<きちシネ>#07 「ラッカは静かに虐殺されている」(2017年/アメリカ映画)

日本では連日、猛暑のニュースばかりだ。

ついに今日は、熊谷で41.1℃という日本での観測史上最高気温を観測したそうだ。それはそれで確かにニュースではあるが、最近日本のニュース番組を見ていても、今の世界はまったくわからない。

まあ、私が報道現場にいた頃も今と大差はなかったのかもしれないが・・・。

そんな軟弱な報道マンの頭を殴られるような映画を観た。

マシュー・ハイネマン監督のドキュメンタリー映画「ラッカは静かに虐殺されている」だ。タイトルからわかるように、ISに支配されていたシリア北部の都市ラッカを扱った作品だ。

 

ハイネマン監督については、メキシコ麻薬戦争を描いた衝撃作「カルテル・ランド」という作品を以前観たことがあり、その時もその真実に迫る姿勢に衝撃を受けた。

ネットでたまたまこの作品のことを知り、渋谷の小さな映画館に観に行こうと思っていたところ、これまたたまたまアマゾン・プライムビデオで配信されていることを知った。私はプライム会員なので、迷わずプライムビデオでこの映画を観たというわけだ。

内容は期待通り素晴らしいものだった。

取材対象は、ISの実態を世界に発信する活動を続けている市民ジャーナリスト集団「RBSS」である。RBSSとは、「ラッカは静かに虐殺されている」の略で、それがそのまま映画のタイトルとなっている。

ジャーナリストが標的とされ殺されているシリアには、海外メディアもなかなか入ることができない。特にIS支配地域からの映像や情報はほとんど外部に出て来ることはなく、一方でISが製作したプロパガンダ映像だけがネット上で発信されていた。

こうした状況の中で、何とか世界から忘れられたラッカの街の現状を伝えようと集まったのがRBSSである。ある者は大学生、ある者は高校教師だった。彼らはスマホで撮影した写真や動画をネットにアップする活動から始めた。中には、広場に転がる首無し死体や柵に掲げられた生首といった残虐な映像もある。しかし、ISはそんな彼らを探し出し、次々にメンバーを殺した。

身の危険を感じた数人がトルコやドイツに脱出する。そして国内に残る複数の市民と連絡を取りながら、彼らから送られて来る情報や映像をネットで公開する活動を続けた。彼らの発信するシリア国内の映像はやがて世界のメディアに転用されるようになり、IS支配地域で何が起きているのかを知る唯一の情報源となった。

しかし彼らの海外でのアジトにもISの影が忍び寄る。SNS上では日常的に脅迫に晒されていた。彼らはアジトを転々としながら、何年にもわたって活動を続ける。

そうした彼らの活動が評価され、2015年の国際報道自由賞を受賞する。受賞パーティーで賞賛されるRBSSのメンバーたち。ただ彼らの表情は硬い。ニューヨークのパーティーとシリアの現実の間の言い知れぬギャップはいくら言葉を重ねても決して埋めることはできない。

この映画の中で、特に印象に残ったシーンが2つある。

1つは、国外に脱出したカメラマンが繰り返し映像を見ているシーンだ。彼が見ていたのは、彼の父親がISに処刑されるシーンだ。RBSSはISにとって絶対的な抹殺対象であり、国外に出たカメラマンを捕まえるのが難しいと判断したISは彼の父親を逮捕し尋問し、ビデオを撮影した。ビデオの中で父親は、「世の父親たちよ、息子を見張れ」と言わされていた。

そして、彼の父親は処刑され、この様子もビデオに収録され公開された。

そのシーンをカメラマンは何度も見るという。「勇気をもらえる」と彼は言った。

私が印象に残ったもう1つのシーン。それはニューヨークの授賞式からドイツに戻ったRBSSの創設者の一人に対しISが殺害指令を出す。ドイツ在住のIS支持者に対し彼の殺害を呼びかけたのだ。ドイツ警察から彼を保護したいとの打診があったが、彼は断った。

「国内では今も危険な状態で取材を続けている仲間がいる。自分だけ警察に保護を受けることはできない」と彼は警察に告げた。

警察署を後にしてアジトに戻った彼はタバコに火をつける。その手は小刻みに震えていた。

やがて、震えは大きくなり、からだ全体に震えが広がった。これが、映画のラストシーンだった。

「ペンで銃と戦う」

言うだけはやさしい。しかし一旦始めたら、敵は全力で潰しにくる。文字通り命がけの戦いとなる。途中で抜けることは許されない。

情報は、武器である。

世界の片隅で撮影された映像が、ネットで瞬く間に世界中に広がる時代だ。

それはISをも恐れさせる威力を持つが、同時にそれは自らの命をかけた戦いとなる。

身につまされる映画だった。

Yohoo!映画の評価3.88、私の評価は4.00。

 

 

 

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