<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 この秋、フジテレビのドラマたちが妙に私の心に響くのはなぜだろう? #221104

北朝鮮が連日ミサイルを発射し、日米韓の軍事的連携が強化される動きが慌ただしくなってきた。

政府は敵基地を攻撃する能力を保有するため巡航ミサイル「トマホーク」の購入を検討しているという。

台湾情勢を含めて東アジア情勢は日に日にきな臭くなってきた。

とはいえ、私はといえば北朝鮮のことはさほど心配していない。

北朝鮮が先制攻撃をすることはまずないだろうと思っているからだ。

今日は、窓辺でのんびりストレッチ。

昨日3時間ほどパターの練習をして凝った腰を伸ばしたり、腹筋運動をしたり、暖かな陽だまりで身体をリラックスさせる時間はご隠居さんの役得でもある。

図書館の本を返すために、武蔵境駅前にある「武蔵野プレイス」まで自転車を走らす。

今日も暖かな秋晴れが続き、自転車を漕いでいると薄着でもじっとり汗をかくほどだ。

旅行関係の本に加え、社会起業家に関する本などを借りる。

岡山の畑の管理を通して、最近無性に、何か社会に役立つことをしたいという欲望が私の中で高まっているのを感じるのだ。

そんな私の心に響いているのが、この秋のフジテレビのドラマたちだ。

私はずっとドラマはTBS派なのだが、今年の10月ドラマに関してはフジテレビが圧倒的に充実している。

正統派のドラマから言うと、月9の「PICU」。

子供を専門で診る集中治療室を舞台にして、正義感あふれる新米医師の奮闘とそれを温かく見守る大人たちの物語だ。

かつてトレンディードラマで一世を風靡したフジテレビだが、「北の国から」や「Dr.コトー」など深い人間ドラマの名作を世に送ってきた。

今回の月9はまさにその系譜にあたる。

吉沢亮演じる主人公の真っ直ぐさは、時に鬱陶しくも感じるが、なんでも物分かりよく妥協してしまう私たち大人に問いかけるものがある。

救いなのは、PICUの責任者である安田顕と主人公の母である大竹しのぶの存在だ。

いろいろな事情を抱えながら大人たちも頑張っている、そんな温かなメッセージが伝わる丁寧に作られたドラマである。

私が今期一番面白いと感じているのは、月曜10時放送の「エルピス〜希望、あるいは災い」。

大好きだった「大豆田とわ子と三人の元夫」の佐野亜裕美プロデューサーが仕掛ける関西テレビのドラマである。

舞台はテレビ局、深夜のさえない情報バラエティー番組だ。

報道局から飛ばされたエキセントリックなプロデューサー、スポーツ局からお払い箱になったやる気のないディレクター、そして不倫スキャンダルで外された女子アナが集まるテレビ局の吹き溜まりだ。

こう書くとちょっと現実離れした脚本になってしまいそうだが、元テレビマンから見ると、細部まで実にリアルでテレビ局のある一面を見事に作品に取り込んでいる。

私もかつて多くの情報番組を管轄する情報制作局の局長を務めたことがあるが、そこは確かにそこは、報道局、制作局、スポーツ局などの主流から外れたスタッフが集まる現場だった。

しかし、彼らは能力が低くて飛ばされてきたわけでもない。

個性的すぎて組織から浮いたり、上司との相性が悪かったりで、異動の対象となったスタッフが多かった。

情報番組というのは、報道や制作と比べても放送時間が長く、硬派なものからバラエティー的なものまで実に種々雑多である。

ある意味、視聴者のニーズに合えば何でもありなのが情報制作局であり、脛に傷を負った個性的なスタッフをまとめて全く新しい番組に挑戦するというのは、報道出身の私にとっても実に楽しい経験だった。

その代わり、人間関係のトラブルも多い。

社員だけでなく多くの社外スタッフも抱えているため、今では大きな問題となっているパワハラやセクハラ関係のトラブルは日常茶飯事で、番組の中身以上に組織運営に神経をすり減らす日々だったことを思い出す。

