ここ数日、「ゼロコロナ政策」に抗議するデモが中国の各地で起きていると報道されている。
抗議運動のきっかけとなったのは、新疆ウイグル自治区のウルムチで24日に発生したマンション火災。
この火災で19人が死傷したとされるが、ゼロコロナ政策に基づく厳しい封鎖措置が取られていたために消防隊の活動が遅れ被害が拡大したとして抗議する住民たちが街頭で警官隊と衝突した。
その動画が拡散されると、ウルムチの犠牲者を追悼する集会が北京や上海でも行われたというのだ。
この運動を象徴するのが何も書かれていない白い紙。
言論統制によって自由な発信を封じられた中国の現場を示しているとされる。
この動きに神経を尖らす当局は直ちに「白紙運動」など関連用語での検索ができない措置を取ったが、数日のうちに抗議運動は全国に広がった。
中には習近平氏の辞任を要求し共産党を直接批判する人もいて、西側メディアでは天安門事件以来の重大局面と伝えるところもある。
日本のテレビニュースでも各地から発信された動画を使って大きく報道されているため、私の妻などは、習近平さんが辞めさせられるかもとこの運動に期待をかけているようだが、私の目から見るとまだまだそんな段階ではないように見える。
中国社会は日本など民主主義国とは全然違っていて、共産党員とその家族だけで1億人以上いて、その末端組織はあらゆる地域や企業の中にも張り巡らされているのだ。
さらに治安維持のための警察や軍は共産党トップの直属であり、抗議運動に参加した住民は直ちに特定され必要があればいつでも拘束できる。
おそらく、我々が見ている動画に映った抗議者たちの多くはすでに当局に身柄を拘束され、厳しい取り調べを受けていることだろう。
中国の歴史は、一人の皇帝が軍事力を背景に人民を支配する歴史であり、その抑圧がピークに達した時に住民の我慢が限界を超え死に物狂いの反乱の末に皇帝を倒し権力を奪う繰り返しなのだ。
とても数百人が街頭で抗議の声をあげたぐらいで習近平さんを倒すことはできない。
中国当局は騒ぎが大きくならないうちに、徹底的に運動の芽を摘み取ろうとするだろう。
唯一、習近平体制が揺らぐことがあるとすれば、それは単なる民衆の抗議ではなく、先の共産党大会で権力の座から追われた共産党内のグループが裏で抗議運動を組織して習近平一強体制打破に動いた時だろう。
共産党大会の際、途中退場させられた胡錦濤前総書記や李克強前首相ら共青団(中国共産主義青年団)の動きは注目だろう。
それでも、警察や軍は習近平さんが完全に押さえていると見られているため、実際には力によって短期間で抗議活動が押さえ込まれるというのが私の見立てだ。
中国の抗議活動以上に私が注目しているのは、台湾の動きだ。
26日に行われた台湾の統一地方選で与党民進党が大敗し、蔡英文総統が民進党の党首を引責辞任すると発表した。
民進党の敗因は、外交問題ではなく新型コロナ対策など国内問題での不満だという。
かつてはコロナ対策の優等生と言われた台湾だが、ワクチンの調達で遅れを取り今での1日1〜2万人の感染者が出ているのだそうだ。
蔡英文さんの総統としての任期は2024年5月まで続くが、対中関係などにも影響が徐々に及んでくるだろう。
親中とされる野党国民党は、そうした国民の不満をうまく利用して政権批判に結びつけることに成功した。
首都の顔を選ぶ台北市長選挙では、蒋介石のひ孫にあたる蔣万安氏が当選。
まだ43歳の若さで、国民党の新たな総統候補として注目される。
しかし、共産党に敗れて台湾に逃れてきた蒋介石の子孫が、中国共産党に宥和的な国民党の新たな顔になるというのも歴史の皮肉である。
蔡英文総統の任期中は、中国に対して強硬路線を貫くと見られているが、台湾の総統には3選禁止規定があるため、次の総統選は新人同士の戦いとなる見込みだ。
民進党は蔡英文さんの個人的な人気に支えられていて、政権交代が起きる可能性も高く、その場合台湾と中国の関係がどうなるのか予断を許さない状況になってきた。
日本政府は、アメリカと共に台湾問題へのコミットを強めようとしているが、中台関係が急展開して梯子を外される可能性も視野に置く必要があるだろう。
国会では防衛力強化の議論が盛んになってきた。
表立っては北朝鮮が仮想敵とされているが、本当に意識しているのは中国なのは明らかである。
中国が武力を用いて台湾に侵攻すれば日米との武力衝突に発展する可能性が高いという前提のもとで防衛力の強化を急ごうとしているわけだ。
だが、その前提は常に揺らぐ。
市民たちの抗議デモで習近平体制が窮地に陥るといった希望的観測に基づいて、中国との関係や軍備増強を決めることは戒めなければならない。
何が起きているのか、この先どう展開するのかを冷静に分析することが、政府にもメディアにも求められている。

