ハメネイ師に制裁
トランプ政権がまた危ない駆け引きをしている。
今度の相手は、イランだ。
トランプ大統領は24日、ホワイトハウスで記者団に対し、中東のホルムズ海峡周辺で起きた無人機の撃墜やタンカー攻撃に触れ、「最高指導者(のハメネイ師)は敵意に満ちた行為に関して最終的に責任を負う人物だ」と非難した。ウラン濃縮や弾道ミサイルの開発を停止すべきだとして「実現するまで圧力を強化していく」と断言した。
トランプ氏は同日、追加制裁を科すための大統領令に署名した。ハメネイ師のほか、同師直属のイラン革命防衛隊の幹部8人を対象に指定した。国家元首に制裁に科すのは極めて異例の措置だ。
出典:日本経済新聞
最高指導者ハメネイ師は革命防衛隊などに絶大な影響力を誇る。かつてイラン革命を率いた故ホメイニ師の後継者である。
この制裁がどれほどイラン国民を刺激するか、心配でならない。
イラン革命
ホメイニ師の登場まで、イランは中東で最も親米の国だった。アメリカなどの後ろ盾を得てイランの近代化「白色革命」を推進したパーレビ国王は自らボーイング727型機を操縦して亡命し、入れ替わるように革命のシンボルだったホメイニ師がパリから凱旋した。
そしてアメリカがパーレビ国王の亡命を受け入れたことに反発して、テヘランのアメリカ大使館人質事件が発生する。
1979年、私が大学生の頃の衝撃的な事件だった。
トランプ大統領は、限られた知識の中で、ホメイニ以前のイランに戻すことを目標にしているのかもしれない。
そしてトランプ政権の一方的なイラン挑発の背後には、間違いなくイスラエルがいるのだろう。
イスラエルの影
革命以前のイランは、中東諸国の中で最も親イスラエルでもあった。今や反イスラエルの総本山であり、レバノンで活動するヒズボラもイランの影響下にある。イスラエルにとってイランは、アメリカ軍の力によって粉砕してもらいたい最大の標的である。
サウジアラビアもイランと激しく敵対している。こちらはスンニ派vsシーア派というイスラム教内部の宗派対立と盟主の座をめぐる争いだ。そしてサウジもトランプ政権に対してイラン制裁を求めているのだろう。
前のオバマ大統領は、歴代のアメリカ政権とはまったく違うスタンスを貫いた。イスラエルやサウジと距離を置き、イランやパレスチナに寄り添うことで中東和平を模索した。
トランプさんに変わり、これが一気に逆転し、歴代大統領が躊躇していた米大使館のエルサレム移転などタブーを次々に冒しながら、中東の火薬庫にどんどん油を注いでいった。
ボルトン補佐官
そしてついにターゲットはイスラエルの最大の敵イランに狙いを定めた。
それを主導するのがボルトン大統領補佐官だ。
彼が一体何を目指して露骨な挑発を続けているのか、私には理解できない。ペルシャ湾に空母や爆撃機を配備し、戦争の準備を始めている。かつてこのエリアで厄介者だったイラクのフセイン大統領をアメリカの軍事力で打ち砕いたように、今度はイランもぶっ潰そうと単純に考えているだけなのだろうか?