長澤まさみ演じる主人公は、報道局のエース記者との路チュー写真を撮られ担当していた報道番組を外され深夜の情報バラエティーに異動となった女子アナ。

様々な不満や違和感を日々呑み込みながら働くうちに心身の異常に苦しむようになった。

ある日、一人の若手ディレクターから冤罪事件の取材を持ちかけられたのをきっかけに、プロデューサーなどの反対をよそにこの事件の真相解明にのめり込んでいくという物語だ。

視聴率が悪ければすぐに打ち切られるテレビの世界で、自分のやりたいことと求められることのギャップに苦しむスタッフは多い。

視聴者からは楽しくて面白い番組づくりを求められるが、テレビマンたちは心のどこかに社会をよくしたいという使命感のようなものを隠し持っている。

プロデューサーやその取り巻きだけが盛り上がり大半のスタッフは白けている番組の打ち上げパーティー、惰性の中で意欲的なネタが簡単にボツにされる企画会議、どこかで見たようなシーンが続く。

そんな日常の中で国家権力に異議を申し立てる冤罪取材に取り組むことの難しさはとてもよく理解できる。

しかしメディアである以上、真実の追及、弱者の救済は視聴率以上に根源的な使命なのだ。

ドラマだからこそ描けたテレビ局が抱えるジレンマが私の心に突き刺さっている。

今後の展開から目が離せない。

そしてもう一本。

この秋最も新鮮だと感じたのは、SNSで「泣けるドラマ」として話題になっている木曜10時枠で放送中の「silent」だ。

かつてTBSで放送された名作「愛していると言ってくれ」と同じように、手話が重要な役割を果たす静かなラブストーリーである。

しかし、豊川悦司と常盤貴子主演の「愛していると言ってくれ」との大きな違いもある。

それはスマホの登場であり、LINEや翻訳アプリを使ってコミュニケーションを取ることができるようになった。

ただそれ以上に大きな変化だと感じるのは、登場する若者たちの不思議な関係と行動である。

川口春奈演じる主人公は高校時代に付き合っていた元カレからの音信が絶え、彼の親友と交際するようになる。

とても優しく気遣いをしてくれる新しいカレとの交際が3年が経った頃、突然聴覚を失った元カレが2人の前に現れる。

昔のドラマであれば間違いなくドロドロの三角関係になるパターンだが、このドラマでは全く違う。

元カレは自分の元カノと高校時代の親友が付き合っていることを知って喜び、自分の存在が邪魔にならないよう身を引こうとする。

親友の方も、彼女は自分よりも元カレとの方が幸せになれると考え、一方的に別れを告げるのだ。

奪い合うのではなく譲り合う三角関係、ある意味とても今っぽい。

草食系という言葉が登場したのもずいぶん昔のことだが、今の若者たちは、なぜかとても穏やかで優しい人が多い。

子供の頃から空気を読み、人を傷つけない生き方を自然と身につけているように見える。

自分の欲望を押し付けるのではなく、人から嫌われないように強引な行動を控え、対立する場合には自分が身を引くことを考える。

そんな現代の若者の行動パターンが新たな脚本を生んだ。

別れたくないと言う彼女に対し一方的に別れを告げる今彼の行動は私の世代にはどうしてもピンとこないのだが、今の若者たちには刺さるようでそれが結果的にSNSで多くの支持を得る話題作となったのだろう。

日本人は確実に変化している。

今の若者はひ弱だと揶揄する年寄りもいるが、私は人間として進化しているのだと感じる。

弱肉強食の動物の世界から抜け出し知性と共感する心を手にした人類は、進化するごとに穏やかになり、他者への共感力の強い存在になっていくのではないか。

そんなことを感じさせる私にとってとても新鮮なドラマだ。

シニア視聴者たちは「相棒」などテレビ朝日の刑事ものや医療ものを多く見ているようだが、あんな変わり映えのしないドラマを見ていても得るものはない。

この秋は、フジテレビの上質なドラマを観て、今の若者たちのことを想像してみるのがいいと思う。

<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 フジテレビ月9「ミステリと言う勿れ」オヤジの胸に刺さる言葉たち #220222

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