが早い。
こうした動きに対し、菅官房長官は「9月新学期は社会全体に大きな影響を及ぼす」と慎重な姿勢を見せ、少しブレーキを踏もうとしているが、公立学校を預かる知事たちの動きはそう簡単に止められないだろう。
新型コロナウィルスがもたらした先の見えない学校休業。
このまま行けば、学校がいつ再開するか、いつ正常化するかまったく目処が立たない。もし再開できたとしても、感染の状況によっていつまた休校になるかわからないのだ。
この1年、生徒たちの学習機会は間違いなく失われるだろう。
もし来年から9月入学が実現すれば、生徒たちは来年夏までに今の学年の勉強を続けられる。1年4ヶ月あれば、学校行事もある程度こなせるかもしれない。4ヶ月分、時間に余裕が生まれるのだ。
そして何より、大学を中心に9月入学を求める声がずっとあった。
それは日本の教育現場を、「国際標準」である9月入学に合わせるとメリットがあるということだ。
調べてみると、私の知らないことがいろいろ見つかった。
ベネッセの教育情報サイトに、主な国の入学時期が出ていた。
1月…シンガポール
出典:ベネッセ「世界の多くの国々では9月入学が主流!4月に入学する国は少数派」
1月末~2月初め…オーストラリア、ニュージーランド
3月…韓国
4月…パナマ
5月…タイ
6月…フィリピン
9月…アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ベルギー、トルコ、モンゴル、ロシア、中国
10月…ナイジェリア、カンボジア
欧米も中国も9月入学が圧倒的に主流なのだ。
このベネッセの記事には、もっと興味深い話が書かれていた。その部分を引用させていただく。
実は、桜の花が咲く4月の入学とは、実は日本独自の習慣だということを知っていますか? 海外では、4月に入学する国はほとんどないようです。いったいなぜ、日本では4月入学が定着したのでしょうか?
子どもたちの多くが寺子屋や私塾、藩校などといった学びの場に通うようになったのは、江戸時代にさかのぼるといわれています。これらは特に入学の時期は定められておらず、いつでも入学することができました。
明治時代の初めになると、西洋の教育が導入され、それに従って西洋と同じ9月入学が主流となりました。
しかしその後の1886年から、暦上の1~12月までの「一年」とは別に、4~3月までを一区切りとする「年度」を政府が導入します。これは正式には「会計年度」というもので、官公庁が予算を執行するための期間のこと。
当時の政府の税金収入源は農家の米だったため、秋に収穫した米を、農家が現金に換えて納税してから予算編成をしていくには、1月始まりでは間に合わなかったのです。そのため、先進国の中心であったイギリスの会計年度の区切りに合わせて、日本でも4月1日~翌年の3月31日を会計年度の期間に定めました。
この影響によって、小学校や師範学校の入学時期も4月となり、やがて大正時代には、高校や大学もすべて4月入学になったそうです。
出典:ベネッセ「世界の多くの国々では9月入学が主流!4月に入学する国は少数派」
何と、明治の初めには、9月入学が主流だったというのだ。
てっきり、桜が咲く頃というので春入学なのかと思っていたが、官公庁の会計年度に合わせただけだったのだ。いかにも、小役人的な発想ではないか。
そのせいで、受験生は一年で一番寒い時期に入学試験を受けなければならなくなり、新学年が始まってわずか4ヶ月で長い夏休みとなるのも学習の流れを阻害しているようにも感じる。
4月入学を守り抜かなければならない理由は見当たらないのではないだろうか?
ネットで調べていると、教育研究家の妹尾昌俊さんが書いた「9月入学・新学期は進めるべきではない ― 子どもたちと社会への影響を重く見るべき4つの理由」という記事が検索に引っかかった。
「9月入学を進めるべきではない理由」って一体何だろう?と思って読んでみると、次に4点が指摘されていた。
- 児童生徒、学生は、みんな半年余分に学校に通うことになる
- 高校生や大学生らにとっては学費や生活費が余分にかかる
- 社会への影響が甚大 深刻なのは人手不足への影響
- この危機の時に制度改正に文部科学省等の人的リソースを割くのが賢明か
読んでみたが、どれも決定的な阻害要因にはならない気がする。
政府がやる気になれば、それぞれ十分対応可能な問題ではないだろうか?
経済界では、大企業を中心に一括採用の見直しが進んでいる。4月入社が9月入社に変わろうが対応は可能だろう。一気に「通年採用」が定着するかもしれない。
最も難しいのは、教育現場がついてこられるかという問題だ。
学校現場は変化に弱そうに見える。通常の企業とは違い、学校では一人一人の教師が個人事業主のようなものである。中には、9月入学に前向きな教師もいるだろうが、頑なに抵抗する教師も出てくるだろう。
しかし、もし日本が世界標準の9月入学に舵を切るなら、この機会を逃しては二度とチャンスはないだろう。
私は断固として、来年からの9月入学導入を支持する。
この難局を前向きにとらえるには、これほど良い目標はない。
もし、学校が9月入学になるとなれば、社会の様々な制度に影響が出る。今ひとつ先が見えない日本社会に大きな変化をもたらすきっかけとなるだろう。
面白いではないか。
学校が変われば、日本の未来も大きく変わるかもしれない。逆に、これ以上に日本社会を変える方法はないかもしれない。
多くの混乱が起きるだろうが、ウィルスがすでに前例のない混乱をもたらしている。
これは「黒船」かもしれない。
黒船がなければ変化できない日本人に、変わるべき時がやってきているような気がしている。
明治の人たちが必死で海外から学んだように、日本人は再び世界から学ぶ意識を持った方がいい。
単なるグローバル化ではなく、人類共通の課題に貢献できる次世代の日本人を生み出すために、若い日本人を海外に送り出し、海外から多くの若者を迎え入れるような制度をそろそろ考える必要があると思う。
来年からの9月入学を、ぜひ推進すべきだ。