当然、イランは反発している。
イラン側は追加制裁に強く反発する。ザリフ外相は24日、「Bチームが米国の利益もかえりみず外交をないがしろにして戦争をしようと望んでいる」と述べた。Bチームとは、ボルトン米大統領補佐官やイスラエルのネタニヤフ首相ら対イラン強硬派の一団を指す。イランのタスニム通信は米国の追加制裁について「でっちあげの言いがかり」に基づくと批判した。
出典:日本経済新聞
トランプ大統領には明確な世界戦略はないので、ボルトン一派の暴走に押されているようにも見える。
トランプ氏の心中
先日アメリカの無人機がイランに撃墜された直後にも、トランプ大統領は、一旦はイラン攻撃にゴーサインを出し、攻撃開始の10分前に取り消していたと報道された。
ビジネスマンであるトランプさんにとって、戦争は金の無駄遣いにしか見えないのだろう。短期的で一方的な攻撃だけなら、トランプさんの支持層や軍需産業からの支持も得られアメリカ経済にもむしろプラスだが、イラクやアフガニスタンのように泥沼化するとダメージの方が大きくなると考えているのではと想像する。
イランの場合、イラク以上に宗教色が強く、アメリカが圧倒的な戦略で緒戦を制しても簡単に降伏するとは考えられない。泥沼化は必至だ。
「イランとの戦争は望んでいない」というトランプ大統領の発言は本音であろうと私は考えている。
タンカー攻撃の真犯人
それにしても、ずっと疑問に思っているのは、安倍総理がイランを訪問しハメネイ師と会っているまさにその瞬間にホルムズ海峡で2隻のタンカーを攻撃したのが何者かということだ。
アメリカは素早くイラン革命防衛隊の犯行だとして、証拠の映像を公開した。あまりの手際の良さとともに、ハメネイ師に絶対服従の革命防衛隊が何の目的でこの瞬間に危機を煽る行動をするのか理解できないためだ。
タンカー攻撃の一報を聞いて、私は瞬間的にイスラエルによる犯行だろうと思った。アメリカが写真を公開した後でも、イラン兵に見せかけたイスラエル特殊部隊による犯行という考えを捨てていない。
ヨーロッパ諸国でもアメリカの主張を直ちに受け入れたのは、死に体となっているイギリスのメイ首相ぐらいだ。仲介役に意欲を燃やした安倍総理も、イランから帰国後ほとんど目立った動きをしていない。真犯人を特定するには、容疑者が多すぎて断定することができないのだ。
上がらぬ原油価格
トランプ政権は、イランの堪忍袋の緒が切れるのをじっと待っているのだろうか? 貿易戦争で中国を挑発し続けているのと同じ手口にも見える。
ペルシャ湾での危機が高まるとこれまで決まって急騰していた原油価格が今回は上がらない。アメリカがシェールオイルを大増産していることが原因だそうだ。石油の時代はそう長くは続かない。それならば、お金になるうちに自国の原油を売り払ってしまおう。そんなことをトランプさんなら考えるかもしれない。
イラク攻撃も、それを推進したチェイニー副大統領の狙いは石油だった。今回もイランの原油輸出をストップさせておいて、自国のシェールオイル産業を潤わせるという狙いがあるのかもしれない。
これまでのところ、イランがアメリカの誘いに乗らず自重していることが救いだが、それもいつまで持つのやら?
とても、心配である。
トルコも心配
もう一つ、中東で気になるのはトルコの内政だ。
独裁的なエルドアン大統領の地盤だったイスタンブールの市長選挙で、反エルドアン派の候補が当選した。欧米のメディアは、「エルドアン独裁体制の終わりの始まり」と伝えている。
3月に行われたイスタンブール市長選で、反エルドアン派のイマモール氏が勝利した結果を認めず、選挙のやり直しとなった今回の選挙。独裁色を強めるエルドアン大統領に市民が歯止めを掛けることができるかを占う試金石とみられて注目されていた。
この敗北によりエルドアン大統領の求心力が衰えることは確実だろう。
ただ、このトルコでも気になるのはアメリカの動きだ。
トルコが、ロシア製ミサイル防衛システム「S400」導入を計画していることに対して、アメリカ高官がトルコへの制裁に言及したためだ。トルコのエルドアン大統領は、アメリカが制裁を発動した場合は報復すると反発した。
何でも気にくわないことがあると、制裁を発動するこうしたトランプ政権のやり方は、いずれどこかで重大な危機を招くだろう。世界一の強国が好き勝手に暴れ回る世界には、確実に不満が溜まっていく。
マティス国防長官が政権を去り、ボルトン補佐官がトランプ大統領に近づいた。その毒が政権の表面に滲み出してきたようだ。
トランプさんが例の気まぐれで、ボルトン氏を更迭しないと、アメリカの暴走は危険水域に入ろうとしているように見えて仕方がない。
今週大阪で開かれるG20サミットで、何らかなの良い材料が見つかればいいのだが・・・。
当面は、アジアよりも中東に私は注目している。

